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滝にたたずみ

6月30日。地元の滝の清掃活動に、19名のメンバーが集まった。
こちらの想定をはるかに上回る大人数おおにんずうだ。第1回目としては上々のすべり出しと言える。

先立つ5月、青少年就労支援ネットワークに就職して間もない知人を、「井戸端会議」に招いた。

ちなみに地元の自治会館に、同じ清水とは言え他所よその住民を招くこと自体が極めて異例である。
別にタブーというわけでもないが、もっぱら地元住民が使う集会場という雰囲気があって、これまで”部外者”を想定していなかった気がする。
なんでもない事のようだが、り固まった意識をほぐしていくという意味では良かったかもしれない。決まり切った日常に、多少の変化はあっていい。

「寺子屋」から「井戸端会議」に名称を変えて以来、特定のテーマは決めず”だべりんぐ”の2時間を過ごす。この回に限ってはゲストがいるから、自然とおはつの彼女を囲む形で会話が進む。ひとまず彼女の方から、青少年就労支援ネットワークの仕組みや具体的内容について説明してもらった。

この組織を一言で言い表すなら、職員と100名を超すボランティアによる、「おせっかいクラブ」の様相である。

たとえばある日、引きこもりクン(以降、こう呼ぶ)が就労支援ネットワークの事務所を訪ねたとする。
わちゃわちゃいるおばちゃんたちにいきなり取り囲まれ、質問攻めの洗礼にうらしい。
なんせ会話自体を何年もしていない相談者が大半だから、この意表を突いた攻撃には面食らう。そのショックも冷めやらぬうち、「アンタ、そういう希望があるなら、これから行ってみる?」と、会話の中から浮かんできた心当たりの企業に、その場で連れ出されるという。
心づもりもなく、あわてて拒否を口にするだけのやり取りにも慣れていないから、採用の可否は別として、いきなり企業訪問が実現してしまうのだ。

こういう不意打ちは、意外と効果を上げそうだ。
通常であれば、まずは相談員とマンツーマンで面談し、「では次回、こちらの企業を訪問しますか」とか手順を踏みそうなところだが、その指定された「次回」に再び自分の部屋から出ていく勇気が持てるか、はなはだ疑問が残る。
それなら引きこもりクンが着いてすぐ、馴れないコミュニケーションを否応なく始め、心の準備も整わないうちから社会に一歩踏み出させてしまった方が、よっぽど理にかなっている気がしてくる。
一見いっけん強引だけど、その場に応じたこういう柔軟なやり方って、嫌いじゃない。

「そういう人たちって、環境整備とかでも来てくれるの?」参加者が問う。
「はい、大丈夫です」と彼女。
「オレさぁ、前から滝周辺の掃除、やりたかったんだよねぇ。呼びかけてもどうせ誰も来ないだろうし、知り合いと二人で近々やるかって言っててさぁ。就職とは関係ないけど、来てくれたら助かるやぁ」

その場で、「では参加者を募りましょう」となった。
「どうせなら1回こっきりじゃなくて、月1回定期的にやったらどう?」
他の参加者が提案すると、じゃあその線で、となる。
長年まったく動かなかった案件が、その場のノリで次々進んでいく。

当日は引きこもりクンたちとその関係者、それに「井戸端会議」のメンバーで、滝の遊歩道の清掃を行った。そんな場所に行くこと自体が初めてで、ブロワーを使って葉を散らせたり、冷たい清流に足を浸からせたりしたのが楽しかったと感想をもらう。
「次回もぜひ」と目を輝かす引きこもりクンがいれば、「オレ、もういい」を体中から発散している者もいる。こちらから見ればみんな若くて、かわいい連中だ。

それにもして嬉しく意外だったのは、来るはずのない一人暮らしの高齢男性がやって来たことだ。
このオジサン、老人会の長をやっている。最初は周囲がいくら誘っても顔を見せず、「関係のない自分が好きなとこばっかり行ってる」と顰蹙ひんしゅくさえ買っていた。
股関節を患ってからは杖なしに歩けなくなり、周りからの冷たい視線を感じながら、逆に意固地になっていたふうがある。

閉じていた内面が開かれていくのは、引きこもりクンであろうと独居老人であろうと変わりなく、人の持つ可能性を感じさせてくれる。自分よりかなり目上のオジサンだが、めてあげたくなってしまった。

ともかく始めた以上は、今後も継続していくことだ。
ちなみに次回から、自治会が参加者の昼食を負担してくれることになった。他人ごとが徐々に自分たちの事に変化していくのであれば、お互いやりがいが生まれるってもんだ。
滝のマイナスイオンを体中に取り込み、毎度清々すがすがしい気持ちで臨みたいもんである。

7月7日には、こちらも月1回の「清水いはらマルシェ」を開催する。
先日、青少年就労支援ネットワークの彼女から連絡があり、「1名、お手伝いに行きます」との事だ。
いいね。ノッてくると物事は、ご機嫌にスイングし始めるんだぜ。

イラスト Atelier hanami@はなのす(背景のみ加工)



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