老後の楽しみ
突然、忙しくなった。スマホを開くと、今月のカレンダーからオフの日が消えている。
こんなの久方ぶりで、なんか嬉しい。やっぱ、ヒマより適度に忙しいくらいの方がいいよなあ。
さしあたって行政に対し、オープンカフェを運営するための具体的提案をしなければならない。
9月の補正予算に間に合わせるため、逆算された提出期限は7月中旬になる。我々プロジェクトで骨格を作り、行政が予算という名の肉付けを行う。
もちろん、出せば100%通るなんて保証はないが、出さなければ何も始まらない。こっちは来年度予算に間に合わせる前提で動いていたので、この前倒しには泡を食いつつも、心から大歓迎である。
一応シャバ代、じゃなくて借地料・借家料はもってくれるようだし、店内の改修費や駐車場の確保もしてくれる。カフェに要求される最低限の準備は、提案さえすれば役所の側が対応することになる。
これって、個人で立ち上げる前提であれば、涙ちょちょぎれるほどの好条件だ。開業資金をすべて、行政側で負担してくれるわけだから。
いっぽうで問題なのは、商売をやるのに最も重要な要素の一つ、立地や施設の選択権がこちらに一切ないことだ。正直言って、通りすがりの人が気軽に立ち寄ってくれる場所ではない。飲食をやるには、かなりの悪条件となる。
営業内容にしても、純粋な喫茶店経営を前提というわけにはいかない。
むしろ役所としては、地元の情報発信基地としての機能を重視している。なんの売り上げも生まない公共的な事業だ。
ここに費やされる(人件費を含む)活動資金がいかほどになるか、それをどこまで行政が負担するのか、今の段階では皆目見当がついていない。窓口となる農業政策課にとっても、前例のない試みとなるためだ。
昨日今日と、地元農家の若手世代の人たちが開いている店を訪問した。
農業に関しては、大きいところで言えば国の施策が食料品の輸入依存度を強めているし、主食であるコメを手間ひまかけて作っても、家族を養えるだけの収入に繋がっていかない。
命の源を、これだけ冷遇し続ける国も珍しい。むしろ若い人たちが農家を始めたくなるくらいの政策転換をはからない限り、世界的な食糧不足でも訪れたりしたら、たちまちこの国は干上がってしまうだろう。
農業の行く末に不安を抱き、見切りをつけて独自に動き出した人たちと、対話をしてきた。
そのうちの一軒は、郊外どころか人家もまばらな山間で営業している。店の造りも、どちらかと言えば掘っ立て小屋に近い。内装も自手でやれるところは手作りでやり、100万円かけずに始めたとのことだ。
ウリのパフェを頂く。幅広のグラスに新鮮な果物を敷き詰め、紅茶テイストのソフトを載せて1,000円近い額になる。なんとも強気な価格設定だ。
口に入れると、これまでにない食感に驚かされる。
セットで頼んだアイス緑茶は自家製で、こちらも単品であれば700円程度。グラスに入った氷は同じ緑茶を凍らせたもので、溶けても味は薄まらない。味といい手間といい、並大抵でないこだわりが伝わる。
社長いわく、高い商品を手抜きなしに提供することで、確実にリピーターは増えるという。新東名が開通した影響もあるが、遠く神奈川の辻堂からも、ここのパフェが食べたいと何度も足を運ぶお客さんまでいるそうだ。
「客数を伸ばしたいからと、安直にたこ焼き辺りに手をつけたりしてはダメなんです。不利な立地条件だからこそ、高い代わりに妥協を一切しない商品を提供し続けるべきなんです」
ウリの商品の一つには、従業員のマナー研修もあるという。といってもどこかの「スマイル0円」でなく、店で提供する飲み物やスイーツのストーリーを、20代のアルバイターが語れるまでに教育するそうだ。
「そこまで時間と手間のかかった一品なら、この金額でも安すぎるよね」
そうした一言や満足の思いをお客さんからもらえる瞬間に、やりがいを感じると言う。
これからしばらく、僕は地元が知らない地元のお宝を発掘する作業を続けることになる。
トライアルの期間に、どこまで彼らのように次代を見据えた事業者と知り合い、その魅力を発信していけるか。そこが未来の分かれ目となるだろう。
僕の(そんなに長くもなかろう)残りの人生に、いろいろ楽しめそうな出会いと発見の気配が漂い始めた。
イラスト hanami🛸|ω・)و