you are fired!
「人から悪く思われたくない」心理が相手にあるのなら、それを変えようなどと思わないことだ。
現役時代、対人関係のほとんどはビジネスがらみだったから、僕自身のアプローチを変えていくようにした。「人から悪く思われたくない」人には、好かれる努力をこちらがするのだ。
僕は本社の人間であり、それぞれ契約先に常駐者がいる。
1人のみの現場はほとんどはなく、平均で10名前後、多いところで100名近い契約先もあった。30過ぎて初めてなったサラリーマンで、現場を回る時は自分が一番の新参者である。当然、肩書もない。
皆さんこそが先輩との意識で接し、最初の頃はそれなりに打ち解けた関係が作れたと思い込んでいた。
ところが、相手側の意識はそうじゃないと気づき始める。彼らから見た僕は、あくまで「本社の人」なのだ。新人だろうと平社員だろうと、その場での僕は会社を代表する立場でみられていたのだ。
そんなの当たり前だろうと言われるかもしれないが、なんたって20代は仲間と「共産主義」もどきを実践していて、実社会の経験はゼロである。現場も僕も、同じ「労働者階級」のつもりでいたわけだ。
本社が営業・開拓し、現場がそれを支える。同じ組織の中で、役割分担くらいの意識しかなかった。
ところが現場の皆さんにとって「本社の人」は階級の異なる”搾取”する側(そんな言葉は使わないにしても)の存在であり、それを前提とした関係性を求めてくるようになる。
ある人にとって本社とは、憎悪と要求の対象になる。
「なんでいつまでも給料上げないんだ」
そんなこと、ペーペーの僕に言われても。ひとまず本社と交渉します(わしゃ、労組代行か)。
「オレは(同僚の)アイツより仕事もやってるし能力もある。なんで同じ給料なんだ」
気持ちはわからんでもない。上司に交渉したうえ手当をつけるから責任者になりなさいよというと、「責任は取りたくない」。給料だけ上げろってか。
「お宅の社長(つまりキミの社長でもあるんだが)、全然こっちに顔出さないじゃないか。たまには連れて来いよ!」
”たまに”連れていくと、こういう人に限って何も言わなかったりするのだった。
どうやらこの手の人たちは、事情は分かっていながらも文句だけはつけたいタイプなんだと分かってきた。
実際、利幅のない(契約見直しに応じない)取引先で無理にでも給料を引き上げたことがあるが、これに対して「それっぽちか」と突っかかってくる。この時ばかりは、「無理しなきゃよかった」と思ったねぇ。
ある人にとって本社とは、媚びへつらう存在である。
入社して数年経つうち、係長、課長と昇進していった。それだけの実力があったわけでは決してなく、本社所属が限られていたし、基本給をいじるより役職の手当てで手取りを増やしていく方針だったんだろう。
名刺に「課長」とついただけで、僕のやることに何ら変わりはない。
自分で仕事を取ってきて、自分で現場を立ち上げる。人が足りなければ、自分も一要員として作業するまでだ。
箱根の老舗旅館と契約した際、やはり立ち上げで、人手不足に悩まされた。
採用した中にその道のベテランの女性がいて、僕はこの人について仕事を教わった。
能力があるぶん人使いも荒い人で、不慣れな作業によく怒鳴られもしたが、それでこっちも当たり前と思っている。まずは自分が仕事を覚え、新しく入る人に指導する立場になっていかなくてはと、必死についていった。
だいぶ仕事にも慣れ、人手不足も解消されてきたある日、このおばさんが血相を変えて僕のところにやって来た。仲居さんとの会話の中で、僕の立場を初めて知ったという事らしい。
「か、か、課長さまでございましたか! 知らないこととはいえ、ご無礼致しまして申し訳ありません!」と頭を下げたもんだから、おったまげたのはこっちの方である。わしゃ水戸黄門かい。
なんで中小企業のしがない中間管理職に、そこまで下出に出るのか意味がわからない。さらに分らないのは、たかだか肩書一つでなぜ態度を急変させるのか。その時は謎だった。
相手の立場で考えれば、「課長さま」は従業員に対し、生殺与奪の権を振るえるものだとの思い込みがあったんだろう。「お前はクビだ~」くらい言われるんじゃないかとビビったわけだ。そんなわけあるかい。(明日に続く)
イラスト hanami🛸|ω・)و
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