見出し画像

あなただけよ

バンドワゴン効果は、多くの人がある製品や出来事に対して興味や関心を抱いているのを見て、自身も同じ対象に強い興味を感じるようになる心理的現象だ。
支持者が多い方に属すると安心感を覚えやすいという、大衆心理と言える。

バンドワゴン効果とは真逆で、多くの人が持っていない自分だけのものが欲しいという心理を、「スノッブ効果」と呼ぶ。

スノッブ(snob)という単語の語源に、18世紀ラテン語説がある。
「より低い地位・または階級」の意味が転じて、「優れた社会的地位・または富んだ人々を模倣もほうしようとする人」という意味になったそうだ。
もう一つの説は18世紀はじめのケンブリッジ大学(イギリス)で、「大学内に出入りする大学とは関係のない人々」を指す学生たちの隠語として「靴屋(snob)」が使われており、これが語源であるとするものだ。

スノッブとは、自分が高い地位にあり、他人とは違うことを自慢する人物のを言う。
自身の学歴や教養など振りかざして相手を圧倒したり、権力者に取り入って庶民に威張り散らすようなタイプの人間だ。マンガで言えば、ドラえもんに登場する「スネ夫」のような存在となる。たいがいの人であれば、相手にしたくないタイプだ。

「スノッブ効果」により、自身が他人とは違うことを誇示するために、他人の持っていないモノ、他人が手に入れることができないようなものを手に入れたいと願うようになる。
その結果、高級ブランドの洋服や高級腕時計、高級な香水、高級自動車などの購入に繋がっていく。
「限定品」や「世界で唯一」という希少性は、「人よりも上に立ちたい」「見栄を張りたい」と考える人にさらなる刺激を与えて、より高額な商品の購買に繋がる可能性がある。

社会心理学者ステファン・ウォーチェルは、スノッブ効果の実験を行っている。
この実験では瓶に入ったクッキーを被験者に味見してもらい、その質を評価してもらうという内容だった。

被験者の半数(Aグループ)の瓶には、10枚のクッキーが入っている。もう半分(Bグループ)の被験者の瓶には、2枚しか入っていない。
この時、Bグループの方がクッキーの商品としての魅力・価値を高く評価した。希少性の原理によって、たくさんあるうちの1つよりも、2つのうち1つの方が値打ちが高いと判断されたためだ。

Bグループの被験者たちの中に、先にクッキーが10枚入っている瓶を出されてから、2枚しか入っていない瓶に変えられたグループがあった。
食べる前にたくさんあったクッキーが減ってしまうのを見ていた彼らは、最初から2枚しか入っていない瓶を与えられた人より、さらにクッキーを高く評価したのだった。

この実験で、ある被験者には「別の被験者が思いのほかたくさんクッキーを食べてしまったため」という理由が伝えられ、またある被験者には「研究者側のミスで誤った瓶を渡してしまったため」と伝えられた。
その結果、前者の需要によってクッキーの枚数が少なくなったと伝えられた人の方が、後者のミスによる取り替えと伝えられた人よりも、クッキーを好意的に評価している。

この実験により、人は数が少ないものを欲し、さらにそのものを手に入れるための「競争」が生まれた時、最もその対象が欲しくなることが判明した。

街中で同じ服やアイテムを身につけている人を見かけた時、「恥ずかしい」と思ってしまう心理や、「地域限定」「数量限定」といった売り文句の商品に魅力を感じてしまう心理。
「他者との差別化を図りたい」「自分だけの特別感が欲しい」という心理が、消費行動につながるのだ。

マーケティング戦略の1つとして用いられるスノッブ効果として、ECサイトや街中で「期間限定」「会員限定」などと謳った商品がある。

旅行先で「地域限定販売」とうたわれた商品が置いてあると、「ここでしか買えない」「旅行に来た人しか買えない」というイメージを客側が持ち、購買意欲が高まる。
たとえば、「ハローキティ」などのご当地キーホルダーが人気なのは、スノッブ効果によるものだ。
その地域に住んでいる人にとっては「周囲の人も持っている」「いつでも買える」ため、こうした商品に魅力を感じることはないはずだ。

「世界に1つだけの、あなたに合った枕を作成しませんか? (5名様限定)」これが単純に「あなたに合った枕をお作りします!」と書かれただけであれば、あまり希少性を感じることはないはずだ。
「世界に1つだけ」「〇名様限定」といった文言が加わることで、「持っている人が少ない」イメージから特別感を覚えたり希少性を感じたりすることで、購買意欲は高まるのだ。
「世界に〇個だけ」というワードは、スノッブ効果を高めるキラーワードになる。

スノッブ効果をマーケティングで有効活用する際には、「売りすぎ」「広めすぎ」に注意する必要がある。スノッブ効果を活用するうえで重要なのは、購買者の「他者との差別化を図りたい」「自分だけの特別なアイテムが欲しい」という心理だからだ。
「この商品は1日100個は売れるだろう」と考えても、「あえて10個しか販売しないことで、希少性を演出しよう」という判断も重要になる。
スノッブ効果を維持し、最大限活用するためには、販売個数や販売時期を適切に制限する必要があるのだ。
(次回に続く)

イラスト Atelier hanami@はなのす

いいなと思ったら応援しよう!