古い記録
台風の影響から全ての予定が吹っ飛び、3日間家に閉じこもっていた。
何本か映画を観て、どれも違った意味で面白かった。というか、観始めてすぐやめてしまうものも幾つかあり、最後まで観れたということは、僕にとって面白い作品だったからである。
ひと昔前は、テレビ放送された映画をBlu-rayディスクに録りだめしていた。今だとアマゾンプライムがあるし、画質さえ気にしなければ、YouTubeに良質な昔の邦画が上がっている。とりあえずでも保存しておこうという意識は、皆無になった。
10代の頃のFMエアチェックと同じく、いったんコレクション化を始めると見境なく録画しまくる。Blu-ray1枚には平均6作品を収録できる。それが20枚収納のケースにして20箱近くある。
「いつか観るだろう」と録っておきながら未視聴の映画は、千本を軽く超える計算になる。
アホである。残りの人生費やしても、とても観きれる量じゃない。
こういうのは本当に観たいんじゃなく(本当に観たいならそのとき観ているはず)、Blu-rayの枚数が増えていくのが、単純に嬉しかっただけかもしれない。
ふとBlu-rayを収めたケースを引っ張り出し、何か観ようという気になった。
白い盤面に印字したタイトルを見るだけで大概はどんな映画かわかるが、マイナーなヨーロッパ系だと、今では全く想像がつかないのもある。
せっかくの機会なんだからそっちの方面から選べばいいものを、以前なら苦もなく選んだシリアス系や社会派ドラマの作品は、胃にもたれてどうもいけない。
9時間31分かかる「人間の條件」など食指が動きかけたし、監督(小林正樹)も役者(仲代達矢、新珠三千代)も音楽(木下忠司)もみんな好きなのだが、気力体力が続かず見送りにする。
この作品、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)による日本人に自虐史観を植え付けるための言論思想統制(War Guilt Information Program)期間中であったため、中国人への弾圧やらソ連からの侵攻を許した満州国やら、悪いのはみんな日本軍的に描かれている。
それだけであれば反日プロパガンダ映画に思えるが、決して共産主義思想や左翼作品ではなく、人間の高い倫理性が描かれていて見ごたえがある。
せっかくであれば日本陸軍の不条理だけでなく、シベリア抑留という名の、大規模かつ組織的な拉致事件の側面に光をあててもらいたかった。
シベリア抑留は当時のソビエト連邦(現ロシア)による、国際法としても、ポツダム宣言(日本への降伏要求の最終宣言)にも違反した重大な人権侵害である。
57万人もの日本人が極寒の地に強制連行され、非人道的な扱いを受けながら強制労働に従事させられ、5万人の方が命を落とされた。
「戦争反対」を唱えるのはいいが、隣国の卑劣で鬼畜に悖る行いを、戦後生まれの僕たちがどれだけ理解しているのか。
ソ連といえば1941年4月に締結された「日ソ中立条約」を突如破り、日本がアメリカに降伏することが分かっていた6日前の1945年8月9日 、約150万人の大軍を動員して対日参戦を宣言した国である。
8月15日、ポツダム宣言を受諾した日本に対し、ソ連軍は火事場泥棒のように日本の領土を奪わんと、国境の島に攻め入ってきた。
武装解除していた日本兵が命を賭して抵抗しなければ、北海道は現在、ロシア領になっていたはずだ。
第5方面軍司令官の樋口中将は陸軍きってのロシア通と言われ、杉原千畝と同様、多くのユダヤ人を救った人道主義者だった。
樋口中将はソ連ならこの機に乗じて攻めてきてもおかしくないと考え、戦闘開始を即断したのだった。
樋口中将の素早い的確な判断によって、日本は分断を免れたと言っても過言ではない。
家族と再会する夢を捨て、日本の未来の「防波堤」となるため玉砕を覚悟された先人を思うとき、どれほど世界が悪意に満ちているか、僕たちはこれまで表に出てこなかった史実から学び直さなければならない。
横道に逸れたのは、今日見たnoteの中に、シベリア抑留で命を落とされた(執筆者にとっての)大叔父様の記事を読んだからである。
こうした皆様のおかげで、そして生きて帰還された方々の努力によって、焼け野原となった国土はわずかな期間で、奇跡の復興を成し遂げた。
まだそれは、79年前の出来事である。当時少年兵で、今もご存命の方がおられるはずだ。
命を賭して日本を護って頂いた先人に対し、僕たちは今も恥じぬ国と、はたして胸を張れるのか。自問せずにはおれない。
そこで話を戻せば、この流れからして久々に観た「知りすぎていた男」は、いくらんなんでもないだろうと思う。ドリス・デイの歌、やっぱうまいなぁって改めて思ったけど。
「パンデミック・アメリカ」という、2006年のテレビドラマが面白かった。つーか、あんまりにも現実を先行しているようで気味が悪い。
武漢のウイルスに酷似したハデス・ウイルスが、世界の異なる場所で同時発生する。アメリカ政府が極秘に開発を進めていたウイルスがイスラム系テロリストの手に渡り、無差別テロが画策されるというものだ。
物語は、ウイルスというより暗躍する影の組織をメインとしたものだが、キミはファウチ博士かヒラリー(ここではアメリカ初の女性大統領役)か、はたまたファイザー社かといった具合に酷似するキャラが登場し、未来の出来事をフィクション仕立てにしたのかってくらい、符合する部分が多い。
主人公・陸軍伝染病研究所主任科学者スミスが登場するシーンで、すれ違う人から「中国の広州でお会いしましたか?」と尋ねられるシーンなど、伏線かと思いきやその後一切出てこないのが、かえって不気味すぎる。
実際のパンデミックの10年以上も前にこんな映画があったんじゃ、どれほど「陰謀論」がささやかれても不思議じゃないわな。
amazonで中古DVDが100円で出ていたので、ご興味ある方はどうぞ。
(次回に続く)
イラスト Atelier hanami@はなのす