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勝ち馬に乗る
子供の頃からどうしたわけかマイナー志向で、「本当にいいものは広く認知されない(売れない)」みたいな固定観念の中で生きてきた。
別にルサンチマンというわけでもなかったはずだが、流行りのファッション・グルメに飛びついた経験がなく、周りが時代に染まっても無関心なままで平気だった。
男の趣味と言われる車や時計にハマったこともなく、そういえばディズニーランドに行ったこともない。
現役時代、付き合いや接待で夜のお店を訪れても、何が楽しいんだかチーっともわからない。幸い仕事がBtoB(企業間取引)だったから良かったものの、これが店頭販売でもしようものなら、消費者の心理なんてさっぱりわからないから、営業成績は惨憺たるものになっていただろう。
そういえば、マハラジャ(1980年代のバブル期を象徴するディスコ)には一度だけ行った。これだって踊るためじゃなく、イギリスのインダストリアル系バンド「キャバレー・ヴォルテール」のライブが目的だ。大貫憲章から「自分たちが暗いと自覚しているだけマシ」くらいにくさされたマイナー・ロックである。
ちなみにこの日のマハラジャは空調がまるで効かず、収容制限をはるかに超えているであろう客の二酸化炭素の濃度と相まって、意識が朦朧とした。
おまけに通常の営業と勘違いして入場したリーゼントのアンちゃんが、突っ立ったままの聴衆に対し「お前らナニやってんだ!踊れ踊れ~!」とアジり、周囲が仕方なくキャバレー・ヴォルテールで踊るという、カオスな光景も展開されたのだった。
後日この時のライブがレコードになったが、演奏聴くどころじゃなったから買わんかった。いま聴くと、ちゃんとキャバレー・ヴォルテールしてるじゃないか。
齢62歳の凝り固まった価値観を今さら覆すのは容易でなかろうし、付焼刃で違うことをしようとして、果たしてうまくいくもんだろうか。
わかっちゃいても、必要に迫られればやらなきゃいかん事もある。もともと人間の心理に関しては興味があったし、それを小さなお店の集客に活用できんかと、今さらながらお勉強をしてみようと思う。
そんな初歩の話、言われんでも知っとるわいと思われる方もおられようが、もし皆さんが飲食店に入るお客様の立場だとして、なぜその店を選ぶのか、どのような仕組みで自身の心理が誘導されていくのか、逆の立場から見てみるのも一興だろう。
誘客の心理テクニックはさまざまな種類があるようだが、その中でも代表的なのが「バンドワゴン効果」だ。
バンドワゴンとは、行列の先頭にいる楽隊車のことだ。
賑やかで人目につきやすいバンドワゴンを見ると、人は「何か良いことが起こりそう」と思う。バンドワゴン効果という呼び名は、ここからきている。
たとえば、行列ができるラーメン店Aと人が疎らなラーメン店Bがあった場合、Aの方に興味をそそられる人が大半のはずだ。
SNS発信においても、インフルエンサーと呼ばれるフォロワー数の多いアカウントからの発信には、「これだけ影響力のある人が紹介しているのだから、よい商品に違いない」と思わされてしまう。
「この商品は10,000個売れました!」「100万人が利用しています」などと記載されていると、まったく興味のなかった商品でも、思わず取り寄せてしまったりする。
これは「みんなが使っているから、きっといいものだろう」という、バンドワゴン効果が働いた結果だ。
選挙においては、事前世論調査の結果が本選挙に影響を与える。
マスメディアの選挙予測報道などで、優勢とされた候補者に有権者が投票しがちになる現象を指す。いわゆる、「勝ち馬に乗る」というわけだ。
特定の候補者を支持していない場合、どうせ投票するなら勝ち馬に乗っておこうという心理が働くこともある。
選挙演説に多くの人が集まっていると、「著名な人物が演説をしている」と勝手に思い込み、さらに演説を見る人が増える。バンドワゴン効果を狙い、政党が党員に動員をかけるのは、こうした理由に拠る。
広告においてよくみるキャッチコピーは、以下のようなものだ。
「売上NO.1!」「利用数◯◯万人突破!」「業界シェア1位!」「○○の世代に大人気!」
これらすべてのキャッチコピーは、どれほど商品・サービスに人気があるかを証明するためのものだ。
このような宣伝文句を目にすると、多くの人が「そんなにすごいものなら自分も試してみようかな…」と思わされてしまう。人々の購買意欲を刺激するのだ。
恋愛やファン心理においても、バンドワゴン効果は確認できる。
たとえば著名な芸能人は、「人気がある」という理由だけでさらに人から注目されることになる。
他の人が好きな異性のことが気になるのも、バンドワゴン効果の一種だ。
多くの人から関心を集めたいと考えるなら、自分に人気があることを周囲に対してアピールするのも効果的とされる。
投資の世界では、株価が高騰して注目度が高まっている銘柄は、それだけで多くの興味・関心を集める。ニュースなどで話題になる企業の株も、バンドワゴン効果のおかげでさらに株価を上がる傾向が見られる。
以前はさほど注目されていなかった暗号通貨への投資だが、SNSで取り上げられるとたちまち価格が高騰した事例だってある。
世の中の至る所で、意識しようと無意識であろうと、バンドワゴン効果は影響を与えていることになる。
ただ冒頭申し上げたように、そういう心理が比較的働かない僕のような人間も、少なからず存在するはずだ。
バンドワゴン効果にも、デメリットはある。
(次回に続く)
イラスト Atelier hanami@はなのす