移動スーパー、これからどうなる
我が山間地区には、移動スーパーが毎週決まった時間にやってくる。
「移動スーパーT」と、「移動販売スーパーH」の2店だ。
移動スーパーは住んでいる周辺にスーパーやコンビニエンスストアが少ない(無い)地域を定期的に訪れ、食料品を中心に販売している。
軽トラックに食料品を300~400品目積み込み、冷蔵庫も完備していて生鮮食料品にも対応している。
原則、週に2回同じルートを巡回し、自宅前や公民館、集会場、施設など、ニーズに合わせあらゆる場所へ出向く。
「T」は最近、免許証を返納した独り暮らしの女性が自宅の駐車場を提供し、ご近所の人たちがその時間に訪れるようになっている。
「H」は自治会館のS型デイサービスが終わる時間帯に、帰宅前のお年寄りをターゲットに販売をしている。
自分のスタイルに合わせて利用できる柔軟性があるし、ルート販売員と顔見知りになることでコミュニケーションを取ることも可能だ。
過疎化から、それまであった近くの商店が廃業したり撤退したりしている。
足腰が弱くなり買い物に出かけられない「買い物弱者(65歳以上)」は、全国に約700万人以上いるとされている。
加速化する全国の「買い物弱者」の救世主となるべく、どちらも全国的な事業展開を進めているわけだ。
問題は、需要と供給のバランスになる。
「T」も「H」もフランチャイズ(本部企業と加盟店が契約を結び、加盟店が一定の対価を支払うことで本部企業のノウハウやブランド力を活用して事業を行うビジネスモデル)のスタイルで、こういうのはどこも、元締めだけは損をしないシステムになっている。
昨年初め頃、まだ健在だった地元広報紙のヒロシ編集長企画により、2社の地元加盟店を取材した。
「T」の方は販売している風景を写真に収め、雇われている販売員さんのコメントをもらった程度だが、「H」は加盟店契約をしている事業主の方に、直接話を伺った。
ちなみに以下のデータはネットから拾ったもので、ご本人は一切具体的な話しをされていない。愚痴も一切こぼしていなかったことを、予めお断りしておく。聞いている僕の方がこりゃキツいと感じ、紹介したくなったまでだ。
まず、移動スーパーの開業費用だが、平均350~400万円が必要になる。
具体的には、車両購入費・改造費、設備購入費、仕入れ費、資格取得費、広告費、出店料などとなる。
月々の運営費には、10~20万円(車両費の月々の支払い、ガソリン代、保険代、仕入れ費など)が必要になる。
特に、ひたすら低温を保たなければならない冷蔵庫の燃費は相当な負担らしく、今夏の長い酷暑はいかばかりだったろうか。
たいがいは個人事業主が一人で賄っていると思われるが、この加盟店の場合は後述する事情から、社員が担当している。上記に人件費が加わるのだから、相当な売り上げがなければ成り立たないはずの事業だ。
「H」の場合、決まったスーパーから生成食料品を仕入れる。僕がビックリしたのは卸値でなく、店頭に並ぶ価格そのままに買うのだという。
行く先々の要望があった分だけ購入するわけじゃないから、売れ残りは当然発生する。もちろん、返品は利かない。
「それ、どうするんですか?」「我が家で消費します。豚(のパック)が全然売れないと、しばらくは毎日肉料理ばかりです(苦笑)。自分で献立を考える自由が、ウチにはないんですよ」と笑っていた。
おそらくはそれでも追いつかず、廃棄するしかない食材も少なくないだろう。
仕入れた価格に対して、とうぜん何パーセントか乗せて販売するわけだ。
しかしキャベツひと玉、税抜きで400円する時代である。これに消費税が加わり利益分を乗っけたら、最低で500円以上にはなる。
500円のキャベツを買おうと思える年金生活者が、一体どれほど見込めるというのか。
「おたく、高いわねー」などと、よく言われるそうだ。切ない話である。
理屈から言えば、高い足代(バスやタクシー)がかからず、重い荷物を家まで運ぶ負担もないのだから、数品買って合計がスーパーより数100円高かろうと、相当に割安な理屈である。
しかしそこまで頭の回る年寄りばかりとは限らず、これだけ物価が上がれば目の当たりにする金額に、財布の紐も締まろうというものだ。
売る方は儲けるどころか慢性的な赤字で、「ボランティアの気持ちでいないと、心が折れますね」といった状態である。
「だったらフランチャイズはやめて、自分たちの事業としてやった方がよくないですか?」
「それが5年契約なもので、その間は勝手なことが出来ないんですよ。期間が終わってこの状態が続くようなら、考えなきゃいけませんよね」と弱々しくため息をつかれた。なるほどねぇ。一度手にした上客は、簡単に逃がしませんよというわけだ。
でも、卸値で買える提携店もないなら、それを上回るノウハウなんて他に何があるんだろうって、素朴に思ってしまった。
あれから2年近く経つけど、あの事業主さん(正確にはその奥さんで専務)どうしているだろう。
そもそも、何で移動スーパーを始めたかっていう話なのだが、こちらの本業は新聞販売業なのだ。年々左肩下がりの売り上げの中、社内副業として考えたのが、この事業だったという。
(次回に続く)
イラスト Atelier hanami@はなのす