見出し画像

凡人の踊り

一昨日、「清水いはら道の駅プロジェクト」スタッフの紹介を受けお会いした女性から、「私、普通の主婦しかしてこなかったもんですから」と挨拶をうけた。
謙遜の意味はもちろんあるだろうが、「普通の主婦」を平凡な女性の生き方と思っていらっしゃるのは、間違いない。

とついだ先が隣接市りんせつし焼津やいづで、ご主人が営む酒屋さんをサポートしてきたという。
やがてお子さんが巣立ち、そこまであくせく稼ぐ必要がなくなると、旦那さんは趣味のワイン専門のお店に模様替えする。

時間が空いた奥さんは、実家のある庵原いはらに毎日通い始めた。高齢のご両親に代わり、農園を管理しているという。
「主人はワイン専門店。私も自分のやりたいことやっていいよとなって、自分が作った野菜を販売できないか、ずっと考えていたんです。その時(プロジェクトの)スタッフ募集のビラを見て、地元の友達に訊いたら紹介してくれるってなって」

「でも、葉物や根菜類をそのまま売っても、大した利益になりませんよね。私、それをお惣菜そうざいにして商品化できないか模索中もさくちゅうなんです。それで(プロジェクトの)スタッフになっていれば、将来「道の駅」が出来たとき優先的に出店させてもらえるんじゃないかと思って」

今日日きょうびの「普通の主婦」というのは、これくらいの構想を練るものらしい。普通の主婦、恐るべしである。

実は三日前、道の駅トライアル事業のための補正予算取りが内定した。
議会を通過しない限り決定とはならないが、満額回答は微妙でも、今年度中にオープンのめどが立ったことになる。
今までの行政のスピード感からすれば驚異的な速さで、優に1年は前倒しでスタートすることになる。

その詳細はいずれの機会につづるとして、スケジュール的にも金額的にも、予想されたこととはいえ相当にシビアな内容だ。
これから半年余りかけて、一つ一つをいかに切り詰めるか思案しながら、しかも多方面の準備を始めなければならない。
そしてこのトライアルでコケたら、僕たちが目指す「道の駅」は実現しない。

今後コンタクトをとっていくべきは、地元に数多あまた存在する「普通の主婦」たちになる。
彼女たちから「普通」という思い込みを取り除き、内なるパワーを顕在化させれば、「普通の男」の出る幕など逆になくなるはずと思っている。

そうした時にこの紹介はタイムリーだったし、ギアがかみ合い、少しずつ回り始めたことを象徴する出来事かも知れない。

農業こそ、日本がいの一番に取り戻さなければ民族の”誇り”に違いない。
高齢化と担い手の不足、耕作放棄地の増加、TPPによる価格競争の激化、新規就農に掛かる初期費用と望めないリターン、食料自給率の低下、そして食を守ることこそが国防と捉えられない政府の希薄な意識が、世界に大事が起こったとき、即国民を飢えさせる環境を形成している。

種子法しゅしほう廃止とほぼ同時に成立した農業競争力強化支援法では、「地方自治体などの公的機関は民間企業と対等の条件で競争せよ」と規定されている。
地方自治体の種苗しゅびょう事業も独立採算性が求められ、中山間地などのために作っていた市場の小さな種苗しゅびょうは、この競争条件の中では生き残ることができなくなる。これなど、とんでもない話である。

種子は地域ごとの土や気候を記憶して、次の世代に伝える役割を持つ。地域の土や気候に合った種子は農家が自家採取することで生まれ、地域の文化の基盤を形作るものだったのだ。
政府の打ち出す施策はかくのごとく、国の農業を破壊しようとしているかにしか思えない。

日本の繁栄を願うとき、僕たちは失われた”誇り”を一つ一つ取り戻していくしかすべがない。それは食であり、米や野菜を生産頂く農家の皆さんへのリスペクトであり、本当の意味での女性活躍でなければならない。

人口の多数を占める「普通の主婦」たちが、自分たちが目指す小さな事業を”普通”に始めた時、日本の歴史に大転換が起きるかもしれない。

盆踊りが近づくこれからの季節、平凡な女性たちが活気づいて一斉いっせいに市場で踊りだせば、それってとってもええじゃないか。

イラスト Atelier hanami@はなのす

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?