今日もお疲れさん
動画を撮るようになって、再びテレビドラマを視るようになった。
数年前までとんとご無沙汰で、かつてBS正月特番の再放送でハマったテレ東『孤独のグルメ』だけは視たいのに、当時の地元局では数か月遅れでの放送。季節感がずれていて、何だかなぁの感じだった。
それがTVerの充実から、ほぼリアルタイムで視聴できるようになる。地上波キー局として最も小規模なテレビ東京は、低予算ゆえの配役や工夫に富んでいて、面白い視点のドラマが少なくない。
50歳を過ぎた原田知世が主演の『スナック キズツキ(2021年秋放送)』など、酒を置かない時代遅れのスナックが舞台である。「知らぬ間に」人を傷つけ、それ以上に自らも傷ついた人だけがたどり着ける、路地裏の店だ。
異界の扉を開けると、スナックのママでどこかミステリアスな雰囲気をたたえたトウコ(原田知世)が、「今日もお疲れさん」と出迎える。孤独な魂を、ひっそりと包み込む。
カウンターを隔て来店客と向き合う映像なんか、個人的な思い出も重なりもうたまらんわけである。
フィンランドの首都ヘルシンキや村上春樹『ノルウェイの森』がテーマとなる回もあって、「それ、それ!」の世界観に嬉しくなる。
初めて知世ちゃんのファンになってしまった。ワシ、この店行きたい。
ひとつだけ文句があるのは、最後の数話でトウコの過去が明らかになっていくことである。トウコはあくまで異界の人のままでいてほしかった。
全12話の終わり方からしてシーズン2は望めそうにないが、そこをなんとかテレ東さん、練り直してやってくれんもんだろうか。
『スナック キズツキ』には、シネマティックな動画の手法が用いられている。
まず、被写界深度(ぼけ)といわれる、被写体と背景を綺麗に分離したショットが多用され、いわゆるエモい映像になっている。
これが通常のテレビ番組だと、手前も後ろもくっきり映っているはずだ。バラエティなどで、司会者の後ろのひな壇に並ぶ面々がぼやけてしまっては困るだろう。テレビでのシネマティックな動画は、古くて新しい手法なのだ。
被写界深度が浅いほど、人物はくっきり・バックがぼんやりとした雰囲気ある映像に仕上がる。個人的にはとても好ましい。
フレームレートがおそらく、適度なモーションブラー(動いている被写体をカメラで撮影した時に生じるぶれ)が得られる24fpsである。
フレームレートとは、1秒間に何コマの画像を撮影・表示するかという意味になる。 Frames per secondを略して、fpsと表記している。
秒間24コマなら24fps、秒間30コマなら30fps。
映画では24fpsが不変で、アニメ映画もこれに準じている。
つまり少しずつ異なる絵を動画フィルムに撮影し、1秒間に24枚を連続させることで、動いているように見せているのだ。
これまでテレビ一般は30fpsが主流だったが、最近では24fps撮影と思われるものも少なくない。
色の雰囲気で世界観を表現したり観客の感情をコントロールしたりする、カラーグレーディングが重視されている。
現実にはない色合いにあえて調整することで、作品独自の世界観を視聴者に与える事が出来る。
こういう映像は撮る側としては理想的だが、みる側にとってはどうなんだろう。
カラーグレーディングなどやり過ぎて、見づらいなぁと思わせる作品も散見される。『スナック キズツキ』は、そういう面からも秀逸な出来と思われる。
再放送を待つもよし。今はさまざま見れる媒体もあるから、機会があればどうぞ。
イラスト hanami AI魔術師の弟子