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スイングしなけりゃさせるまで

本来であれば「道の駅」は、道路計画課の管轄になる。今回は市長の意向が「小さく始め大きく育てる」にあったため、農業政策課が我々の窓口になった。

当然彼らは、過去に「道の駅」に関連するもろもろの案件に関わった事がない。「道の駅」を所管する国土交通省とは、全く管轄の違う組織だからだ。
行政窓口なりにトップの意を汲んで動いてきたのだろうが、経験のない彼らにとって、当初から読み違いがあった。
トップとしては、この小規模な期間限定事業が「道の駅」構想につながるはずもないという判断だったのだ。
こちらとしては話がまとまった上で提示された内容とばかり思っていたが、両者をつなぐはずの彼らの独り相撲だったことになる。
8月の段階で提案を撤回し、「仕切り直しで予算要求します」となった。

結局、どうなるんだろう。すべて白紙に戻るのかね。
気をもんだ末、9月に入り何度目かの打ち合わせを行う。

結論として「道の駅」トライアル事業ではなく、地元情報発信施設としてならよろしいと、トップの了解を得たそうだ。ついては我々の組織を「清水いはら道の駅プロジェクト」ではなく、(実態は同じでも)新たな組織を立ち上げ、そちらと契約したいと言う。
要は「道の駅」という単語を、使ってくれるなというわけだ。

単なる地元情報発信施設となると、予算的に我々が希望する数字はとても取れない。改修費や看板代、JAに支払う家賃・光熱費、日にち限定のバイト代はみるから、あとはそちらで工夫してやってくれとなった。

確かにオープンカフェを提案したのは我々の側だが、営利というよりは地元の関心を引くためのいちツールの感覚でいた。場所的に集客を期待できるところではなく、むしろかかる経費の大部分は広報活動費になるはずだ。
地元企業や各自治会など地道に回り、「道の駅」実現に向けた認知の向上と熱を上げるための活動が必須で、それは非営利の分野だから、動くほどに出費のみがかさむ。その経費がない。

そもそもズブの素人集団が、客の入りが期待できない場所でカフェを始めて利益を生むなど、非現実的な話である。広報活動に回せる資金をねん出するなど、努々ゆめゆめ想像もできない。
言われたとおりに企画・提案し、最後に梯子はしごを外された(あるいはお茶を濁された)と感じる関係者がいても、無理からぬことだ。

行政側の態度も、明らかに変わった。
「道の駅」トライアルを想定した段階では、オープンカフェでの日々の実績報告を要求するとし、目標売上額も設定されていた。
各種アンケート調査や月ごとの活動報告を義務付けることに加え、お役所らしい定期的なレポート提出もにおわされた。

それが今回、単なる地元情報発信施設に目的が変わったのだから、必要な日数と人員が割り当てられていれば、細かい報告までは必要ないという。
口にはせずともとりあえず2年半やらせてみて、相手が根負こんまけしたらそれで「道の駅」の話はおしまいね的な雰囲気が、ありありなのだ。

もっと面白いのは、この条件で進めるかをはかった時の、事務局の対応だ。
吞まなければ「道の駅」構想自体が消滅するわけだから、受ける事に異議はない。じゃあ、そのための新たな構成員をどうしますか?となったら、皆さん下を向いたまま手を挙げる人がいない。
ちなみに理事長だけは即決だ。「アンタやって」
「いいですよ」と僕。

どうせ、そのつもりでいた。どう考えても、(能力とかじゃなしに)他にやる人がいるとは考えられない。
おっしゃあ。ここからまずは自分の人件費分くらい、稼ぐつもりでいくぜ。

行政と個人との契約が不可であるため、任意団体(人格のない社団)を立ち上げる必要がある。そのためには、数名の理事が必要だ。それに実務的にも、僕一人ではとうてい不可能だし。

誰か、やってくれる人~?   シーーーン
あれ?皆さんが10数年来関わってきた誘致運動が、「道の駅」という名前は使えないにしても歴史的一歩を踏みだそうって時じゃない。どうしちゃったのかな~。

別に、役所や関係者をクサそうなんて気持ちは毛頭ない。
今までは遠く頭のなかだけにあったものが、一部具体化しそれが自分たちにとって負担になると感じた瞬間、しり込みしたに過ぎないのだろう。それってまるで、本気じゃなかってことだよね。
裏返せば今回の市長の判断は、極めて適正であったと言える。

「道の駅なんて本来、市が考える仕事だろう」「行政がやらないからこっちから働きかけてきたのに、これ以上のこと要求するなんてお門違いだ」
その通りの表現でないとしても、似たような意見をこれまで何度となく聞いた。要望はしても参加はしないという個々の漠然とした思いが、そこに集約されているように感じる。

その意識のまま「道の駅」が実現したとしても、地元の利益になるものはほとんどないはずだ。
雇用が生まれる? どこに仕事にあぶれた現役世代がいるのか。
いっとき高齢者が雇われたとしても、続く人材がなければいずれ他所よそから流入してくるだけのことだ。
農家を活性化できる? 運営を担う民間企業が地元に求めるのは、客寄せを目的とした格安の生産物だ。労を多く、得るものの少ない結果になるのは目に見えている。

他人任せのままでかえってくるものだけを期待するのは、虫が良すぎるというものだ。むしろこの小さなスペースを好機ととらえ、どれだけの成果を生んでいくか、考えるべきだろう。

さてこそ。
スタート切るなら文句は言わんと、スイングしなけりゃさせるまでだ。

イラスト Atelier hanami@はなのす




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