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日本沈没

中国は世界最大の石炭消費国であり、今後もそれは変わらない。
2022年7月時点、世界全体の石炭火力発電所に占める中国の割合は約54%。そのさらなる拡大が、計画されているからだ。

中国が2060年までに目指すネットゼロの目標など、絵にいたもちである。
中国の炭鉱たんこう開発計画は世界で最も多く、見込まれる排出量増加分は、その他世界の合計増加分を上回る可能性が高いと予測されている。

これまで建設許可が下りている化石燃料発電所による総発電容量は、197ギガワットに上る。
これは中国内で稼働中の総発電容量の18.3%、世界全体の54%に相当する。2021年に稼働を開始した新規石炭火力発電所の発電容量は26.2ギガワットで、その他各国を合わせた新規発電容量を35%上回っている。

世界全体の石炭火力発電容量は2021年に2089ギガワットと、横ばいで推移している。
石炭火力発電所の閉鎖が加速的に行われている欧州と米国では、新規建設は一切計画されていない。
ところが中国における稼働中の石炭火力発電容量は、7月時点で1111ギガワット。世界全体の51%に相当する。
そして中国は、石炭火力発電所を閉鎖する具体的な期日について一切発表していないのだ。

石炭の生産量増強を計画している世界上位10社のうち、5社は中国企業になる。
中でも中国神華能源チャイナ・シェンファ・エナジーは、既存の生産量の9.6%に相当する3700万トンの増強を計画している。次に規模が大きい中国中煤能源チャイナ・コール・エナジー・カンパニーによる拡張計画では、20%増に相当する生産量3100万トンの新規炭鉱開発を提案しているのだ。

つまり、本当に石炭火力発電が問題であるとするならば、それはイコール中国問題ということになる。

では、日本の動向はどうだろう。
これまで国内メガバンクの融資方針として、石炭火力については世界最新鋭である超々臨界圧など、温室効果ガスの排出量も比較的少ない高効率の案件に限定して投融資等を行ってきた。

しかし、国際的に日本の石炭火力への対応に(理不尽な)批判いちゃもんが集まり、 COP25で日本の金融機関・投資家が石炭投融資リストのトップを独占と報告されると、根拠もないのにビビってしまう。

みずほフィナンシャルグループ(MHFG)および三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)は2020年4月、「石炭火力発電所の新規建設を資金使途とするファイナンスを原則行わない」という方針の厳格化を実施すると発表した。
三菱UFJフィナンシャルグループ(MUFG)も2019年5月、石炭火力発電所新設へのファイナンスを原則停止することを決定しており、3大メガバンクは新設の石炭火力発電へのファイナンスを行わない方針で足並みを揃えたこととなった。

アホとしか、言いようがない。
電気料金がここまで高騰こうとうし、火力発電設備の不足から節電要請が年中行事のように繰り返される日本。
それでもCO2を理由に石炭火力発電設備を減らすというのが、日本政府の変わらぬ方針だ。あまりに愚かというか、実は別のところに意図があるのではないかと、邪推したくもなってしまう。

ところで、メガバンクが融資を打ち切った「超々臨界圧発電」とは何か。

通常の石炭火力発電所は、微粉炭機で粉砕した石炭をボイラーで燃やして蒸気を発生させ、タービン・発電機を回して発電している。
排ガスに含まれる物質は電気集じん器、排煙脱硫装置、排煙脱硝装置などにより可能な限り除去し、周辺環境への影響を減らすようにしている。

石炭は、安定供給や経済性の面で優れたエネルギー源になる。
ほかの(石油など)化石燃料にくらべて採掘できる年数が長く、存在している地域も分散しているため、安定的な供給が望める。
原油やLNGガスにくらべて価格は低めで安定しており、LNGガスを使った火力発電よりも、低い燃料費で発電が可能だ。

それが禁止される方向なのは、二酸化炭素排出量が非常に多いという事だ。 そもそも火力発電自体、二酸化炭素の排出量が問題視されているが、中でも石炭発電は二酸化炭素排出量が非常に多い。石油火力より、3割も多いとされる。

石炭火力は、ボイラーで石炭を燃やしてお湯を沸かし、蒸気タービンを回して発電するしくみで、この蒸気の温度や圧力をあげるほど発電効率はあがっていく。
そこで微粉炭びふんたん火力と呼ばれる、粉状にした石炭と空気を混ぜ、ボイラー内で燃やすことで、効率良く発電する方式が中心となっている。

この微粉炭火力には5つの種類がある。
「亜臨界圧(SUB-C)」→「超臨界圧(SC)」→「超々臨界圧(USC)」と効率が高くなっていき、現在の日本では「超々臨界圧(USC)」が石炭火力の主流となっている。
その発電効率は41〜43%で、「世界トップレベル」(経産省)だという。

同じ石炭火力と言っても、中国をはじめとする他国との質の差は圧倒的なのだ。
むしろこの技術を海外に売り込むことこそ国益となり、世界にとっても現実に即したCO2対策になるはずだ。
将来はともかく今この時点で存在する、「環境負荷」を最小限に抑える最上のシステムなのだから。

ここに融資をしない事を決めたメガバンクとは、本当に日本の会社なのだろうか。
日本政府とは、日本沈没をはかる政府の事なのだろうか。
昭和にエネルギー施策の一線で活躍されていた人達ならば、「わけわかめ」な事この上ないはずだ。

イラスト Atelier hanami@はなのす

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