早生 凜

駆け出しの産婦人科医。 ダイビングが好きですが、久しく潜れていません。 夫は家庭医。

早生 凜

駆け出しの産婦人科医。 ダイビングが好きですが、久しく潜れていません。 夫は家庭医。

最近の記事

人は無意識のうちに見返りを求める

アルツハイマー型認知症の祖母が小規模多機能型居宅介護を利用し始めて1ヶ月半が過ぎた。このコロナ禍、高齢者施設でのクラスター発生が相次ぐ中、面会はおろか、散歩さえできない状況のようだ。悲しいことだが、こればかりは、もう、どうしようもない。祖母が唯一、家族と繋がる手段は、電話だ。育休中の今、私は折をみて、できるだけ祖母に電話をかけるようにしてきた。祖母の状態には波があり、機嫌の良い時には「元気にやってますよ」ということもあるが、大抵は「ウチに帰りたいんだよ」という帰宅願望であった

    • 認知症は神様からの贈り物だとは思わない

      アルツハイマー型認知症の祖母が小規模多機能型居宅介護を利用し始めて1ヶ月が過ぎた。 医学生時代、ある講義で、教授が、「私は認知症になって死にたい。認知症は神様からの贈り物だと思う。周りは大変かもしれないが、本人は死を恐れることなく、何も分からなくなってニコニコして穏やかになれる。」と話していたのを思いだす。当時は、ふーん、そうなのか、程度にしか思わなかったが、今、祖母をみていると、その言葉には賛成し難い。 「財布が見当たらない、誰かが盗ってっちゃうんだよね」 「下着がない、

      • 一目だけでも妻に会うことは叶いませんか

        コロナ禍でもいのちは生まれる。 面会、立ち合い分娩を制限する施設がほとんどで、私の勤務する病院も例外ではない。 妊婦さんは一人で陣痛に耐え、母になる。 お産は何が起こるかわからない。 自然分娩を前提に経過をみていても、時に分娩誘発や緊急帝王切開といった医学的介入が必要になることがある。 私の働く施設では、陣痛促進剤を開始する時や、緊急で帝王切開となる際はご家族に来院してもらってお話する決まりになっている。ただ、来院してもらっても、家族が入れるのは説明室までで、妊婦さんとの接触

        • 海を渡った酵母パン

          研修医時代の日記からひとつ。 じっと耳を澄ます。ふつふつと音がする。ガラス瓶の中で干しぶどうに小さな泡がまとわりついて 音を立てている。「明日あたり良さそうかな?」「あと3日は待たないとダメだね。」「なんか、 生きてるって感じがする。」そんな会話を懐かしく思い出す。私は母の作る酵母パンが好きだ。 「酵母って何からでも出来るみたいよ。」そう言って母は、ある時は干しぶどうを、ある時はり んごやいちごなんかを瓶に入れて、水を注いでそーっとしておく。早くパンが食べたい私は、大学生に

          閖上海岸のあの人

          その夏休みも、弟は釣り三昧の毎日を送っていた。丘の上にある自宅から見える閖上海岸まで母の運転で向かい、釣り糸を垂らしたり腰まで水につかって遊んでいた。 ふと気が付くと、海岸から数十メートル沖に頭が見える。かろうじて判別できるその顔からは、さっきまでの笑顔が消えていた。(離岸流だ!)瞬時に理解した。「横に、横に泳いで!」声の限り叫ぶ。その間にも、どんどん頭は小さくなっていく。「死んじゃうかもしれない・・・」「夏休みに遊泳中、12歳男児溺れて死亡」そんなテロップが頭に浮かび上がる

          閖上海岸のあの人

          アルツハイマーの祖母

          祖母がアルツハイマー型認知症と診断され、しばらくになる。 数年前に祖父が亡くなってから、だんだんおかしくなってきたように思う。 尤も、アルツハイマーは発症の10年以上前から、その原因となるアミロイドβが脳に蓄積し始めるとされているので、その頃にはもう溜まりかけていたのだろうけれど。 祖父の死は突然だった。手術適応のない、進行した肺がんで、抗がん剤による化学療法を受けていた。がんの病勢は抑えられていたものの、抗がん剤の副作用による手足の痺れは顕著で、トイレで足に力が入らなくな

          アルツハイマーの祖母

          炊き込みご飯

          圧力鍋で炊き込みご飯を作った。 昆布を入れた。 蒸らし終わって蓋を開け、昆布をひょいとつまんで食べた。 くたっとして、味がなかった。 硬い米が柔らかく炊けるほどの圧力と温度に耐え、昆布としての役割を全うしたんだねえ。

          炊き込みご飯