AIR RACE X 2024第1戦 室屋義秀選手の敗因
5月26日に配信されたAIR RACE Xの2024年第1戦決勝ラウンド、決勝で室屋義秀選手はオーストラリアのマット・ホール選手に敗れた。ここでは決勝における室屋選手の敗因について探ってみたい。
第1戦のトラックレイアウト
第1戦のトラックは2023年の渋谷デジタルラウンドに較べて若干短くなった反面、ゲートの数が増えて少々忙しい、スラロームのようなレイアウトとなった。
実際にふくしまスカイパークに設置されたマーカーの位置を確認すると、パイロンAとパイロンEは滑走路の両端にあり、全長はおよそ800mほど。パイロンBは滑走路奥の丘にある「FUKUSHIMA IIZAKA」の上段、FUKUSHIMAの「A」に、パイロンCはHangar 1のエプロン付近、パイロンDはその先の滑走路を挟んだ反対側に設置され、ちょうど滑走路を軸にジグザグ飛行を繰り返すレイアウトだった。
このトラックレイアウトでは僅差の戦いになる、と室屋選手は予想しており、少しのミスが命取りになると語っていた。特にトラック両端のターンでは、微妙なコースどりが要求される。
ターンの中でも重要だと室屋選手が語っていたのが、最後のターンであるバーティカルローリングマニューバ(VRM)だ。バーティカルターンの上昇中にロールを1回入れ、そのあとにターンの動作に移るため、ここをスムーズにこなせるかどうかが鍵になる。室屋選手は「失敗すると簡単に1秒くらい変わってくる」と語っていた。
戦略の誤算
今回の第1戦では、予選期間が5月10日から19日までの10日間に設定された。各パイロットはこの期間内に「予選1本目」「予選2本目」「準々決勝」「準決勝」「決勝」用の計5回、タイムアタックのフライトを実施し、データを大会本部へと送信しなければならない。
室屋選手は開幕前に開催したMedia Dayでの会見で、スケジュールの使い方について「誰もが『誰か先にタイムを出さないか』と様子見するんじゃないか」と語っていた。タイムが公開されれば、それをベンチマークとしてフライトしていくことが可能だからで、戦略の基本といえる。
それまではプラクティスのフライトを繰り返してレーストラックを体に染み込ませ、いつでもタイムアタックが可能な状態を作り上げるという戦略だ。 実際、室屋選手は14日(火曜)の午前中までをプラクティスにあて、火曜の昼過ぎに1本目の予選タイムアタックに出た。
予選1本目のタイムは48秒551。データ送信時点では暫定トップだったが、直後にマット・ホール選手が48秒384のタイムをアップしたため2位に。14日はそれ以降プラクティスにあて、スタートからパイロンBへのアプローチと、バーティカルローリングマニューバの練習を繰り返していた。
翌15日は1日中雨の予報だったのでフライトは前日の時点でキャンセル。16日は晴れていたものの、日本海側を進む発達した低気圧の影響で西寄りの風が強いコンディションとなり、まともにフライトができない状態となった。
残りは3日。必ずしも条件の整わない中、室屋選手は18日(土曜)までに全てのフライトを終え、データを大会本部へ送信した。予選期間の前半は気象条件が良かっただけに、タラレバになってしまうが、もう少し早くタイムアタックをしていれば……と惜しまれる結果となった。
もっとも、その条件は優勝したマット・ホール選手も同じだ。ホール選手は17日〜19日にエアショウの予定が入っており、そのリハーサルを考えれば少なくとも16日(木曜)の午前中までに全てのタイムアタックを終えておく必要があった。結果的に、ホール選手はうまくスケジュールを使い切ったといえるだろう。
地形による不運
室屋選手がタイムアタックの場に選んだのは、普段から拠点としているふくしまスカイパーク。ここは福島県と山形県の県境にある山地の中腹に設けられた飛行場だ。
周りを山や丘陵地が取り囲むロケーションとなっており、羽田空港のように周りに風をさえぎるものがない飛行場と違い、時には上昇して山の陰から出ると地表面とは違う風が吹いてくることも少なくない。これが決勝でのフライトに影響したようだ。
特に風の影響を受けやすいのが、最後のバーティカルローリングマニューバだ。まっすぐ上昇するだけでも風に流されやすいのに加え、ロールを加えることでさらに姿勢が不安定になる。急に強い風が吹いてしまうと、修正する操作が追いつかないのだ。
それが、決勝用のタイムアタックで発生した。上昇して山の陰から出た途端、強い横風にさらされて軌道を大きく乱す結果となったのだった。
室屋選手にとって誤算だったのは、パイロンEから最初のターンがフラットなものであり、山が風をさえぎった状態でターンを終えられたことにあるように思う。VRMであそこまで上昇した時点で初めて強い風に吹かれてしまい、対処する余裕を失ってしまったのではないだろうか。
このほかにも室屋選手はパイロン通過時の高度違反「TOO HIGH」も犯し、計8秒のペナルティを受けてしまった。公式サイトで明らかにされている決勝ラウンド飛行時の気象条件を見ると、決勝用のログだけ気温も気圧も異なっている。
AIR RACE Xでは、フライト前に「〇〇用のフライト」とデータ記録装置に設定してから90分以内に離陸する規定となっている。設定してからの「やり直し」はきかない。気象条件によるハンディキャップには風向や風速のデータは反映されない(フライト中も刻々と変化し地表面と上空で異なる恐れもあるためだと推測される)ので、室屋選手が「決勝用」と設定したフライトは、本当に運が悪かったというほかない。
リアルラウンドを除き、AIR RACE Xは各パイロットのフライトする場所や日付が異なるのが大きな特徴だ。気温や気圧、湿度による補正は入るものの、飛行を大きく左右するファクターである風、そして予選期間内のどの日にタイムアタックするかという戦略面が勝負を左右することが判ったという意味でも、今回のレースはよりAIR RACE Xのフォーマットを理解するものになったといえるだろう。
次回、第2戦は9月にリモートラウンドで、そして最終戦となる第3戦は10月にデジタルラウンドで開催される。パイロット、主催者側、そして観戦する側も少しずつレース実績を重ね、より一層充実したレースとなることを期待したい。
(画像協力:AIR RACE X)