長崎大学で一番”熱い男”河野茂学長に学生目線でいろいろ聞いてみた
-河野学長は2020年4月、学生と教職員対象に月曜通信を始められ、2023年9月11日の月曜日に100回目を迎えられました。月曜通信を100回も続けられた理由は何でしょうか。
月曜通信は、学生や教職員に、僕が何を考えよっとか伝えるいい手段たいね。
コロナが出てきて、授業もオンラインで、対面でのコミュニケーションができん中で、大学のコロナへの対応を学生の皆が気にしとった。「大学の方針はこうよ」って伝えたかったとさ。今は非常に不便だけれどもみんな今できることを頑張ってほしいなっていうことをさ、自分の言葉で届けたいと思っただけ。それが気づいたら100回くらいになっとるね。
-月曜通信の文章を読むと、河野学長が学生のことを大変気にかけていらっしゃる印象を受けました。長崎大学生に期待することは何でしょうか。
やっぱり基本的にはさ、自分の専門領域の勉強をして欲しいということを思うたいね。ただ、勉強だけでは、社会に出たときに足りないのね。それで、いつも月曜通信で夢とか挑戦とか書いてきたけど、絶対これ、というものは無くて、その時その時でいろいろテーマが違ってくるんじゃないかな。ともかくしっかりした人間になってちょうだいよというのが一番の期待というか基本かな。
-人間性を磨くということでしょうか。
積極的に話したり、聞いたり、書いたり、読んだり、どんな手段でもよかと思うけど、独りよがりにならずに、自分と考えや文化や言葉が全く違う人や事柄とコンタクトを取ることと、そしてその場数を踏むしかないのかな。そうするとだんだん「相手が自分と全然違うね」ということが分かってくったい。そういったことが人間性を磨く一つの方法かな。
-私自身、関西の兵庫県から長崎県に来て、地元とは違う文化にたくさん触れ、違いを受け入れることは大切なことだと気づきました。しかし、自分と違う他者を受け入れることはなかなか難しいことだと思います。
無理に妥協する必要は全く無いさ。人はお互いに違ったアイデンティティーで、それがその人のキャラクターだから。自分が楽しいとか自分のためになるとか思ったら受け入れればいいし、自分が面白くないと思ったら、もちろん孤独に籠ってもいいけど。ただ、孤独というのも難しくてね。人間ってやっぱ、必ず外の人と接触するわけよ。その時、どうも相手のここは好かんとかさ、人間、誰しも好き嫌いが当然出るけれども、嫌いだからって言って否定してしまったらそこから先、何も無いけんね。むしろ「なんばいいよっと」とか、喧嘩して良かと思うとよ。本気で、真剣にね。殴り合いはいかんけど(笑)
-長崎大学生に期待することに続きまして、大学生時代にしておいた方がいいことは何でしょうか。
いつも言うことやけど、自分の興味のあることをやってみたらよかさ。大学生の間は、失敗は許されるけん。自分のやりたいこと好きなことにぜひ挑戦して欲しいなと思う。何をするかは、なんでもいいわけよ。なんか興味のあることをさ。
-そのためにはまず興味のあることを見つけないといけないですね。私も含めて若い世代の人は興味のあることが見つからないという人が多いように感じます。
それが不思議っさねーー。なんばいいよっとやろかと、思うっさね。僕はさ、その辺りが理解できん。「努力してなんかしてみたい。」「手は届かんかもしれんけど、やってみたい」と思うことはあるけど、やりたいことが無いって言うのは「なんしよっとね」と思うね(笑)
-「本当にこのことをしてみたい」という確証を探しているような気がします。
パーフェクトを求め過ぎとるとかもしれんね。別に完璧でなくてもいいけんさ、やってみたら?そんなかで面白いものが見つかってくるかもしれんし。例えば高校野球でもさ、レギュラー選手になれない人の方が多いやろ?けど、その人たちは、頑張って、歯を食いしばって、ずっと三年間続けて、それは実際人生においては無駄じゃないわけよね。どっかでね、役に立つわけよ。そやけんが、まあ、最初から大好きなことじゃないにしても、なんかやってみればいいとになあと思う。
-確かに、「完璧でないといけない」「失敗したら怒られる」みたいな感情はあるかもしれません。
みんな、怒られ慣れとらんのやろうね。親や社会から守られ過ぎっととかもしれん。案外、臆病になっとるとかもしらんね。
-確かにそうかもしれません。今の若い人は無難なことしかしない印象があります。
頭で考えると、理屈っぽくなって、自分でこじんまりとした設計をしてしまうのよね。僕なんか、研修医で貧乏しとって、それからまた基礎の大学に4年間行って、さらにアメリカに2年間行ってとかさ、理屈で考えると決してこういう道は取らんけど、どうせ僕は故郷に戻って開業すっとやけん、せっかくならもうちょっと勉強したいと思って大学へ行ったし、英語が好きでアメリカに行きたいなと思っていたからアメリカに行ったっさ。同級生からすれば「なんすっとやろね。えらいゆっくりとして」と思われるような人生を歩む。安易な人生を、選らんどらんわけよね。
-挑戦には失敗がつきものだと思いますが、なかなか立ち直れない人もいると思います。その時はどのようなマインドで対処すればいいのでしょうか。
僕も挑戦して上手くいかなかったことはいっぱいあるよ。それを失敗と言ってしまえば失敗やけれども、「今回はここが駄目やったけんね。次回はこうせんばいかんね。」と、むしろそれがいいチャレンジのきっかけになるから。世の中はさ、うまくいかんことの方が多いけども、それを次にどう活かしていけばいいのかという風に考えんとさ。失敗と考えたら駄目と思って、投げ出したら、それで終わりやもんね。ギブアップしては駄目よ。止めたら駄目。
-続いて学長のお仕事についてお伺いしたいと思います。平成29年の9月から6年間、長崎大学の学長としてお仕事をされてきましたが、その感想をお伺いしたいです。
長崎大学には10学部があって、それぞれ向いている方向が違う、そこは大変。逆に言うと大変だからこそ、やりがいがあるたいね。やっぱり、今までよりももっと発展する方向に大学を向けられればいいなあと思ってさ、長崎大学のためになることを信じて、今まで6年間やってきたわけよね。中でも、情報データ科学部を作ったのは、思い出深いね。僕の性格で、こうと決めて突っ走るわけさ。周りの人は大変だったろうね。
-長崎大学みたいに10個も学部があれば、意見をまとめるのは大変そうですね。意見が対立したときはどのようにして判断すればいいでしょうか。
それはその人のセンスよ。理屈上はどっちも正しいと思うし、折り合いをつけるのは難しいことがいっぱいあるたいね。人の意見も聞かないといけない。でもやっぱり最後はトップとして判断して選択せんといかんからね。そこはもうセンス。でもね、世の中、正解は無いのよ。正解があればえらい簡単やけどね。
-学長として勤められてきた6年間はかなり長いと思います。それだけの長期間続けることができる熱意はどこから湧いてくるのでしょうか。
何かがモチベーションの源泉にある訳じゃなく、単に僕のキャラクターじゃないかな。僕ね、続けるのは得意なのよ。みんなびっくりするやろけど、僕のコンピュータの中には僕の健康診断のデータが二十歳のころから50年くらいずっと入ってる。ゴルフのデータも何十年とすべてのスコアが入っている。記録をずーっと続けてる。そして記録するだけでなく、歩いたりね、腹筋背筋とかトレーニングとか、英会話のラジオを聴くのも中学校の頃からずーっと続けてる。ラジオは今でも歩いて大学へ来るときに1時間は聞いてる。みんながさ「三日坊主」とか言うけど、それが僕には信じられない(笑)続けるのは簡単。もうそれは自分のキャラクター。じっくり座って本を読むというタイプじゃないわけ。僕は常に動き回る、まあマグロみたいなさ、動かんと死んでしまうさ(笑)そんな感じ。
-ありがとうございます。これが最後の項目です。
私事ですが、私が長崎大学へ入学した時にちょうどコロナが始まりました。来年には、卒業して就職あるいは大学院進学という新たな段階に進みます。最後に、長崎大学生に向けてメッセージを頂けないでしょうか。
いわゆる普通の大学生が経験することを経験してないんだから、不幸だったと思うかもしれんね。でも、さっき言った通りよ。失敗を失敗と思うかどうか。それと同じ。あなたたちは他の人が経験していないことを経験しているわけよね。だからそれを自分のメリットとして、どう次のステージで活かすかということがさ、出来るかどうかじゃない?ネガティブなことだけども、プラスの方をさ、将来どう活かそうかなと思った方がいい。全部ネガティブだと思ったら駄目。この厳しい時代をちゃんと4年間過ごして、卒業していくわけだからね。パンデミックを経験してきた人たちが役に立たないかと言ったらさ、そういうわけじゃないさね。絶対さ。その中でも世の中の役に立つことをする人は出てくるさ。自分たちは何かを喪失したと思うんじゃなく、afterコロナ、withコロナの時代をどのように生きるのか、自分達が新しい時代を切り拓くパイオニアとして先頭を走るんだというプラスの考えで行くべきです。頑張ってください。
インタビューを終えて
河野茂学長は、エネルギッシュでとても親しみやすい方でした。一番記憶に残っているのは、”一見、ネガティブな中にもポジティブな一面を見つけ、次の挑戦に繋げていく”という考え方です。これは、失敗を恐れて立ち止まっている人や失敗から立ち直れない人へ向けた重要なメッセージだと感じました。私もこれからの人生に生かしていきたいと思います。