"打鍵"を考える際に知っておきたい手のアレコレ
beatmaniaIIDXをプレイするにあたって、
「フォームを改善したい!」
「こう打鍵するとここが気になる!」
「こう変えたら良くなった!」
といった試行錯誤が出てくると思います。
このような場合に解剖学・運動学の観点で手はどのような構造であるか、関節としてどのように動いているのか等の基礎知識があると試行錯誤の一助になると考え本稿を作成することとしました。
前回の記事で取り上げた"ボディ・マッピング"と合わせて自分の身体を動かす際のイメージアップに繋げましょう!
手関節
手には8つの手根骨があり、そこから中手骨を経て指の骨(基節骨)へと移行していきます。この配列は後述する関節としての動きを生み出すのに加えてアーチと呼ばれる手部の機能的な肢位の保持にも寄与しています。
手関節と手根骨の動き
手関節の動きは一般的に手首とされる橈骨手根関節に加え、これらの手根骨(手根中央関節)が手を動かす際に制御をしています。
背屈(手首を反らす)と掌屈(手首を前に倒す)の際の関節の動きは上図のようになっています。
橈骨手根関節で橈骨が、手根中央関節では月状骨が関節の受け皿のような役割を果たしています。いわゆる手首を前後に動かす動作(掌背屈)は単関節による動作に見えて実は複数の関節による制御であることが分かります。
また、橈屈(親指側に倒す)と尺屈(小指側に倒す)では舟状骨を軸に手根骨が上図のように移動しています。
掌背屈では月状骨が、橈尺屈では舟状骨が動いているというイメージを覚えておきましょう。
なお、この手根骨8つの位置関係に関する語呂合わせですが、
「父さんの月収は大小あるが有効に使えよ」
(豆状骨-三角骨-月状骨-舟状骨-大菱形骨-小菱形骨-有頭骨-有鈎骨)
というものがあります。
今回の場合は月状骨と舟状骨の位置が分かればいいので周囲の手根骨との位置関係のイメージを付けたい場合の参考にして下さい。
手のアーチ
手全体にはアーチと呼ばれる湾曲した構造があります。顔洗時に水を手で掬えるのはこの構造のおかげです。物の把持や操作においてもこの縦横のアーチは重要な要素となります。
何も持たずに指を伸展した時とボールを把持した時それぞれの位置関係としては、手根部横アーチの形は変わらずに中手部横アーチの形を変えることで対応しています。打鍵時の手の形としては一般的にボールや卵を軽く握るor箸を持っている時のような手の形をしていると思われるため、普段プレイしている時のアーチの位置関係をイメージしてみましょう。
ダーツスローモーション
今回の記事を作成するにあたり個人的に一番大事だと思った要素です。
手関節の橈屈+背屈位から尺屈+掌屈位への斜めの運動方向のことをダーツスローモーションと言います。
日常生活動作でも多用されている事から機能的な運動方向と言えます。
ダーツを投げる動作、釘をハンマーで打つ動作、グラスを用いて飲む動作、瓶の蓋を捻る動作………これらをはじめとした多くの動作がダーツスローモーションとなります。
この運動方向の特徴としては、手根中央関節をメインとした運動であり橈骨手根関節の運動が小さいということです。
これがどういうことなのかをIIDXに置き換えると、手首を固定した(殆ど動かさない)状態での指を使った打鍵となります。立ち位置や運指、腕押しか指押しか、あるいは身長によって最善の方法は変わってくるかと思いますが現状の打鍵に効率を感じられない場合はこの運動方向について一考してみるのも良いのではないかと私個人は思っております。
(これはすごく個人的な話ですが、ACIIDXにおけるMare NectarisやGuNGNiR†のような高速かつ重めの16分が苦手でした。なぜ苦手なのかを考えた際に非皿側に降ってくるノーツに対して指の動きがまるで追い付いていませんでした。いかにして鍵盤に割り当てている指1本1本が速く正確に動かせるか試行錯誤した際にこの方向の動きを取り入れたところ無事ハードできるようになりました。)
虫様筋と内在筋プラス肢位
音ゲー向けの筋トレの話題でよく挙がる筋肉のひとつとして虫様筋があります。虫様筋は内在筋(手から始まっている筋肉)であり、前腕から始まっている筋肉は外在筋と呼びます。虫様筋の機能としては、MP関節(第三関節)の屈曲とPIP(第二)及びDIP(第一)関節の伸展です。この肢位を内在筋プラス肢位と呼び、これを保持する時に筋活動が大きくなるという特徴があります。
よって、虫様筋の使用及び筋力強化は内在筋プラス肢位で行うのが望ましく、虫様筋は手指運動の制御機能を持つので虫様筋そのものの筋力だけでなく外在筋(浅・深指屈筋)との協調を改善することも重要となります。
浅指屈筋はPIP(第二)関節の屈曲を、深指屈筋はDIP(第一)関節の屈曲に用いられる筋肉です。手指の屈曲運動は主にこれらの筋肉により行われています。
また、手指の屈曲運動は手関節の背屈運動と協調するため手関節背屈位で行うことが望ましいとされています。これは腱固定作用(テノデーシスアクション)と呼ばれるものです。実際のプレイでは軽度の手関節背屈位がよいでしょう。過度の手関節伸展は前腕の筋群に伸張ストレスがかかってしまい指屈曲動作を行う際に力の伝達ロスが生じる可能性が考えられます。
まとめ
解説は以上となります。ところどころ簡潔にまとめた表現もありますので質問や補足に加え間違い等あればご指摘もいただけると幸いです。
今回特に覚えてもらいたいキーワードはダーツスローモーションと虫様筋、そして虫様筋を最大限に活かす為の内在筋プラス肢位とテノデーシスアクションになります。
それではまた次回の記事で!