ルワンダとロシアのヘイトスピーチ
10月24日 ボイス・オブ・アメリカ:(4,650 文字)
ルワンダのように:ロシア・テレビのヘイトスピーチ
ミミズやゴキブリと呼び、「子供を溺れさせよう」と呼びかけ、「神の意志」を語る
クセニア・トゥルコヴァはラジオ・サウザンドヒルズとロシアのテレビ番組を比較し、その手法や語りが奇妙なほど似ていることを発見した
クセニア・トゥルコヴァ:ロシア人ジャーナリスト
ラジオ・サウザンド・ヒルズ
10月、ヘイトスピーチとプロパガンダによる虐殺で世界的シンボルとなったラジオ・サウザンド・ヒルズの創設者でチーフスポンサーである89歳のルワンダ人実業家、フェリシアン・カブガの裁判がハーグで開始された
国際刑事裁判残存機構(ICCT)の検察官は、このラジオ局がルワンダにおけるツチ族の大量虐殺に関与していたと結論づけている
フェリシアン・カブガ:(Félicien Kabuga、1933年 - )は、ルワンダの実業家。ルワンダ虐殺時にフツ過激派に資金供給を行い、虐殺に大きな影響を与えた。ルワンダ国際戦犯法廷により国際的な指名手配が行われ1994年以降逃亡生活を送っていた。2020年潜伏先のパリ郊外にて逮捕された。
四半世紀近くも逃亡を続けたカブガが、その行いを裁かれる一方、ロシア・メディアはラジオ・サウザンドヒルズの放送を真似たような、想像もつかないことだが、時にはそれを上回るヘイトのメッセージを流している
このような憎悪をウクライナやウクライナ人に向けるのは、ロシアだけである
サウザンド・ヒルズ・フリー・ラジオ :放送局の名前はフランス語の「千の丘の自由ラジオとテレビ」。ルワンダが「千の丘の国」と呼ばれたことに由来する。 政府が管理するラジオ・ルワンダから支援を受け、当初はラジオ・ルワンダの設備を使用して送信することが許されていた。
一般大衆に人気があり、ツチ族、穏健なフツ族、ベルギー人、および国連ミッションUNAMIRに対する憎悪のプロパガンダを拡散した。多くのルワンダ市民は、ジェノサイドの発生を可能にした人種的敵意の雰囲気を作り出す重要な役割を果たしたと見なしている(国連の戦争犯罪法廷によっても支持された見解)。
フェリシアン・カブガは、ラジオ・サウザンド・ヒルズとカングラ・マガジンの創設と資金調達に深く関わっていたと言われている。この放送局は、フツ族に対する憎悪と偏見を商業的に利用し、憎悪の言葉を洗練されたユーモアと人気の音楽と共に放送し、ツチ族を「ゴキブリ」と呼んだ。
アントン・クラソフスキー
先日、Russia Today(RT)チャンネルの司会者アントン・クラソフスキーが、SF作家のセルゲイ・ルキヤネンコへのインタビューの際に「ウクライナの子どもたちは、ウクライナはモスクワ人に占領されている、モスクワ人がいなければフランスのように暮らせると言っていた」と、1980年にトランスカルパティアを訪れた際のウクライナの子どもたちの話を紹介した
そして、「そのようなウクライナの子供は、『プリエ・カチャ(注:革命で亡くなった英雄たちのための、ウクライナのレクイエム)』と共に、この手で、黙って溺死させるべきだ
モスクワ人を占領者だと言うのなら、流れの激しい川に放り込めばいいだけだ
子供たちはスメレック小屋(カルパチア地方の伝統的な家屋)で焼かれるべきだ」
と話した
(注:これだけではなく、他にも極めて残虐な言葉が多く発言された)
プリエ・カチャ:
しかも、クラソフスキーの放送は(注:生放送ではなく)録画されたものだった
つまり、チャンネルの編集者はそれを確認済みであり、この司会者の発言に困惑することはなかったということである
しかも、これほど具体的で血生臭いとは言えないが、同様の発言は、他のロシアのプロパガンディストたちからも繰り返しなされてきた
例えば、2022年4月、クラソフスキーの上司であるシモニャンは自分のTelegramチャンネルに
「どんな選択肢を(ロシアに)残しているんだ、このバカども?
残されたウクライナを完全消滅させたいのか?核攻撃させたいのか?」と書き、さらに、同文中で「ウクライナは存在し続けることはできない」と宣言している
ソロヴィヨフは実際にウクライナ人を虫に例えている
同じ番組中で、司会者であり、これまたロシアを代表するプロパガンディストであるソロヴィヨフが、彼女と対談をした
そして、ウクライナの戦争を動物の体から虫を追い出す作業に例え
「医者が猫から虫を追い出すのは、医者にとっては仕事で、虫にとっては戦争で、猫にとっては浄化だ」と述べた
このソロビョフの言葉は、ルワンダのラジオ・サウザンドヒルズのフツ族のメイン・パーソナリティーが、ツチ族を「ゴキブリ」と呼び、その駆除を呼びかけたやり方そのものである
「ゴキブリを全部退治すれば、裁かれない
そうしなければ、キブ湖で溺死させられる」
とルワンダのラジオでは言っていた
「司会者は幸せになる夢を語ることができた
なぜなら、彼が主張したのは、町中からゴキブリが一匹もいなくなるということだったからだ」
とウクライナの人権活動家マキシム・ブトケビッチ氏は言う
ソロヴィヨフは実際にウクライナ人を虫に例えている
これは「敵」の人間性を奪う典型的なプロパガンダの手法である
さらに、偶然の一致はこれだけではない
ロシアのプロパガンダは、ある意味、ラジオ・サウザンドヒルズの基本的なテクニックをすべて踏襲している
例えば、攻撃はやむを得ない措置であった、そうしなければ自分たちが死ぬしかなかった、というのもそうだ
「激怒したツチ族が権力を奪おうとしている、力ずくで奪おうとしている、…イースターの日に何か事件を起こすらしい」とラジオで言っていた
ラジオ・プレゼンターが聴衆に向かって発信する
「自分の身は自分で守れ」
「クズは退治するものだ
蛇を放置すれば、いずれ、自分も犠牲になる
奴らはまるで獣だ。奴らは獣だ!」
2月24日、プーチンはビデオ演説で「皆さんと私には、ロシアを、我々の国民を守るために、今日、他に選択肢が残されていないのです
このような状況では、断固として即座に行動する必要がある」と述べた
この話はすぐに主要テレビ局で取り上げられ、ほぼすべてのニュース番組で繰り返された
ロシアの地方紙に掲載された多くの例の中から一つを紹介しよう
見出しは「私は断言します。私たちは人間ではないものと戦っています。」
カルーガの軍人、シュクラット・アディロフは「彼ら(ウクライナ)を止めなければ、私たちを殺しに来る」と断言している
また、攻撃性の婉曲化(婉曲とは、不健全なものを婉曲なものに置き換えること)という手法もある
ロシアでは、軍事的な言説はすべて婉曲的表現でなされ、それがメディア全体の世界、反転した現実を構築するのに役立っている
「特別作戦」「解放」「非武装化」これらの言葉はすべて、起きていることの本質を押し隠し、一種の公正なプロセスのように見せかけるのである
ルワンダでも同じ手法が使われた
例えば、ラジオの司会者は「殺す」という動詞を使わず「仕事を終わらせる」と表現したことが知られている
ラジオ・パーソナリティーはフツ族の「民兵」に
「兄弟、手を動かせ
墓はまだ一杯になっていない
仕事は終わっていない、続けろ!」と呼び掛けた
「仕事しろ、兄弟」
ところで、この表現は、ロシアのプロパガンダのフレーズ、主にSNSで盛んに使われている「仕事しろ、兄弟 «Работайте, братья!»」というものの中にも見受けられる
この表現は数年前から増加している
その意味は「過激派を破壊し、過激派や山賊と戦う(ロシアの「愛国者」ブロガーたちにとって、山賊とはウクライナ人を意味する)」である
このフレーズの起源は、2016年に武装勢力に殺害されたダゲスタン人のマゴメド・ヌルバガンドフである
マゴメド・ヌルバガンドフ:
イスラム国の新兵と名乗る襲撃者たちは、後にマゴメドを殺害した瞬間のビデオを公開した
その映像の中で、マゴメドは殺される前に仕事を辞めるように強要されたが、それを拒否してそう言ったのだ
それが「仕事をしろ、兄弟たちよ!«Работайте, братья!»」だった
ウラジーミル・ゴリシェフ氏は、このヌルバガンドフの言葉が、後にロシアのプロパガンダに転用され、愛国的なスローガンとなったことを指摘している
「Radio Thousand Hills 」と同じく、ロシアのテレビ局も宗教的な語り口を用いている
「神は決して不公平ではない」とルワンダのラジオの司会者は言った
「神が戦争を許すのは、人間を説得する他の手段が尽きたときである
神は戦争での国民のすべての心をノックする...」と、テレビ司会者で「愛国者」であるボリス・コルチェブニコフは言っっている
さらに、ロシアで「部分動員」が発表された後、誰もが戦争に行きたがるわけではないことに、衆目の面前で涙を流したほどである
「神はそのような人々を憎み、破壊し、燃やす方法を知っている!」 と彼は断言した
男女の役割分担
一方、ダリア・ドゥギナ(2022年8月に自動車爆弾で死亡した哲学者・宣伝家のアレクサンドル・ドゥギナの娘)はチャンネル・ワンで、ウクライナは「(ロシアとの)統一の喪失」によって罰せられているのであり、ロシアは「(ウクライナの)民間人を死から救おうとしている」と述べている
ある意味では、独特の男女格差があるようにも見える
ラジオ・サウザンド・ヒルズの男性司会者は銃器の使用を呼びかけ、唯一の司会者であるヴァレリー・ベメリキ(アナウンサー・エビル)は鉈の使用を提案した
ロシアのテレビでは、女性、特にシモニャンが「より人道的な」プロパガンダの役割を担っている
例えば、ソロビョフが(注:杜撰な動員に対して、召集令状を配る)軍事委員を処刑するよう呼びかけた時(注:実際に、その翌日ウスチ・イリムスクで新兵募集事務所の襲撃事件が起こっている)、シモニャンはそのような方法には反対だと述べている
その代わり、シモニャンはウクライナの民間インフラへの攻撃を呼びかけ
「ウクライナに民間インフラはないのか?
送電線、原子力発電所、ターミナルなど、私たちに敵対するこの国家の機能を停止させることができる、あらゆる種類のインフラがまだたくさんある
非常に素早く、簡単で、長く効果がある」と発言している
しかし、(注:何故だか不思議な事に)「子供を溺れさせる」というクラソフスキーの言葉は、国の主要な宣伝マンたちでさえ「やりすぎだ」と思ったのだという
その後、テレビ局RTのシモニャンがクラソフスキーとの協力関係の停止を発表し、露連邦捜査委員会のアレクサンドル・バストリキン部長はその発言が過激でないかチェックするように指示した
一方、ドミトリー・サヴェリエフ議員(統一ロシア党)は、クラソフスキーについて「直ちに勾留し、法の及ぶ限り速やかに有罪にしなければならない」と述べた
クラソフスキー本人は「気まずかった」「不味かった」「友人を陥れたくなかった」と非常に奇妙な謝罪を表明している
なお、戦争が始まって8カ月、露は主要テレビ局の発言に憎悪や敵意を煽っていないかチェックしたことなど、これまで一度もない
(終わり)
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