毎日書く #02-2 THROUGH THE SENSES
毎日書く練習、きょう二つ目。
《Chatsubo》のゴッドマザー的存在、フェイ・フューの視点を借りて、感覚だけを頼りに、あらゆる分析や解釈を排して書く練習です。"senses" と言うからには、複数の感覚器を意識してみます。
フェイ・フューは目覚める。なぜだか、ベッドではないところで横たわっている。起き上がる。そこは確かに彼女の部屋なのだが、どこかが何となく変化しているように思える。
ヴィレッジという映画のDVDが部屋に置かれている。もちろん、わたしが置いたのだ。
パッケージの両の指が禍々しい。その白く撓んだ長い指。
わたしはその指へ触れようとする。プラスティックのつるりとした感触。
どこかに同じような構図の絵があったことを思い出す。わたしは書架の本をあれこれ見てみる。
たしか、ポストカード。ベルリンの、王立美術館群のどこかで立ち寄ったミュージアムショップで買ったポストカードだ。
わたしはある図録を引き出し、腕に抱えて開く。ずしりと重い。
果たしてそこへ挟まれていたポストカードを見つけ、手に取る。
連関の鎖。ずしりと重い。
同じように両指を内側へ曲げ、把持しているのはグレーの空間。グレーの空間と、白っぽい両手。赤い曲線が幾筋か指に絡められ、端は垂れている。
わたしは注視するあまり、頭から吸い込まれそうだ。磁力がビリビリ。
ほどなくして、わたしは自分の指に絡んだ赤い糸の圧力を感じる。手を見る。
糸はさらに絡まり始め、わたしをきつく圧する。
そしてとうとう、わたしの両手を括ってしまう。
両手を離そうとしても、もはやしっかりと抵抗を感じる。
赤い繭はしゅるしゅるとわたしの両手を鋳込んでいく。手は次第に熱を帯びてくる。湿っている。
赤い繭はもはやわたしの顔へ届くほどに大きくなってくる。
わたしはそこへ唇をつける。ざらりとしている。舐めてみる。ざらりとしている。
そうしている間にも、赤い繭は大きくなる。わたしの唇までもが覆われ、鋳込まれ、繭の一部と化していく。温かい。
しゅる。しゅる・・・。絹の帯を捌く潔い音。
わたしは繭へ唇をつけたまま、頭を傾け、もはや繭の内部となっていく。温かい。うれしい。
空気の流れは感じる。温かい。
わたしは彫像になりたい。
わたしを繭化する動きは一時も止まない。止まないでほしい。
わたしはどこかへ接続されていてほしい。自動化され、永遠に稼働してほしい。
切迫した祈り。
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