村上春樹研究本は数あれど、これはおもしろかった。
横道誠の村上春樹研究を読んだ。四百ページ近くある大部である。
村上春樹は自らのことを「村上春樹インダストリーズ」の生産担当にすぎない、と言っていますが、横道氏は村上春樹ワールドを「サンプリング、翻訳、アダプテーション、批評、研究」といった要素からなる世界文学的構造体として読み解こうとします。
なるほど。
確かに、村上春樹はサンプリングの達人であるし、翻訳もし、そしてアダプテーションも批評も、研究も、絶えず密かに行っている(あからさまに批評めいたことは滅多に言わないにしても)。
そして彼を取り巻く世界の方も、村上春樹をサンプリングし、翻訳し、アダプトし、批評研究している。しかも世界規模で。あらゆるジャンルの人が。作家だけでなく、ミュージシャンも演劇・映画人も、研究者も。
生命を持ち、代謝を行う構造体ですね、こうなると。
で、横道さんはご自身が自閉スペクトラム症の当事者として抱負な体験的知識を持っておられるので、僕はこの本を彼の「病跡」研究として読めたらいいな、と思っていた。ところが読み始めてみるとおもしろくて、そういう引いた視点はどっかに吹っ飛んでしまっていた。
何だろう、しかし独特な読み味を感じる。不要な気遣いが希薄というか。迂遠なところがなく、ストレートで。微妙なバランスが保たれている。おかげで、一日で! 読み切ってしまった!
退屈しない。そうか、退屈しない。つーても、おもしろおかしくってわけじゃないんですけどね。
それにしても、これだけの大部をまとめるとなると、すごい執筆管理スキル・・・・・・! つうか、それより何より、文献渉猟の量が途方もない・・・・・・。
・・・・・・ところで、村上春樹が自分は「村上インダストリーズ」の生産担当にすぎない、という表現をしたのは、川上未映子と対談のなかで。言い得て妙だ。