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毎日書く #05
目が覚めた時、部屋のカーテンが風にそよいでいた。窓が開いていた。
サッシの窓枠の手前の床は、日に当たって熱くなっている。わたしは裸足の足でその熱さを感じる。
もう昼近いはずだ。
わたしは奥へ戻り、時計を見る。12時をすぎている。
こんなに寝過ごしてしまうなんて。しかも床に寝て。
わたしはもう一度床へ横になる。
こげ茶色の木の床。掃除をしなくては。埃がたまっている。手近なところに落ちている小さなゴミを指で集める。
全く効率の悪いことだとわかっていても、つい指で集めずにはおれない。
掃除機でもれなく吸ってしまう方がいいのだが。
わたしは姿勢を変える。腕で枕にする。
・・・はらがへった。
昨日、車から見かけたジジイのことを思い出す。
店に向かって歩いているジジイのその顔。
つるりと日に焼けて薄い皮膚。帽子はかぶっていない。
ジジイなのに、つるりとした顔。近いところしか見ていない目。
そいつは確かにジジイなのだが、グレーと青の太いストライプのTシャツを着ていた。バミューダパンツにビーチサンダル。
日に焼けて皮膚の薄い、曲がった足。少ししか開いていない窓のような目。
ジジイの存在が、どこからともなくやってきた別の記憶を、わたしに捕まえさせた。
わたしは白い粉をガラスのボウルで捏ねている。
粉は水を吸い、膨らむ。
やがて、ボールから出しても自立できるほどの塊となる。
塊は包丁で崩れることなく切り出せた。
エッジも鋭く切り出され、矩形となった塊。
わたしはそれを両手で掴む。
真ん中に両の親指を当て、じわりと割る。
しゃ、しゃくり。
気持ちよく割れた。
割った断面のエッジも鋭い。
わたしはその鋭いエッジへ唇を添わす。
塊へ向かって体を屈め、そこへ唇を添わす。
粉がざらりとしている。
ゆっくりと舌で土を感じる。
じょり。じょり。
鋭かったエッジは唾液で溶けてくる。
ゆるり。
食べ始めたアイスクリームを途中でやめられないのにも似て、
わたしは尖ったところがなくなるまで
エッジを隈なく舐めた。
隈なく!残っているところがあってはいけないのだ!
とうとうすべての稜線が唾液で溶かされ尽くした。
わたしは顔を上げる。
蒼く発酵した釉薬の壺を手元に引き寄せる。
釉薬がひしゃくで捲かれる。
塊はゆるい薬で覆われる。
幾つもの層が作られる。
蒼いしずくが滴る。
わたしは塊を炎にあてがう。
ぱちぱちぱち。
薪が爆ぜる。
ぱちぱちぱち。
これで、隈なく、十全に、すべてが片付いた。
わたしは
髪も口も指もしとどに汚しながら、
しかし安心して、
火の前に腰を下ろし、胡坐をかく。
指に土の詰まっているのを感じる。
やがて、わたしは眠ってしまう。
捏ねた土も、唾液も釉薬も、やがて乾こうとしていた。