【社会背景のまとめ】 なぜ日本で、サッカーをしたくても諦めている子どもたちの応援活動をするのか。
(2022年4月更新)
2021年1月、love.fútbol Japanでは、日本でサッカーをしたくてもできない子どもたちが、新学期を安心して迎えて大好きなサッカーを思いきり楽しみ続けられるように応援する活動を開始しました。
日本国内で、経済的な貧困や社会格差などを理由サッカーをしたくても諦めている、または続けることに悩んでいる子ども・若者を対象に、新学期を安心して迎えてサッカーを続けられるように奨励金の支給、社会との繋がりをつくるプロサッカー選手とのオンライン相談、用具の支援をおこなうという活動です。
(国籍問わず。やさしい日本語、英語、ポルトガル語、中国語に対応しています)
▷事業概要はこちら
▷2021年の活動結果はこちら
この記事では、なぜ私たちが日本でこの活動を始めたのか?、その社会背景についてまとめました。
背景を通じて、今後こうした活動の必要性を感じていただけると幸いです。
まず最初に、今回の活動は以下3つを目的にしています。
これら目的は、背景と密に紐づいています。
1. サッカーをしたくてもできない子ども支援の実現
2. 課題の見える化を通じて、必要とされる支援・規模の把握
3. サッカーが好きな人たちの力で子どもたちを応援する仕組みづくり
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①課題1:経済的な貧困
日本では、約7人のひとりが貧困の状態にあります。それに付随して、経済的な理由によってスポーツをしたくても諦めている子どもが一定数います。
(左図グラフデータ:日本財団「子どもの貧困」)
経済的な貧困に関して、厚生労働省が2020年に公表した報告によると、日本の子ども(17歳以下)の相対的貧困率は13.5%、子どもの約7人に1人が相当します(=約280万人)。
(相対的貧困とは、世帯の所得が等価可処分所得(収入から税金・社会 保険料等を除いたいわゆる手取り収入)の中央値の半分に満たない状態のこと。2人世帯で約175万円、3人世帯で約211万円。)
一方で、日本サッカー界における子どもたちの貧困状況はどうか?というと、今のところそのような統計データはありません。
ゆえにあくまでも可能性という話になりますが、
日本サッカー協会(JFA)に登録されている高校生以下のサッカー人口は約67万人おり、そのうち何人が貧困下の可能性があるのか?
繰り返しますが、今のところ統計データはないため、誰も答えを知りません。
ただし、最大数は想像できます。
67万人に子どもの相対的貧困率13.5%を掛けると、約9万人になります。
つまり、日本の高校生以下のサッカー少年・少女で相対的貧困下の可能性がある人数は最大9万人。もしかしたら、9万人の子どもたちが貧困化の状態にありながら、サッカーをしている可能性が今の日本サッカー界にはあるわけです。
実際には9万人もいないと推測されますが、この人数は、選手登録ができるような日常的にサッカーをしている子どもに限定されます。経済的な理由によって、部活やクラブに所属していないけれど、本当はサッカーをしたいという子どもの人数は含まれていません。
また、2021年春に実施した事業を通じて明らかになったこともあります。
「支援世帯の約31%が、子どもがサッカーをするために『借入』をしていた」
「小学校時点で、子どもがサッカーをしたくても経済的な理由でさせてあげられない世帯が6%存在」
続いて、こちらをご覧ください。
過去の調査から、経済格差によるスポーツの機会格差を確認することができます。
学生への奨学金事業等に携わる「あすのば」や「あしなが育英会」が過去に実施した調査結果です。
調査によると、家庭の経済的な理由により、学校の部活、学校外の習い事を諦めている子どもたちの存在が確認できます。
■あすのば「子どもの生活と声 1500 人アンケート最終報告」
Q. 経済的な理由から子どものことであきらめた経験
・保護者の回答:「塾・習い事」69%
・子どもの回答:「スポーツや習い事などができなかった」27%
■あしなが育英会「あしなが高校生2100人アンケート調査」
経済的な理由で、部活や習い事などを「やめた」もしくは「やったことがない」と答えた生徒は、約20%。
全国高校生調査と比較して、9ポイント高い。
2021年には、経済的貧困によるスポーツの機会格差についての記事がいくつか公表されました。
(補足1)
事業準備にあたり、いくつかのサッカークラブや部活の先生にヒアリングをしました。プライバシーの問題から、子どもたちの家庭の経済事情を把握しているケースは稀のようですが、実際に経済的に継続が難しい子どもがいる場合、クラブによっては負担額や支払い時期を調整するなど個別に対応しています。
(補足2)
部活、クラブにおいてもっとも費用負担が大きい時期は、新しい用具を購入しなければならない4〜5月と、遠征費や合宿費が発生する夏季だと言われています。新学期時点の負担を減らすことが、通年の活動を可能にすることから、今回の事業は新学期の前にサポートできるようこのタイミングで実施しています。
②課題2:社会との希薄な関係
お金や物資支援だけでは解決ができない、子どもたちと社会の希薄な関係に繋がりをつくることが求められています。
こちらのデータは、放課後の子どもの居場所づくりに取り組むNPO法人「放課後NPOアフタースクール」のホームページに掲載されている、日本の子どもの課題をまとめたものです。
●孤独感:Q. 孤独を感じることがあるか?
日本29.8%(調査対象25カ国中ワースト)
●自己肯定感:Q. 自分を価値ある人間だと思うか?
日本9.6%(米国53%、中国28%、韓国48%)
●コミュニケーション:放課後に週2日以上1で過ごす%
日本41%(米国18%、ドイツ21%、韓国28%)
サッカーを楽しむ子ども世代にも、精神的な課題が顕在化していることを考えると、資金や物資の支援のみならず、自分のことを見てくれている存在、自分のことを認めてくれる居場所や、社会との繋がりを感じられる環境をつくる活動が求められています。
また、日本に暮らす外国ルーツの子どもたちの課題もスポーツ界で耳にします。
外国ルーツの子どものうち約37,000人が日本語がわからないまま学校に通っていたり、そのうち7,000人は人手不足から日本語教育を受けられない環境(言語難民)にあるそうです。2019年には、日本に住民登録している外国籍の子どものうち小中学に通っていない子が約22,000人いることが文科省調査で発覚し大きなニュースにもなりました。
そうした子どもたちにとって安心できる居場所はどこにあるのか。
日本語ができないゆえ必要な情報にアクセスできずサッカーを楽しめないことや、クラブや部活に所属しても外見、言語の問題から監督・チームメートとうまくいかず孤立を感じるという話も聞くようになりました。
今回、提供する「プロサッカー選手とのオンラインセッション」は、孤独感や自己肯定感の課題に対する取り組みとして位置づけています。
子どもたちの悩みに寄り添うことを大切にしながら、選手とのつながりを通じて、自分の存在を見てくれる人たち、自分の夢を応援してくれる人たちとの繋がりを届けていければと思っています。
なお、オンラインセッションは、子どもも選手も安心して参加できるよう、選手たちにトラウマインフォームドケアや、逆境環境にある子どもへの理解を深める事前研修をおこなった上で、開催しています。
③課題3:課題の見える化
サッカーをしている人たちに、「日本でサッカーをしたくてもできない子どもを応援する活動をします」と伝えた際の一番多いリアクションは、「日本にそんな子いるの?」という反応です。
その大きな要因になっていることの1つが、「課題が見える化」できていないことになります。
過去の調査から「サッカーをしたくてもできない子ども」の存在は確認できるものの、これまで同様の支援活動が少なかった理由は、適切に「課題が見える化」できていないため、必要とされる支援・規模が分かっていない状況が続いていることと関係しています。
「課題が見える化」できていない場合、必要な支援内容や自分にできることがわかりづらく、それゆえに関心を持つ人は少なく、課題を改善する行動が生まれにくい状況が続きます。
今回の事業では、「課題の見える化」をレバレッジポイント(状況を変化させる起点)として捉え、好循環化を図ることを重視しています。
課題が見えることで、必要な支援と規模がわかり、サッカーに関わる人たちが自分にできることがわかるようになります。結果として、課題を改善する行動が生まれやすくなることが期待されます。
目的に「2. 課題の見える化を通じて、必要とされる支援・規模の把握」を設定しているのはこのためです。
ただし、私たち自身への反省を込めてお伝えしますが、
「課題が見える化」できていないことは、問題の本質ではありません。
サッカーに関わる多くの人が、サッカーをしたくてもできない子ども・若者の存在に目を向けてこなかった、声を聞こうとしてこなかったことこそが、本当の要因だと感じています。
その姿勢をあらためる時が来ています。
④希望
ここまで課題ばかりで暗くなりがちですが、私たちが今回の活動を決めたのは、課題とともにそれを解決できる「希望」を見つけたからです。
課題1で、相対的貧困下の可能性がある高校生以下のサッカー少年・少女は約9万人とお伝えしましたが、日本の想定サッカー人口はそれを大幅に上回る約450万人もいます。
(観戦者を加えると、1000万人超えるんでしょうか)
9万人と450万人という対比で考えると、
サッカーが好きな人たちが少しでも行動すれば、こうした子どもたちの環境を変えていける状況は、サッカーだからこそ実現可能な希望です。
私たちは、社会を動かすことのできる存在です。
サッカーがチームスポーツであるように、ひとりひとりの力は小さくとも、大きな力を生むことができます。
9万人に対して、450万人。
私たちが少し行動すれば、子どもたちの環境が変わる希望があります。
そこで、サッカーが好きな人たちが応援に参加しやすい仕組みづくりとして、「1% FOOTBALL CLUB」を同時に開始しました。
サッカー界の力で困っている子どもを応援する仕組み
残念ながら、貧困や機会格差はそう簡単にはなくなりません。それを前提にする場合、活動が時代を超えて続くこと、つまり、自然なかたちで世代から世代に循環できるようにすることが大切になります。
サッカー界には、それを可能にする要素があります。それは「サッカーへの愛」です。
そこで、「サッカー愛を、次世代につなぐ」というコンセプトで「1% FOOTBALL CLUB」を立ち上げました。
サッカー選手が年棒や活躍給の1%を、サッカーに携わる人たちが何か収益の1%を寄付し、love.futbol Japanが子ども応援活動に活用する仕組みです。
開始からまだ1年数ヶ月ですが、14クラブの16選手、15組のサッカーコミュニティが参画しています(2022年4月末時点)。
これを20年、50年先の日本サッカー界の財産として遺していくことを目指しています。
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長くなりましたが、3つの課題と希望が、活動の社会背景になります。
少しだけ個人的なことも。
今私がこうした活動をしている理由は、何か特別な原体験というよりは、様々な経験、人との出会いが絡み合って出来ていますが、そのひとつは、「サッカーを通じた社会活動」のデビュー戦となる南アフリカでの経験にあります。薬物やHIVエイズ、教育格差が課題となっているようないわゆるスラム街で活動をしていたのですが、そんな環境にあっても子どもたちが私に求めたことは、「サッカーがしたい」ということでした。
私自身は小さい頃から当たり前にサッカーができる場所がありました。
ただ、それは自分の力とは無関係で、親や地域の大人など上の世代の人たちが過去にそうした環境を作ってくれたからだと思っています。
サッカーをしたいと求める子どもがいるなら、その声に応えていきたいというのが、私個人の情熱になります。
食事、医療、教育。
それら支援に比べて、スポーツの支援は優先度が下がる傾向が続いてきました。「世の中にはサッカーよりも大切なものがある」という正論や、「スポーツは娯楽だ」という風潮もあるので、世間にこの活動を伝えることは、いつも苦しい。でも、この苦しみは、対象となる子どもたち、保護者も同じなんだよね。サッカーをしたくて困っていても、声をあげることが難しい。
一般的に伝わることが難しい問題だから、サッカーに携わっている人たちの力を借してください。
この活動があることで、大切なサッカーを失わずに楽しみ続けられる子どもが存在します。私たちは、その子たちを支えていきます。一人じゃないよって、仲間がいることを伝えて、きちんと未来への意志を示していきます。
本活動は、love.fútbol Japanに寄せられる寄付を原資に実施しています。
しかしながら、現状の財源ではすべての方に希望する支援を届けることが難しい状況です。
今後、ひとりでも多くの子ども・ご家庭を応援できるよう、ご支援宜しくお願い申し上げます
▷サポーターになる
現在、325人ものマンスリーサポーターに支援いただいています。
月額1000円から参加いただけます。
▷1% FOOTBALL CLUBに参画する
サッカー選手、サッカーコミュニティ、サッカーに関わるビジネスを展開されている方々は参画を検討いただけますと幸いです。
みなさんの寄付と思いを、愛と責任持って子どもたちに繋いでいきます。
新しい仲間の参加をお待ちしています。