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【マンガ業界Newsまとめ】漫画の表紙と原稿料の件・ちばてつや先生文化勲章受勲 など|10/27-174
マンガ業界ニュースの週1まとめです。
マンガ・アニメの業界カンファレンスIMARTを主催するMANGA総研代表の筆者が、マンガ・Webtoon関連のニュースを、ビジネス系を中心に、短時間でチェックしていただけるようにまとめています。
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漫画の表誌と原稿料の件
【漫画業界志望の方へ】
— 森川ジョージ (@WANPOWANWAN) October 22, 2024
色々な意見が飛び交ったので自分の説明をまとめておきます。
長くなりますが最後まで読んでくれると嬉しいです。
まず出版社の役割ですが主に販売です。
漫画家の代わりに漫画を売る商売です。
雇用関係ではないので本来労働対価を求めるのは違います。…
この件、正直かなり触れずらいです。どれくらい触れずらいって、これだけ議論が出ても、まだどこも媒体で記事に出来てないですからね。今記事にすると、炎上を助長しかねないからというのもありますし。
この議論は
「漫画家と出版社」
「ベテランと新人」
「老舗出版社と新興CP」
「紙中心とデジタル中心」
「商業作家と個人作家」
「一般向けと成人向け」
などなどなど、
様々な軸が複雑に絡みあうため、どこの立場から意見を言うのかで全く違う論調になると思います。ここがごっちゃだと、まず噛み合いません。
とはいえ、一定の整理は試みたいと思います。その点において、上記の森川ジョージ先生のツリーと、2つの記事は過熱する議論の中で冷静に発言され、かつ整理されているものなので紹介させていただきました。
以下は上に紹介した記事を一通り頭にいれたうえで、その前提で一旦の整理を試みます。
まず、表紙を描くと「表紙代」という名の原稿料が発生するかどうかの問題は、ここ10数年でマンガの売上が紙中心からデジタル中心に移管したことで、かなり感じ方が変わったと思います。
紙の単行本が出る際は、初版と言われる部数分の印税が発生します。初版1万部で、単価500円で印税率10%なら、500万円×10%=50万円が著者にはいります。一方でデジタルでは、表誌に原稿料を出さないタイプの場合、表誌を描いてもその印税が入ってくるのはMG(ミニマムギャランティ―)など、特殊な契約をしてない限り、入金がかなり後です。
結果、紙中心かデジタル中心かで、お金の支払いのタイミングがかなり変わり、そこに結構な体感の違いがあると思います。紙中心なら、初版の印税が「表紙代」に近いと思います。デジタル中心だと、入金が遅れるので、「表紙代」をもらった気にはなりにくそうです。また、その金額感は作風、ジャンル、出版社などでかなり変わります。
さて、今回話題の「表紙代」ですが、実はこの10数年のマンガ業界のデジタルシフトの影響もあり、表紙代を出している編集部はかなり増えています。これは公になるデータでは無いですけど、恐らく半分近く、場合によってはもっと多くの編集部が表紙代を出してるかもしれない体感があります。
この炎上中にも、わたしのところに「うちは表紙代を随分前から出してるんですけどもね。全ての出版社が出してないわけじゃないのに…」というコメントを個人的に寄せてくださる編集者さんがいたりしました。
とはいえ過熱してるSNS上にそう発言する編集者はいません。漫画家でも発信した人は少なかったんじゃないでしょうか。発言の結果、炎上の燃料となり、誰かがより深く傷つくしかないですしね。
また「表紙代」を出す編集部が良くて、出さない編集部が漫画家にとってベストかという、見方によってはそうとも限りません。
漫画家が編集部を選ぶ基準は、まずもって「作品を評価してくれた」ということだと思いますが、他に色々な要素があります。
・編集者の相性が良く、良い作品が作れそう
・販売力が高く、最終的に売上(=収入)が大きくなる
・憧れの作家がいたり、憧れの媒体で描きたい
・もう、長く続けてきちゃったから
・もっとこう、言葉に出来ない性癖的なことや個人的な理由
などなどなど、他、様々な条件があり、きりが無いです。
表紙代を数万円出してくれても、収入が数百万円落ちるということは、ザラにあるわけです。複合的な判断にはなると思います。
とはいえ、漫画家が魂込めて書いた原稿(表紙絵)です。それに原稿料ちゃんと出して欲しいと思う気持ちは、他で出しているところがある現状、それはもう良くわかります。アイデンティティにも関わりますよね。
一方で、例えば表紙代を出して無かったところが出すようになった場合、一つの作品をちゃんと紙の単行本にするのか?連載を続けるのかという判断のハードルが「変える」ことに対して一段上がってしまうのも、ビジネスをやって編集部の立場としてはあります。記事に詳しいですね。
漫画家から見て、交渉することや、描く場所を変えることでの選択の余地がかなり出て来てはいると思います。そして「だからと言って、交渉なんか苦手だよー」とか「そう簡単に編集部を変えられるか」という方の気持ちも、痛い程わかります。
ただ言えるのは、紙しか無かった10年-15年前は、恐らく多くの編集部は表紙代をほぼ出してませんでした。これが今、少しずつ変わりつつあり、結構なところがもう出していそうなので、選択肢は増えたんじゃないかなと思いますし、そしてこれは、これからまた変わっていきそうな気もします。
あぁだめです。
やはり要素が多すぎて、私もここでは結論までたどり着きそうにありません。ここまで千数百文字書いても、これは冒頭の軸における「紙時代からあった老舗・商業出版の・ベテラン作家と新人作家」の一例にすぎません。その枠外だと、またかなり違うことになると思います。
漫画業界は図のような形をしているのです。
— 森川ジョージ (@WANPOWANWAN) October 24, 2024
もっと複雑かもしれません。
上下左右前後の何かの不満を解消するとそれは対極の作家の迷惑かもしれない。
太い真ん中に合わせると尖った才能が育たない。
十把一絡げに語れない。
出版社がそれを知らないわけがない。… pic.twitter.com/FQ4qOdN041
このソロモンの絵は、さすが良く現れされているかなと思いまして、私の筆力で、この字数で触れられるのは、この金平糖の中心部のほんの一部の一般論くらいです。私がなんでも知ってるわけでも無いですし。
漫画家さんは、まずは今いる現場への相談と、他のところではどうなのか、調べて行くしかないのかなぁと。あとは皆さん、せっかくの機会ですし、一旦心のざわつきは置いておいて(難しいのはわかります。わかりますが、です)今ご自身の置かれている環境の解像度を上げる試みもありかと思います。ちょうど、色んな情報も出ておりますし、最近出した私の本も、今時の編集部事情や、今時の漫画家の多様な稼ぎ方をまとめています。
その上で、ご自身の立ち位置と、環境の変化を踏まえた選択をしていくことが大事かなと思いました。
ちばてつやが文化勲章を受章、マンガ家では初「これからも文化として愛され続けて欲しい」
ちばてつや先生が文化勲章受勲、おめでとうございます!
これは、後世にも本当に色んな意味があると思います!
次は、漫画家のお札が出来て欲しいですね。
国内News
今夏より4回にわたり行われてきました検討会ですが、「メディア芸術ナショナルセンター」も整備に向け予算要望が出ている中で、具体的な議論が進み、このタイミングで報告書が出ています。
具体的に、マンガの原画保存に対する課題や、その対策を行う人材の育成に触れるなど、今後の方向性が見えて来る報告書でした。
文化庁の『マンガ、アニメ、特撮、ゲーム等の国際的な振興拠点及び… pic.twitter.com/keRYAcrTIw
— コミックマーケット準備会 (@comiketofficial) October 25, 2024
コミケ準備会からもこうした声明が出ています。
文化庁の著作権の分科会では、Netflixが文化庁に報告書を出してる!ということで、界隈で話題になりました。色々意見が出てましたが、すごく良く出来た資料でした。今週のトップの話題は、クリエイターと出版社の件でしたが、こうした動きが増えそうですね。
めちゃコミのオリジナル作品が月商1億円を超えたというリリースです。紙の雑誌・単行本の話では無く、ボンデジ作品のことですので、こうしたリリース増えましたね。ちなみに、Webtoonではなくて横漫画だと思うのですが、めちゃコミなので縦読みになっています。
ところで、このリリースの1行目、運営会社のアムタス社の代表取締役が変わっていることにお気づきの方もいらしたんではないかと。
調べてみると、人事のリリースが出ていました。
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新社長に児玉隆志氏、社外取締役の新任の中には、鳥嶋和彦氏の名前も見えます。前社長の山下氏は会長に昇任ですね。
親会社のインフォコム側では、株式の併合と上場廃止のリリースが出ています。端的に言うと、ブラックストーン社によるインフォコム社買収の手続きが進められ、新人事が出ているということですね。
新社長の児玉隆志氏の前職は、アマゾンジャパン プライム・ビデオ ジャパンカントリーマネージャーとのこと。鳥嶋さんはブシロードに続き2社目の社外取締役ですね。さてさて、始まってまいりましたね。
アミューズクリエイティブスタジオが、女性向けのマンガレーベル・Stellarium(ステラリウム)を創刊。あのAmuseの動き。まずは女性向けからと。手堅い所ですね。
パルプライドが、新マンガレーベル「パルコミ」創刊。これまで女性向け作品中心だったところから、ノンジャンルで出していく形ですね。ある程度実績と経験を積んで、次のステップに行っている形跡ですね。大事です。
最近偶然こちらの編集部の方とやり取りをさせていただいたのですが、名古屋の漫画空間と連携するのですね。地域色があって良い取組だなと思います。
こちらは紙雑誌廃刊のニュース。SNS時代の4コマの難しさですね。
実はちょうど先週、はじめて私もアルファポリスさんにお邪魔したんですが、同社からこういう記事が出るのは珍しいですよね。ついさっき、お気に入りの『異世界転生騒動記』の新刊を読んだばかりなんですが、私個人的に大分掴まれちゃってます。
「漫画産業論」の中野晴行さんの記事なのですが、紙の雑誌や単行本から電子に至るこうした記事を書かせたら、日本一だと思うのです。
いやー、フリーレン系の取組はSNSの自由さも含めてホント柔軟ですね。誰でもできることじゃないと思いますけど、個人的には好きです。
この
『「ある」のがいけない!』
っていうスタンプは、個人的LINEスタンプ史上最高にエモいと思っております。そんな機会なくてまだ使えてないんですがw
確かに「至る」ですよこれは。
女性向け作品がCityに寄って行っている昨今。ある種、それはそれで最早悪くない面もあるんじゃないかなとも。
Webtoon・ショート動画関連
ソラジマのWeb雑誌「ソラジマTOON」創刊ということで、毎週月曜日に読切掲載とのこと。Webtoonは読切に寄る試行錯誤や新人育成・新作テストがしにくいと言われてきましたが、自前でそれを行うというねらいのようですね。2025年度に年間100本、2030年度までに年間365本の公開を目標とのこと。
ソラジマ作品のライトアニメ化に伴うCV発表のプレスリリースなのですが、同じ内容で、米国のAnime News Networkにも同内容の記事が出てました。同社作品は北米の英語版でも上位に名を連ねており、そうした意味ではプレスリリースが日米同時発信ということも出始めているのでしょうね。
結構大変だとおもうのですけども、しっかりやられてますね。大事なことです。
Webtoonに関するMMD調査で、いくつか記事が出ていました。
・課題とファン層の乖離
・年齢別利用実態
など、いくつかの切り口になっています。
海外News
国内の記事ですが、海外のニュースです。なるほどあの作品がですか。
ドイツの翻訳者さん事情です。日本側からはどんなことができましょうか。
韓国の海賊版サイトでも損害賠償訴訟10億ウォン(約1億円)とのこと。
カカオが、インドネシアと台湾でWebtoon事業から撤退とのこと。
2本目の記事では、日本と北米のビッグ2市場に注力するとあります。
インドネシアでは、100か所以上の海賊版サイトも影響したとのこと。
2つ目の記事はゴシップっぽい記事なのではばかれるのですが、1つ目の記事と合せて、韓国Webtoon周りは難しい課題がかなりありそうです。
AI・画像生成関連
*:海外記事です。自動翻訳など活用ください。
タイトル訳:ペンギンランダムハウスは、書籍の著作権ページにAI警告を追加している。
これ、版元側の動きとして面白いですね。
ちなみに、北米最大の出版社でもある同社ですが、講談社とスクエニの米国法人を運営するというビジネスもしています。どう影響しましょうか。
これ出来ちゃうと、大分変る気はしますね。
音楽系は、よりわかりにくそうですね。AIでも音楽から先行事例が沢山出るかしら。
とても興味深い記事でしたのでご紹介です。
これは、AIの良し悪しとは別次元の、現在のネットを取り巻く環境で「イラストを必要とする個人がどうしているのか」という手記で、AIの絵を使うということについて「それはそうなるでしょうねぇ」という流れで書いてらっしゃいます。おかれた環境が良くわかり、妙に説得力があります。
元々ゲーム製作会社にいた人が、独立してか副業か趣味かで、インディゲーム作ろうとするとこうなるかな…と、余計なことですが思いました。
今週のセール・キャンペーン・新人賞、取組等
こちらは、本体に合せて刻んでますが、こうした細かい取組も大事ですね。
アメリカの漫画賞であるハーベイ賞
— 「ダンジョン飯」アニメ公式 (@dun_meshi_anime) October 25, 2024
こちらの2024年「Best Manga」を
『#ダンジョン飯』が受賞いたしました🎊
英語圏の皆さまにも、本作をどうぞ楽しんでいただければ幸いです。
誠にありがとうございました!🐲🍴#DeliciousinDungeon https://t.co/ibn24DdhKO
めでたいすな
ユニークな作品のユニークな広告
これもまた、はまった取組ですね。「至る」ます。
プロ限定の早い者勝ちの漫画賞。ユニークです。
記事のみ紹介
告知関連
いくつか、IMARTのセッションの告知です。
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— IMART2024「国際マンガ・アニメ祭 Reiwa Toshima」@2024/11/12〜16 (@ImartFes) October 21, 2024
🗣 #IMART セッション紹介
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タイトル:「不健全図書改称(仮)」
開催日時:2024/11/13(水) 12:00- 13:30
登壇者:
🏮森川ジョージ氏 @WANPOWANWAN
🏮荻野幸太郎氏 @ogi_fuji_npo
🏮稀見理都氏 @kimirito
👇チケット予約はこちら👇https://t.co/zE4nWr11sv
弊社作品が海賊版によって、売上が落ちた事が分かる驚くべきデータも公開されると思います。当時かなりショックを受けました。必見です。 https://t.co/B1ySBVprSW
— 石橋和章 /Zoo (@mikunikko) October 26, 2024
⠀//
— IMART2024「国際マンガ・アニメ祭 Reiwa Toshima」@2024/11/12〜16 (@ImartFes) October 22, 2024
🗣 #IMART セッション紹介
\\
タイトル:「漫画ビジネスのパラダイムシフト(仮)」
開催日時:2024/11/15(金) 14:00- 15:00
登壇者:
🏮ぬこー様ちゃん氏 @nukosama
🏮石橋和章氏 @mikunikko
🏮菊池健氏 @t_kikuchi
👇チケット予約はこちら👇https://t.co/zE4nWr11sv
【お知らせ】
— エ☆ミリー吉元 (@_emilioemily_) October 21, 2024
マンガとアニメの業界横断カンファレンス
「#IMART2024」https://t.co/GMlFpIs1al
11/14にトークセッションを2つ企画しました!
🔸親の生原稿、どうしてる?〜漫画家二世のぶっちゃけホンネ!公開陳情会〜
🔹マンガ原稿は「浮世絵の二の舞」となりうるか:アニメ原画の海外流出を受けて https://t.co/Pp2BqrUEoB pic.twitter.com/hA87OUC5Xn
ここ数日議論となっている、単行本の表紙イラスト問題についても4つめの会員限定コーナーで触れることになりました。ご関心ある方、ぜひ。(このパートは会員登録が必要です) https://t.co/jYOYzDYqFj https://t.co/d5UIYjZV7b
— まつもとあつし (@a_matsumoto) October 25, 2024
こちら、先週金曜の配信のアーカイブが出ています。
筆者単著「漫画ビジネス」クロスメディアパブリッシングより発売中です!
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池袋のハロウィンが楽しすぎる。アニメイト前のランウェイとニコ動の組み合わせ。地元の高校生達による宇宙戦艦ヤマトの行進曲に合わせて、先頭コスプレイヤーは区長だった笑。行政(豊島区)が全面的に若者をサポートしているのもとても好感が持てる#池袋ハロウィンコスプレフェス2024 pic.twitter.com/AcYsfspHyK
— Yuji Yoshimura (@ABcruasan) October 26, 2024
地元なので今週末わたしも見たのですが、良いものですね、コスプレ特化型ハロウィン。みんな楽しいそうでしたし、見てるだけでもニコニコしちゃいました。
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毎週原則日曜(週初めの平日の前日)に更新しています。
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