JT重力をやってみよう-導入1(起源)

JT重力の作用を一般のディラトン場の形から導入していきます。本稿では事の始まりについて少し述べます。議論の誤りや計算間違いなどがあるかもしれないので注意してください。もしあったら教えて下さい。

起源

ことの始まりは80年代に遡ります。Teitelboimが1983年に2次元時空における重力やハミルトニアンについての考察を行い(Phys. Lett.126B (1983) 41-45.)、Jackiwが1985年に今日用いられるような形で定式化したもの(Nucl. Phys. B 252 (1985) 343-356)が起源です。

$$
S=-\frac{1}{16\pi G_{N}}\int\sqrt{-g}\Phi(R+2\Lambda)
$$

$${R}$$はスカラー曲率で$${\Lambda}$$はエネルギー2乗の次元を持つ宇宙定数です。原著の記法に寄せていますが、全く同じにはなっていません。

この作用を導入した動機として、通常の通常のEinstein-Hilbert作用は、2次元においては計量の変分に対して自由度を持たないというものがあります。Einstein-Hilbert作用を

$$
I_{EH}=-\frac{1}{16\pi G_{N}}\int_{\mathcal{M}}\sqrt{g}R
$$

と置きます。ここから計量の変分によって得られる方程式は

$$
R_{ab}-\frac{1}{2}g_{ab}R=0
$$

です。一方、2次元の曲率テンソル$${R_{abcd}}$$は対称性から独立な成分が1つのみとなります。なのでスカラー曲率を用いて

$$
 R_{abcd} = \frac{1}{2}R(g_{ac}g_{bd}-g_{ad}g_{bc})
$$

と書くことができます。ここで両辺の縮約を取り、$${R_{ab}=R^{\mu}{}_{a\mu b}}$$となるようにします。すると

$$
R_{ab}=\frac{1}{2}Rg_{ab}
$$

を導きます。よって、Einstein-Hilbert作用から得られた方程式は自明なもので、物理的には何も言わないこととなってしまいます。そのため、新たにスカラー場を結合させる動機が生まれました。

曲率を含み、スカラー場(ディラトン場)$${\tilde{\Phi}(x)}$$とその運動項を含む作用を、一般に3つの関数$${U_{1}(\tilde{\Phi}),U_{2}(\tilde{\Phi}),U_{3}(\tilde{\Phi})}$$を用いて

$$
  I=-\frac{1}{16\pi G_{N}}\int_{\mathcal{M}}d^{2}x \sqrt{g}\left(U_{1}(\tilde{\Phi})R + U_{2}(\tilde{\Phi})g^{\mu\nu}\partial_{\mu}\tilde{\Phi}\partial_{\nu}\tilde{\Phi}+U_{3}(\tilde{\Phi}) \right)
$$

と書けます。たとえばディラトンを含まないように$${U_{1}(\tilde{\Phi})=1,U_{2}(\tilde{\Phi})=0,U_{3}(\tilde{\Phi})=-\Lambda}$$と取れば宇宙定数を含むEinstein-Hilbert作用を得られます。

次の記事では、この作用から前回の記事でも提示した

$$
I_{JT}[g,\Phi]=-\frac{1}{16\pi G_{N}}\int_{\mathcal{M}}d^{2}x\sqrt{g}\Phi(R+2)-\frac{1}{8\pi G_{N}}\int_{\partial \mathcal{M}}du\sqrt{h}\Phi(K-1)
$$

を導いていきます。

おまけ

Claudio Teitelboim Weitzman[1947-]

チリ人の物理学者です。2005年以降はClaudio Bunster Weitzmanを名乗っていますが、歴史的な経緯によりJT重力にはTeitelboimの名前で残っています。名前はスペイン語圏の人名の命名規則により(名前)-(父方の姓)-(母方の姓)となっています。Teitelboim姓は養父のものであり、Bunster姓は共産党によって秘匿されていた実父の名字です。知ったのが2005年だったため、それ以降はBunster姓を名乗っています。

Roman Wladimir Jackiw[1939-2023]

キリル文字ではРоман Володимир Яцків(Roman Volodymyr Yatskiv)と表されます。ウクライナ人家族のもとでポーランドに生まれ、その後アメリカに移りました。Jackiwの名前は日本ではジャキーウ、ジャキーフ、ジャキエフ、ヤキエフなどと読まれています。ウクライナ語での発音はヤツキフらしいです。

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