音声燻製 父の声 母の声 #毎週ショートショートnote
親父のほうから電話をもらったのは久しぶりだ。おふくろが死んでからもう3年だからそれくらいぶりだろう。俺からは毎週電話するけれど、それも「元気か?」「ああ、変わりない・・」位で大概は終わる。
親父も七十を超えた。一人にしておくのは、と考えるがまあ、まだ、といつも先送りにしてきた。だが電話での親父の声は俺が優柔不断さを恥じ入るに十分に小さな声だった。
「たまには帰れ」
俺が訪ねた時、親父は台所で何やら支度をしていた。何かと聞くと昨日作った手羽の燻製を食わせてやると言った。親父は燻製が上手でおふくろも好きだった。濃いキツネ色に燻された手羽を、親父は卓上コンロに乗せた網で軽く炙る。
手羽に閉じ込められていた油が時折、ジュッと音を出す。
香ばしい匂いが揺らぐなか、俺と親父はただ網の上の手羽の頃合いだけを黙って見ていた。
「母さんがな」
親父が目線をそれから外さず言う。
「楽しみと言うんだ。燻してたらな・・」
また燻製はジュッと言った。
完 409文字
たらはかにさんの毎週ショートショートの企画「音声燻製」の2作目です。
今更ですけど、ショートショートって難しい。いや、長いのも難しいし短くても難しい。けど、少しずつ、少しずつ自分の感じたことや言いたいことを表現できるように勉強させていただきます。
今回もお読みいただきありがとうございました。
皆さまのスキやコメント、本当にありがとうございます。
次へつながるようやっていきます。