桜回線 ② 毎週ショートショートnote
「貴方がいてくださるなら、わたくしも必ず」
「私がその約束を違えることはない」
「わたくしも」
「もっと近くにそなたの香りで私を包んでおくれ」
「手を伸ばしわたくしを愛でてくださいませ」
「そなたを手折ってしまいたい」
「それはなりませぬ。わたくしは……」
恋しさに男は八重の花弁が付く一枝を勢い手にしてしまった。
「なぜ、手折ったの? なりませぬと申しました」
「そなたをずっと抱いていたいのだ、このまま連れてゆきたい」
「わたくしはずっと貴方のものだったのに……」
その時を最後に桜は弱り、その木は一夜にして花をすべて落とした。
男は過ちを恥じ、自らの命をたった。
手折った一枝は花をこぼすことなく、花器の中で男の最期を見届ける。不憫に思った人々はその枝を男の塚にさした。
以降、春には塚に根をつけた桜が見事な花をつけた。その花に耳を近づけると囁く声がするという。
「私を手折ってはなりませぬ。さすれば花は回りくるのです」
完410文字(ルビ含む)
ひと恋めぐり 柴咲コウ TBS系ドラマ愛の劇場『砂時計』主題歌