メガネ朝帰り 毎週ショートショートnote
「帰ってきたよ」
あの人の声が聞こえ、ベットの中の私は寝返りをうち声のする方へ顔を向ける。眼は閉じたまま、開けることはない。
あの人は優しく軽いキスを私の頬にする。あの人の少し冷たいメガネのフレームが私の耳に触れる。それだけで私はいつも濡れる。
一週間に一度、いつも木曜の朝方にあの人はそうやって私をまどろみの中から引き戻す。こんなことがいつまで続くのか。
分かっている。あの人はもういないのだ。
私の求めに応じてあの人は戻ってくる。週に一度だけ。明け方に残したメガネの冷たさは、あの人が生身でないことの証。それでも私は濡れる。
いいの。
私の身体も心も、段々とその冷たさを拒まずに受け入れるようになっていった。
もうすぐ私もそっちへ行くの。そうすれば眼を閉じたままでなく、あなたのすべてを見て感じられるわ。
そして次の木曜日、私達は一つになった。
「301の奥さん、まだ若いのにね~旦那さん可哀そう」
「3か月前に401の御主人も急にね~」
完410
平井 堅 『哀歌(エレジー)』
平井 堅 YouTube Official Channel
たらはかにさんの毎週ショートショートの企画、今週のお題「メガネ朝帰り」に参加させていただきました。
メガネ、帰ってきましたよね。ちょっと心配。
こういうこともあるのかなと……
タイトルにはいれなかったけどやはり大人向けなのかもしれない。
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