オノマトペピアノ② 毎週ショートショートnote
思い返せばそれは、黄味がかった所々高さが違う白鍵と一つだけ音のならない黒鍵をうまく指で追えない君の、オクターブ下で同じ指を形作る私のダンスで始まった。
最初は一つずつ動きを真似、ステップを確認するように指を運ぶ。ぎこちなかった君は次第に滑らかに、早く、朗々と、強く弱く、風を運ぶように流れるように、滴るように、燃え上がるように、絶頂に果てるようになる。
ある時君は突然に指を止める。
これ以上は続けられないと私を見る。
私もそれを感じていた。
君はもう表す方法がなかったんだろう。これ以上は自分が知らない感じられない世界だという事を。
私は隣に座り、君の指の替わりに話し始める。
私が君の黒鍵のような苦悩を、君の真新しい白鍵のような誠実な穢れない心を本当にはわかっていなかったことを。
時に豊かに感じさせ、時に傷つけていたことを。
私は聞こえない君にこうやって届ける。決して偽ることなく。
この模倣も私と君との足音であり、言葉であることを。
完410
ノクターン第2番/ショパン
フジコ・ヘミング
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たらはかにさんの毎週ショートショートの企画、今週のお題「オノマトペピアノ」の2作目です。
思うところあって今週はまじめな作品2つで締めました。来週はお題にもよりますが大人路線か、はたまたギャグ路線かでお会いしましょう。
皆さまのピアノ、できるだけ多く聴いています。心が豊かになりました。呟きはしませんでしたが、それぞれの音色や言葉や叫び?は多様な文化と表現を認める幸せに踊っているようです。