濃密で豊かな時が流れた、Wi-Fi不通の6時間
コロナ禍となった2020年の夏ごろから2021年末までの1年半ほど、猛烈に仕事が忙しかった。よく働くことができて、生活の心配をせずに済んだのはとてもありがたい。なんて、幸運なのだろうと心から思う。でも、その一方で働きすぎて、自分の「芯」がどんどんすり減ってやせ細っていった。
まず、最初に生活が雑になった。
自炊がままならなくなり、冷凍食品や総菜、デリバリーの頻度が上がった。今まではそういうときでも、お皿に移し替えていたのが、容器のまま食べるようになっていった。
「使ったら、しまう」ができなくなった。朝、メイクをした道具がそのままダイニングテーブルに放置され、翌朝、またそれを使うようになった。ドライヤーも定位置に戻さずに、翌日、また使う。身だしなみ関連アイテムから始まった「使ったら、使いっぱなし」を皮切りに、いろいろな生活用品が「出しっぱなし」になっていった。
緑茶や紅茶、ハーブティがティーパックになり、コーヒーもパックのドリップタイプになった。
洗濯物をためない。せめて掃除機をかけるというところをなんとか、クリアするので精一杯。
部屋が雑然としていくのと比例するかのように、私の心の「芯」もどんどん細くなっていった。
いわゆる「丁寧な暮らし」がしたいわけでもないし、していたわけでもなかった。でも、人にはそれぞれに「譲れないライン」というものがあって。私の場合は、「お茶を急須で入れる」ことや「所定の位置のあるものは使ったらしまう」ことだったのだろう。
些細なことだけれど、そうした「譲れないライン」を超えてしまうモノやコトが積み重なると、「芯」がどんどん削られていく。
ましてや、コロナ禍でステイホーム。気分転換になるような機会が持ちにくいことも、影響してるという自覚もあった。
この「働きまくり」の日々の原因は、人手不足にあった。「どうにかして欲しい」という要望を伝えたからといって、翌週には人手が増えるわけもないことぐらい分かっている。けれど、なかなか改善されないという状況もまた、ゴリゴリと「芯」を削る原因だった。
私は社会人歴、30年というベテラン勢であるが、この30年の間に「仕事のやり方」は大きく変わった。テクノロジーの進歩によって、便利になったけれど。同時にいろいろなところで「間」が失われた。2020年の今の「便利」は、もはや人間が適応できるレベルを超えているように感じる。
先日、自宅のWi-Fiが6時間にわたって、不通となった。自宅のモデムの劣化によるものだったが、この6時間、ものすごくゆったりとした時間を過ごしている自分に、たまげた。
Wi-Fiが使えなくなったのが18時すぎ。その日中に連絡しなくてはならない相手が数人いた。
メールやチャットはスマホで行えるが、通信量の契約をケチっているので、必要最小限にとどめなくてはならない。そこで、込み入った内容は電話をかけた。電話で話したほうが、伝えられる量が多く、かつ正確でお互いの時間を節約できることを実感。
連絡業務が完了したのが19時ごろ。Wi-Fiなしではできる仕事がないと腹をくくり、仕事をするのをやめた。と、書いていて19時まで仕事すれば上等じゃないか、と自分突っ込み。21時、22時まで働くのが「通常」になっていることがどうかしているんだと、まじまじ思った。反省。
夕食に冷凍食品の「トンカツ」を解凍して、炒めた玉ねぎと卵でとじてカツ皿を作った。ちょっとひと手間の調理だけれど、自分好みの味はおいしいな、と思った。
食べたお皿を洗い、拭いて、食器棚にしまう。この時点で20時。
食後、テレビを持っていないので、ネット配信でドラマを見ることができない。防災用に持っているラジオの出番であった。でも、そのときの気分にあった番組がなく、ラジオを消して本に手を伸ばした。
しばらく読んで、時計を見るとまだ30分しか経っていなかった。時計が壊れているのかとスマホを確認した。時間は合っている。明らかに、体感している時の流れが違う。濃密で豊かだった。
いつもよりもゆっくり入浴。顔の化粧水や乳液はもちろん、全身にボディクリームも丁寧に塗れたし、髪もしっかり乾かして、ドライヤーも定位置にしまえた。乾いた洗濯物をたたんで、引き出しにしまった。
現代のあわただしさの80%が、Wi-Fi由来といっても過言ではない、と悟った。仕事を別にしても、Wi-Fiがあることによって気分転換に「YouTubeをつい観ちゃう」とか「気になったドラマをつい観ちゃう」ことをしていたのだ、私は。働きすぎプラス「つい観ちゃう」が時間のなさの原因である。
出しっぱなし、使いっぱなしのモノたちを定位置にしまったりしていたので、気づけば0時近くになっていた。
ふと、スマホを見るとWi-Fiマークが。
劣化したモデムが息を吹き返していた。が、さすがにもう寝る時間なので、今更、復活されてもね、とベッドに入って気づいた。
この6時間で、ほんのちょっと「芯」が復活していることに。
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