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#41 全身転移がん療養徒然草4 母の焼きそばパンに人生をみる

吉田拓郎さんの『人生を語らず』という歌の詩が素敵だ。

目の前にもまだ道はなし
越えるものはすべて手探りの中で
見知らぬ旅人に夢よ多かれ
越えていけそこを
越えていけそれを
今はまだ人生を
人生を語らず

吉田拓郎 『人生を語らず』

頭をガツンとやられた感じ。今だから、振り返られるのだけど…。

体力も気力もドン底だった2月、3月。
転移の告知を受けた4月。告知してくれたアイ先生は、涙をしながら説明をしてくれた。同席してくれていた母と、ワタシだって、まだ、泣いていないのに。

アイ先生は、
「ユミヲさんとは、同い年なんです、」と言って、言葉を詰まらせた。頂いた治療同意書の治療目的を書いた箇所からは、完治を目指す、という言葉が消えて、進行を遅らせ痛みや苦痛を和らげる、という内容に変わっていた。
もちろん、諦めるわけではないです、と、アイ先生は言った。

ココに至り、能天気なワタシも、リンパ節、肺、肝臓転移という告知を受けて、おぼろげながら、ワタシに残された時間、というのを考えた。


今となっては、その時の、ココロ崩れそうな弱い自分を思い出して、苦笑いしてしまうところだ。
わが家の愛すべきガラクタや、クローゼットを占拠する着道楽のお洋服、愛してやまない波佐見焼の器たち、ベランダのオリーブの木やバラたち…、の整理をはじめた方が良いのかな、、、と考える。
貯まったマイルはどうしよう、
退院後のやる事リストはどこまで果たせるかしら、

後半年なのか、一年なのか、、、
それとも、もっと短いのか…、
正岡子規の、
いちはつの
花咲いでてて我が目には
今年ばかりの春ゆかんとす、

などという高邁で美しい思想には辿り着けそうも無いワタシは、この先、何を最優先にして生きていこうか、と、自問自答することになった。
このnoteは、ワタシの愛すべき皆さまへのメッセージだから、必ず治ると信じている、という、強い思いしか書けなくて、ナカナカに、心引き裂かれる思いも味わった。

しかし、
既にネタバレのとおり、ワタシはまだ元気だ。
地獄の治療も頑張っている。

ワタシを支えてくれた愛する皆さまのおかげさまで、元気の底力が上がってきてからは、本来の、明るさも取り戻すことができた。
辛い、辛い、治療の先には、治癒が待っている、とココロから信じる勇気も、力も湧いてきている。

段上げした強い抗がん剤の副作用は苛烈で、今でもめげそうになるが、吉田拓郎さんに、まだ人生を語る時では無いぞ、と叱咤激励され、今日も元気に過ごしている。

やはり、母のおかげ、というのが、大きい。
目覚めると、母がラジオ体操をしている。
お、コレは。
と、横に並んで、手を、脚を曲げてみる。

なんと、まるで動かない。
母よりヤバい。
5ヶ月の寝たきり生活の間に、母との年齢差が縮まっている…。

ワタシ「コリャダメだ。全く外出もできてないし、リハビリのために散歩にでも行くかな…」
母 「ダメよ、暑くて死んじゃうわよ、病み上がりなんだし」

大暑を迎えて、危険な暑さが続いているのは、事実。そのとおりなのだが、、、
ハテ、ワタシ、病み上がっていたっけ?

さすが。
退院すれば、病も治ったようなもの、というのが母の思考。実に天晴れである。

このスーパーポジティブな御人とご一緒させていただいていると、否応なく、明るくなってしまう。

最近の逸話は、焼きそばパン。
ワタシ、世の中の半数は、焼きそばパンなんてあり得ない、と考えていて、残りの半数は焼きそばパン愛好家、ではないだろうか、と、乱暴に考えているのだが、
ワタシは、あり得ない派。
大阪育ちだけど、お好み焼きおかずにご飯は食べられない。母もそうだ。そうだったハズ、、、なのだが、、、

ある夕方のこと。

母が、「夕方に少し食べちゃったから、夕ご飯は入らないわ」とおっしゃり、ひとり晩酌を始めた。
その時は、さもありなん、と、さほど気に留めなかったのだけど、後々、衝撃の事実を明かしてくれた…。

数ヶ月まえ、スーパーマーケットで、焼きそばパンなるモノと目が合い、惹かれるようになったとのこと。コッペパンの具にソース焼きそばなんて、と、初めは敬遠する気持ちでいたのだが、そのあまりの存在感に、怖いモノみたさの興味が芽生えてきたのだという。

ハテ、美味しいのかしら…

手にとって眺めては、ケースに戻すことが何度か。
何度かその行為を繰り返した後に、とうとうご購入、実食に至ったとのこと。

んまあ、美味しいじゃないの!!

見事、焼きそばパンは母のココロを捉えた。

それからというもの、今日は焼きそばパンを食べるべきか、食べないでおくべきか、というのが、一日の重要な決断の一つとなり、食べない日には、焼きそばパンの誘惑に負けない為に、売り場を避けて、遠回りして帰るという術も身につけた、という…。

後期高齢者になって開かれた、焼きそばパンの扉。
くだんの夕ご飯スキップの日、母は、ひとりキッチンで焼きそばパンを頬張っていたのだという…。

母上よ、ありがとう。笑いすぎて免疫も上がります。

母のように、いくつになっても、世界を新しい眼差しで眺めて、興味をもって、チャレンジしたい。そんなシニアになれるだろうか。


来週の月曜日は、タキソールとカルボプラチン、キイトルーダの三剤のがん治療薬の投与日だ。
今回の抗がん剤カクテルは、ものすごく効いている。今年1月、初めてタキソールとカルボプラチンを入れた時、強く、生き残った髪やまつ毛が、此度は消えた。
手足の痺れもスゴイ。電気ウナギに大変身である。

残念ながら、遺伝子パネルの結果、現時点でワタシのがんに奏功しそうなくすりは見つからなかった。

が、先日、腫瘍内科のスーパードクターが、医学誌「The New England Journal of Medicine」に発表された新薬のこのを教えてくれた。
コレは貴女のがんに効きそうです、まだ日本では使えないのですが、なんとか出来ないか動いてみます、とのこと。


毎日は新しい。
全ては手探りの中。
コレがワタシの人生だ、とか、哲学を語るにはまだまだ早い。
ある日突然、焼きそばパン大好き人間になってしまうかもしれないのだから。

写真は、沖縄のテツさんの、海においでよシリーズ第二弾。沖縄の太陽と、青空。
さあ、来年の計画を立てよう、
毎日、新しい自分になるのだから。


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