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昔できたことは、今でもできる! 40年ぶりにセーターを編んでみた。
私の「時間ができたらしたいことリスト」の一番には、「編みもの」が君臨している。
その昔、中学生や高校生のころ、好きな人ができると必ずマフラーを編んだ。
今思えば、まるでセンスがない不揃いな編み目のかぎ針編みマフラーなんて、もらってさぞかし困ったことだろう。ごめん、その頃の男子。
もう少し大人になって、今度は棒針編みをやりたくなり、会社の先輩に教えてもらいながら、そのころ付き合ってた彼にセーターを編んだ。
いきなりセーター。マフラーでも手袋でもなくセーター。
無謀だ。
弁解すれば、その先輩が「大丈夫、編めるわよ」と言ってくれたので、できるかなと思った。でも、完成しなかった時にダメージが少ないよう安いこげ茶色の毛糸を買った。
小心者だ。
お昼休みと仕事終わりに、先輩はいちからそれはそれは丁寧に教えてくれた。自分でも彼のセーターを編んでいたのに、質問したら手を止めて気持ちよく答えてくれた。今、編みものができるのはその先輩のおかげだ。なのに名前が思い出せない。
恩知らずだ。
無謀で、小心者で、恩知らずの私だけど、先輩の指導が素晴らしく、セーターができた!
これまた不揃いな編み目だけど、形になり、彼にプレゼントした。
完成したことでがぜんやる気になって、今度はグレーの高い毛糸を買って、ベストを編んだ。これが素晴らしい出来で、あげるのがもったいなくなったが男物なのでセーターの彼にまたプレゼントした。
ある時彼が、こげ茶のセーターの下にグレーのベストを着ていたことがあった。
ええええええ、プレゼントオンプレゼント、ベストも着てセーターも着るってあり? そんなに私のプレゼントがうれしかったの?
「寒かったから」って言ってたけど、あれは違う。
うれしかったに違いない。
40年たった今では顔もよく覚えていないからどう思おうと私の勝手だ。
その後、編み物に目覚め、機械編みを習い、編み機を買い、カーディガンやらワンピースやらいろいろ編んだのに、
今となっては編み機はもちろん、編んだものも影も形もない。
唯一残っているのは、子供に編んだ帽子だけ。しかも、これ、すごくかわいいのに、かぶり心地が悪かったのか、気に入ってもらえず、ほとんどかぶっていない。とほほ。
さて、時間ができた私、いざ編みものスタート!
セーターを編んだことがある。ベストもある。帽子もある。編み機でワンピースも編んだ。ベテランだわよ。40年以上前だけど。
Amazonで編み物の本を探していたら、かわいいセーターを見つけた。これだ!
本を買う。
編み物は、本来、本番と同じ針と糸で「ゲージ」という四角いものを編んで、それを基準に出来上がりサイズに合わせて目数などを計算する。
でも、久しぶりすぎて計算ができそうもない。
本に載っている糸と、針、まったく同じもので編めば、同じようなサイズで出来上がるはず。
今でも無謀だ。
そして、買ってきました、毛糸や針を。
昔と違うのは、安い毛糸で我慢しないところ。
●「ソノモノで編む着心地のいい私のニット」朝日新聞出版 1430円
●ハマナカ ソノモノ ヘアリーグレー(124)アルパカ75%、ウール25% 170g(7玉)一玉693円×7=4851円
●棒針8号・7号:506円×2=1012円 4本棒針7号:572円
●かぎ針、とじ針、縄編み用針:110円×3=330円
合計:8195円
編み物を始める時は、まず手を洗う。
これは、編み物を教えてくれた先輩の教え。
特に薄い色は、手が汚れていると毛糸が汚れてしまう。
って、そこまで手が汚れることってある?
当時、がさつな私は仕事で使った赤いサインペンが付いた手で編もうとしてて、そう言われた覚えがある。
本を見ながら、まずは作り目。
これは、手が覚えていてすぐできた。
次は2目ゴム編み。表編みと裏編みを2目ずつ編む。
もうつまずいた。
表編みと裏編みどうやるんだっけ? YouTubeを見たけど私がやっていた編み方と違うーー。YouTube通りにやってみるけど、なんかしっくりこない。
必死に一段編んで、ひっくり返した時に、急に思い出した。
そうだ、糸を右側にしてかけるんだ。調べてみたら、私のやり方はアメリカ式だと判明。YouTubeで紹介されていたのはフランス式。この際何式でもいい。
おお、これですいすい編める。
手が覚えているとよく言う。まさにそれだ。
水泳や自転車、一度身体が覚えたことは忘れないと言うけど、まさか編みものもそうだとは。もうこれで完成したも同然。
今回編むのは、身頃はメリヤス編みとガーター編み、袖に模様編みが少しだけある難易度はそれほど高くない。
すんなり編み進められるかと思いきや、老化した脳が邪魔をする。
編んでる途中、心配なので、時々編み目を数えて間違っていないか確認する。
その時いくつまで数えたのかを忘れてしまい、数え直すことしょっちゅう。
編んでるんだか数えているんだかわからない。は大げさだけど、こんなにも数えられないとは知らなかった。
「不揃いの女」あらため「数えられない女」。
もうひとつ。糸選びを間違えた。
モヘアは編みにくいうえ、糸同士がひっかかりやすくて、目が落ちていてもわかりにくい。数え間違いが多かったのも、ふわふわしてて、1目を2目と数えてしまったからだ。
さらに編んでいる時に服にふわふわが付く。ということはなにかい、このふわふわはコートの裏にも付くってことかい?
がーん。
でも、買ってしまった。
編むのみ!
いろいろ問題はありつつ、日々せっせと編み進める。
一段編むごとに紙に書いた段数を消していく。
ユーミンや竹内まりやを聴きながら編み物をしていると心は20代。年齢を忘れる。
後ろ身頃が編み終わり、前身頃も編めた。
そして袖も編めた!
多少「不揃いの女」の気配は残っているけど、アイロンという魔法をかければ大丈夫。なはず。
完成! じゃなかった。
編み物はここからが大変だったとうっすら記憶がよみがえってくる。
編めたパーツをつなげる「とじ」「はぎ」の工程が残っている。
後ろ身頃にアイロンをかける。
毛糸にはスチームよ!ものすごく久しぶりにアイロンに水を入れる。しゅっしゅっしてきた。ショットボタンを押す!
スチームがしゅーっと出る予定が、なにやら黒い液体がぽたんぽたんと出てきたーーーーー。
ぎゃーーーーー、なになになに、うそうそ、やめてー。
あわてて、そばにあったハンカチで拭く。ハンカチに黒い点々がつく。
ふー、なんとか後ろ身頃はセーフ。
どうやら、あまりにもスチームを使っていないので、中にたまっていた汚れがでてきたらしい。編み物をやる前には、手と一緒にアイロンの中も洗おう。
スチームはあきらめて、ドライアイロンにする。当て布をしながら特に端のほうをかけるが、あまりまっすぐならない。
「まあ、いいか」。
これが私の悪い癖その1。
まず、肩をはぐ。
本には「かぶせ引き抜きはぎ」にすると書いてある。うしろのページの「かぶせ引き抜きはぎ」を目を見開いて確認する。
引き抜きはぎは覚えがあるけど、かぶせがついているのは初耳だ。
本と見比べながら、なんとかはげた。
次、身頃と袖を「目と段のはぎ」でつける。
「目と段のはぎ」も初耳。本をこれまたよくよく確認するけど、ん? YouTubeを見てもなんとなくしかわからない。
私の悪い癖その2。
「適当にやっちゃえ!」
かくして、適当にはげた。
が、問題勃発!袖の端の部分を後でほどける作り目にしたはずなのに、ほどけない。しょうがないからところどころはさみで切ってほどく。これが思いのほか時間がかかった。
そうだった。「とじ」「はぎ」は、意外と面倒で時間がかかるんだった。
しかも老眼のお年頃。編み目がよく見えない。
でもここでくじけられない。つなげればいいだけよ。しかもニット。多少は伸びる。なんとかなる。なんとかする!
気を取り直して、襟ぐりのゴム編みにとりかかる。
これが難関中の難関だった。
本には前身頃から62目、後ろ身頃から42目拾えと書いてある。
さーて、どこをどう拾ったらいいのかわからん。ここか?いやこっちか?
ここは適当にやっちゃえ作戦で乗り切るしかない。
あっちこっち拾っては数えて、足りない時は戻って拾って、と何度もしているうちに、伸びてきた気がしなくもない。いや気のせいだ。2目ゴム編みを編む。
あれれ?最後が表表になってしまったよ。2目ゴム編みは、表2目・裏2目の繰り返しで、端と端は表裏にならなければいけない。どこかで間違えたのか、そもそも目数が間違っていたのか。まあいいか。無理やり2目拾ってつじつまを合わせる。
必死すぎて写真を撮るのを忘れた。
この時、もっとよく確認すればよかったと後悔することを私はまだ知らない。
2段目を編んでたら、本来、表2目・裏2目の繰り返しのはずが、途中で表4目編んでいることが発覚。そうか、だから最後が合わなかったんだ。と気が付いても時すでに遅し。ここから直すのは大変だ。まあいいか。後ろだし。
なんたって私は「チームほどかない」を結成しているくらい、ほどくのは嫌だ。
進む。とにかく進む。多少間違っても編み進み完成させることがだいじだ。
編みものも人生も、間違えたって進んでいけばなんとかなる。そうやって64年生きてきた。
指定通り5段編む。
そして2目ゴム編み止めをする。
この2目ゴム編み止めがどうにもこうにもできない。適当にやっちゃうにも、襟は一番目立つところ。ゴム編み自体もうまく編めてなくて不揃いの女復活なのに、ああ、もう、どうしよう。別にゴム編みを編んでつけたいくらいだ。
でも、止めるしかない。適当にやっちゃえ×まあいいかの合同作戦。表目が4目続くところは絶望的だった。
できた…。
終わったな…。
これはひどい…。
でも、私にはアイロンという魔法がある!
魔法をかけてみるが、効力はあまりなし。
襟の2目ゴム編み止めのことはいったん忘れて、
わきと袖下をすくいとじにする。
すくいとじは大丈夫。いい感じにとじた!そして、ひらひらしている糸の始末をして、できた!
完成した!
ちょっと、襟の2目ゴム編み止めはどうするの?
ああ、そんなこともありましたね。
完成したら気にならない。多少がたがただけど、それも味と思える。
着てみる。
袖のふくらみが少し若い。でもいける。後ろが長くなっているのもしゃれてる。着ると不揃いな目も襟の2目ゴム編みのおかしな止め方も気にならない。見えてない?
似合う。かわいい。あったかい。ふわふわ。いい気持ち。軽い。着ていないみたい。着ているけど。
イエナ18000円って感じだ。
編み始めて3週間。完成!
編みものをはじめたころに、今井雅子さんの「ペンキ塗りと2度目の恋」というnoteを読んだ。
今井さんはいつもユーモアあふれる心がぽっとするnoteを書かれていて、私はnoteの師匠と尊敬している。
そうか、久しぶりにやってみたことをnoteに書けばいいんだ。
前回の「新作落語台本に応募して」も、今井さんのnoteに刺激を受けて書いたもので、まねまね2回目だけど許してください。
久しぶりに編み物をして思ったこと。
なんて面倒くさい。
でも同じくらいなんて熱中できて楽しい。
一本の糸を2本の棒を使って面にして、つなぎあわせる。
表編みと裏編みを組み合わせることでさまざまな模様ができる。
色を変えて編みこめばそこに好きな模様ができる。
最初に考えた人にノーベル賞あげたいくらいステキだ。
一目一目編んでいくのは気が遠くなり、拾い目がわからなくてきーってなったけど、編み進めていけば形になり、自分だけの一着ができる。
飽きたらほどいて編みなおせる。サステナブルだ。(ほどかないけど)
でも、セーター1着完成させるのに、さまざまな技術や知識が必要だ。基本の編み方はすぐ習得できるけど、段の数え方、縄編みの編み方、目の減らし方、増やし方、とじ・はぎのさまざまな手法などなど。一度も編み物をやったことがない人にはハードルが高いと思う。
今回、本屋さんで編み物の本を探した時に思った。
種類が少ない。
40数年前は秋になると、「彼に編むセーター」「誰にでも編めるセーター」といった編み物の本がいっぱい出版されていた。
編み物人口、減っているのかな。
歳をとるとあちこちポンコツになってくる。
老眼が進み、記憶力が衰え、理解力や判断力がにぶってくる。
目が数えられないのも、2目ゴム編み止めができなかったのも記憶力や理解力が衰えているからだ。
それでも、久しぶりにやってみたことが完成したのはうれしかった。
そして、性格は変わらないことも思い知った。
「まあいいか」「適当にやっちゃえ」。
このふたつをなくし、間違えたらほどいて編みなおしていたら、もっときれいな仕上がりになったに違いない。
もしかしたら人生もそうなのかもしれない。
まあいいかと妥協せず、きちんと突き詰めて物事に取り組み、間違えたらそこまで戻ってやりなおす。そうしていたら違った人生だったのだろうか。
いや、でも、これでいいのだ。
これが私だから。