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2024年新作落語台本に応募して

2024年落語協会新作落語台本の入選作品が発表になりました。
私がこれを書いているということは、
そうです、今年も陽の目みずです。

応募すること6回。
毎年、今年こそは!と思って発表を心待ちにしています。
なのに、残念無念また来年。
でもめげない。
いつか、寄席で私が書いた落語を聴く日まで、また頑張る!

謎の自信があった応募作はこちらです。

こみち師匠とか、桃花師匠とか、つる子師匠とか、きよ彦さんとかに演ってもらえたら身に余る金平糖。じゃなくて光栄のイタリアン。と夢見て。

2024年落語協会新作落語台本応募作
「いざキャバクラ!」坂上薫


 さくら「鎌倉?おばあちゃん鎌倉行きたいの?久しぶりに大仏見るのもいいね?クルミッ子も買う?」
おばあちゃん「さくら、鎌倉じゃないよ、キャバクラ」
さくら「へ?キャバクラ?」
おばあちゃん「そう」
さくら「キャバクラって、あのキャバクラ?」
おばあちゃん「そのキャバクラ」
さくら「キャバクラってどんなところだか知ってんの?どちらかって言えばおじいさんっていうか、おじさんっていうかお兄さん的な人が行くところだよ」
おばあちゃん「らしいね」
さくら「行ってどうすんの?」
おばあちゃん「どうするって…うーん、ちやほやするかな」
さくら「はあ?おばあちゃん、ちやほやなんてされないよ。キャバクラでちやほやされるのはお金持ってるか持ってそうな人だけだよ。おばあちゃんお金持ってたっけ?」
おばあちゃん「そんなには、持ってない」
さくら「じゃあ無理だね。ちやほや無理」
おばあちゃん「ちやほやされるんじゃなくてするの。それにお金持ってないから行くんよ。」
さくら「無理無理絶対無理、無理の無理」
おばあちゃん「さくら怖い~。だからちやほやする方だってば」
さくら「無理無…え、今なんて言った?ちやほやする方??ええ、何?意味わかんないんだけど」
おばあちゃん「働くの」
さくら「働く?キャバクラで?おばあちゃんが?」
おばあちゃん「そうよ」
さくら「なんで?」
おばあちゃん「なんでも」
さくら「なんで?」
おばあちゃん「なんでもよ」
さくら「なんで」
おばあちゃん「お金稼ぐのに手っ取り早いかなと思って」
さくら「おばあちゃんお金に困ってるの?」
おばあちゃん「困ってるといえば困ってる。困ってないと言えば困ってない」
さくら「どっち?」
おばちゃん「どっちでもいいじゃないよ」
さくら「年齢制限があるから無理」
おばあちゃん「今は採用にあたっては年齢制限禁止だよ」
さくら「ドレス持ってないから無理」
おばあちゃん「着物がある」
さくら「ヘアメイクできないから無理」
おばあちゃん「無料でやってくれるお店がある」
さくら「帰り遅くなるから無理」
おばあちゃん「送りがある」
さくら「送りって何?」
おばあちゃん「車で送ってくれるシステム」
さくら「おばあちゃん詳しいね」
おばあちゃん「キャバクラ 体入(たいにゅう)で検索してみた」
さくら「体(たい)入(にゅう)ってなに?」
おばあちゃん「体験入店」
さくら「ひゃー、やる気満々でおばあちゃんこそ怖い~。でもさ指名とか売上ノルマとかあって大変なんじゃないの」
おばあちゃん「さくらは何にも知らないんだね。保証期間と保証時給っていうのがあって、その期間は行けば保証時給はもらえるらしいんだよ」
さくら「そうなの?」
おばあちゃん「でね、面接に一緒についてってほしいの」
さくら「面接?やだよ、私バイトで忙しいの。ほらこの前電車にさバッグ忘れて全財産失くしたでしょ。お父さんの形見のカメラ。あれ、絶対買えないよね…まあ、しょうがないけどさ」
おばあちゃん「スイカだっけ?」
さくら「スイカじゃないよ、ライカ」
おばあちゃん「ああ、ライカねライカ。
面接すぐ終わるからほんの1時間だけ、ね。いざキャバクラ!」
 
さくら「ということで店長、体験入店させてもらえないでしょうか」
店長「結城玲ちゃんね。いいよー。きみなら愛想いいし、№1は無理でもトップ5には入れそう」
さくら「私じゃなくて。このおばあちゃんなんです」
店長「はあ?」
おばあちゃん「結城玲です。頑張りますのでよろしくお願いします」
店長「いや、あのね」
おばあちゃん「これでも私、男にモテてきたんですのよ。モットーは「男はみんな恋愛対象」。全男(おとこ)にやさしくできますわよ。今でも若い男が私の手を握って「絶対離さないでね」って言うんですのよよよ」
さくら「おばあちゃんそれ介護の方でしょ。話盛らないで。それにしゃべり方おかしいから」
おばあちゃん「接客も得意ですのえ。接客って、客に接近するってことですわよね。接近できます。ほらほらほら」
店長「あああ、ポテンシャルは高いですね」
おばあちゃん「なんたってひとりで歩けます。転びません。スマホも使えます」
店長「はあ、それはアピールポイントにはまったくなりませんね」
おばあちゃん「77歳だけど、67歳って嘘ついてもいいです」
店長「いや、それはどっちでもよくて」
さくら「どうでしょうか?体験だけでも」
店長「そう言われても…前例がないし」
おばあちゃん「前例?そんな幽霊みたいなもんなくたってなんとかなりますって。私を雇ったら男はみんな恋愛対象ですよ。全男(おとこ)にやさしくできます」
店長「そのモットーは素晴らしいけどね…前例がないから」
 
店長「ということで、本日体験入店の結城玲ちゃんです。はい、みんなざわざわしない。」
おばあちゃん「結城玲です。ユウ・レイって呼んでください。幽霊のユウに幽霊のレイ、じゃなくてカタカナです。よろしくお願いします」
店長「そこ、笑わない。冗談ではありません。体験入店です。僕が教えるのでみんなは通常勤務で大丈夫。ユウ・レイちゃんだから、まあ、見える人にだけ見えるという形で勤務してもらおっかな」
キャバ嬢A「店長正気ですか?」
店長「たぶん」
おばあちゃん「ユウ・レイです。よろしくお願いします。ユウ・レイです。よろしくお願いします。ユウ・レイです…。あら、みんな返事してくれない。ユウ・レイです、よろしくお願いします。ユウ・レイです」
 
店長「ユウ・レイちゃん、お客様をお席にご案内して」
おばあちゃん「はい!店長。
お客様、こちら足元になんらかの生き物が存在しておりますのでお気をつけください」
客「ひ、生き物?」
おばあちゃん「敷物です・しきもの」
客「ああ、しきものね」
店長「ユウ・レイちゃんよけいなことは言わなくていいから。それより、おつまみ運んで。持てる?」
おばあちゃん「はい!モテます。私モテたって面接の時に…」
店長「それは知ってる。とにかく黙っておつまみ運んで。落とさないようにね」
おばあちゃん「はい!」
店長「返事はいい」
おばあちゃん「おっとっとっと。お待たせいたしました。極つまです」
客「極つまってなんだ?」
おばあちゃん「極上のつまみです」
客「ああ。ところできみは何?」
おばあちゃん「何?何とは何でしょう?私、ユウ・レイです。カタカナでユウ・レイ。ユウ・レイですが人間です。きょう体験入店しました」
客「あ、そう体験入店。えっ」
おばあちゃん「よろしくお願いします。男はみんな恋愛対象です。全男(おとこ)にやさしくできます」
客「店長――。チェンジーー」
おばあちゃん「チェンジ?私じゃダメってことですか?」
店長「そういうことだね」
おばあちゃん「残念無念有馬記念」
店長「は?」
おばあちゃん「ひとり言です・気にしないでください」
店長「ユウ・レイちゃん、なるべくこっちにいて」
おばあちゃん「はい…私、男はみんな…」
店長「恋愛対象なんだよね。全男(おとこ)にやさしくできるんだよね。知ってるよ」
キャバ嬢A「なにこのユウ・レイってばばあ、あたおかなの?」
おばあちゃん「あたおかってなんですか?」
キャバ嬢A「頭おかしいってことよ」
おばあちゃん「おかしいって面白いってことですか?」
キャバ嬢A「やだ、やっぱりあたおか~」
おばあちゃん「私はあたおかじゃありませんよ。人にあたおかって言う人があたおかですよー」
 
店長「ユウ・レイちゃん、お疲れ様でした。本日のお給料です。」
おばあちゃん「まあ、こんなに。ありがとうございます。明日も来ます」
店長「明日も来るの?いやその無理しなくても…」
おばあちゃん「全然無理じゃありません。明日はチェンジされないように頑張ります」
店長「はあ。僕はユウ・レイちゃんが明日も来ると思うと頑張れない気がしてきたよ」
 
それから1ヵ月間、ユウ・レイことおばあちゃんは、チェンジにもあたおか攻撃にもめげずせっせと働きました。
 
おばあちゃん「店長、私きょうで辞めます」
店長「ええ、そうなの。そう言われるとなんだか寂しいな。みんなもユウ・レイちゃんが見えてきて慣れてきたのに」
キャバ嬢B「ユウ・レイちゃんおつー」
おばあちゃん「おつーです。店長、目標のお金が貯まりました」
店長「そうか。チェンジにも負けないで頑張ってたのは目標があったんだね」
おばあちゃん「さくらにスイカ?を買ってあげるんです」
店長「西瓜?これだけあったらめっちゃたくさん買えるね」
おばあちゃん「果物じゃないです。高い高いカメラです」
店長「スイカ?あ、もしかしてライカ?」
おばあちゃん「それですそれ。さくらの父親の形見。さくら電車に忘れて失くしちゃったから。一大事の時はいざ鎌倉です」
店長「いざ鎌倉?もしかしてイザ、キャバクラってこと?お孫さんのためだったんだね」
おばあちゃん「いい話にされるとテレます。それにこれじゃまだ買えないかもしれません」
店長「お疲れ様でした。最後にあれ、もう1回聞きたいな」
おばあちゃん「残念無念有馬記念ですか?」
店長「それもだけど、ほら」
おばあちゃん「ああ。お客様、こちら足元になんらかの生き物が存在しておりますのでお気をつけください」
店長「いいね」
おばあちゃん「こちら極つまです。極上のおつまみです」
店長「いいね」
おばあちゃん「男はみんな恋愛対象。全男にやさしくできます」
店長「いいなあ。ユウ・レイちゃん最高!」
おばあちゃん「当たり前ですよ。私、サイコウレイ(最高齢)ですもん」
(終わり)

読んでいただきありがとうございました。
心から感謝です。





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