
『令和版 現代落語論』は談笑師匠から落語への壮大な恋文だ
落語はただ座って、見て聴けばいい。
面白ければ笑って、あー、楽しかった。
それでいい。
それがいい。
小難しい蘊蓄はいらない。
ましてや落語論?
とんでもない。
論じたりするから、ハードルが高いだの、高尚な趣味だのと誤解される。
落語は庶民の娯楽だもんね。
あーだこーだ理屈をこねないでおくんなまし。
と、落語を好きになって5年の私は思っていた。
この本を読むまでは…。
『令和版 現代落語論』は、落語を愛する人と、落語をまだ愛していない人(みんなじゃん)に向けて書かれた本。
著者・立川談笑師匠は、落語界きってのインテリ。
いや、テリ焼きが上手くて、NHK「きょうの料理」からもお呼びがかかるほどのテリテリの料理人でもある?ほんと?
初めて談笑師匠を聴いたのは、座・高円寺だったと思う。
なんて楽しそうに高座に上がってくるんだ。
その時に聴いたのは古典落語の「居酒屋」を改作した「イラサリマケー」。
居酒屋で繰り広げられる店員さんとお客のちょっとエロいメニューのやりとり。
笑ったー。笑い過ぎて涙がでた。
談笑師匠をいっぺんで好きになった。
毎年、お正月に行われる「新春談笑ショー」がすごい。
一門のお弟子さんが勢揃いし、落語はもちろん、漫才あり、大喜利あり、札束をはじめいろいろなものが飛び交い、それはもう禁断の楽しさ。
これを見なきゃ新しい年は始まらない。

いつも私たちを楽しませてくれる談笑師匠が、師匠・談志の名作のタイトルにあやかり、ひろのぶと出版社から本を出す!
となれば期待度があがる。
普通の本じゃないはずだ。
エロい袋とじとかがあるかもしれない。
談笑師匠のスペシャリテのレシピがついているかもしれない。
『令和版 現代落語論』はそんな期待をひょいと、超えてきた。
まず、表紙とカバー。
落語の本でこんなに粋なカバーデザインは見たことない。
きらきらしてる。
そしてカバーを外したら、そこには談笑師匠の高座姿とともに、談志師匠の姿が!
これは……。
談笑師匠は、談志師匠の弟子なのだ。
この2枚の写真が語る当たり前のことに感動する。
読む前から心をつかまれた。
そして、改作の雄と言われている談笑師匠の改作落語の動画が9席も楽しめる仕様。
しかも改作のポイントつきで、従来版と改作版の両方が載っているんですよ隠居さん。
何がうれしいって、耳からではよくわからなかった『金明竹』のあの言い立てが文字で読める。
これでよくわかる。
と思いきや、読んでもわからなかった。
「ゆっくりしゃべってもほとんど理解できない 津軽弁にしました」
ああ、このセンスですよ。談笑師匠が談笑師匠たるゆえん。
ちょっと何言ってるかわかんないよ、熊さん。
さて、本文。
談笑師匠が高座でしゃべるまくらさながら、落語と談笑師匠にまつわるあれこれが、わかりやすく書かれている。
へー、ほう、え、そうなの? ほんと? そうそう、わかるー、夢中でページをめくり、気が付いたら第1章を読み終わっていた。
隠居さん、めちゃめちゃ読みやすいです。
落語ってなんなんだろう。
「ひと言でいうなら、落語は少年ジャンプです」
これには激しく頷いた。
少年ジャンプか。
女子なら『りぼん』かな。
人生のさまざまな感情が描かれていて、笑って泣いて、元気をもらえる。
そのうえ、
「大丈夫。ありのままでいいんだ」と落語は聴く人を肯定してくれます。
談志師匠が言うところの「業の肯定」。
ダメダメキャラの与太郎も仲間はずれにしない懐の深さも落語の魅力のひとつ。
極めつけは、「江戸の風」の正体。
落語を聴き始めてから、自分のなかでずっとずっと気になっていたことに、談笑師匠が答えてくれた。
あえてここでは引用しないが、そうか、そういうことだったのかと。
続く第2章は、談笑師匠の改作解説9選!
読んで落語を知り、次に実際の高座を見られる。
至れり尽くせりですね、隠居さん。
あたりめえだよ熊、ひろのぶとっちゅーところが作ってっからな。
最後に中江有里さんとの対談。
やっぱり至れり尽くせり石川セリですね、隠居さん。
ちょっと何言ってるかわかんないよ、熊さん。
落語は、落語家が着物を着て、座布団に座り、上半身だけで演じる。
一瞬でどこへでも行けて、神様だって召喚できるし神様にもなれる。
扇子はお箸やキセルになり、手ぬぐいは財布や本になる。
そこに食べ物があるかのように食べ、ふと周りを見渡せばそこには縁日が広がる。
見えないはずの雪が降ったり、それこそ『江戸の風』が吹いたり。
時には、笑いで会場が揺れることもある。
右を向いた時と、左を向いた時と、瞬時で違う人物になる。
1メートルに満たない小さな空間で繰り広げるダイナミックで緻密な芸。
すごいんだから。
落語ファンとして、一人でも多くの人に落語を聴いてほしい。
落語の面白さを感じてほしい。
『令和版 現代落語論』はそのための道標として、落語への道を明るく照らしてくれる本。
談笑師匠が魂を込めて書いた落語への壮大な恋文だ。
読み終わったら、この本を持って(持たなくてもいいけど)ぜひ、寄席や落語会に行ってみてほしい。
談笑師匠もむすびにで書いている。
ただし、いかに文章や動画を駆使しようとも、残念ながら本来のライブで伝わる醍醐味には遠く及ばないのです。いつかぜひ実際の高座で落語を「体感」して下さい。
落語は生もの。
落語は人生そのもの。