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建築的パフェ:食べる人が解体≒調理しながら楽しむ作品

ASAKO IWAYANAGIのパフェを数年振り(等々力で初めて食べた時から、10年近く経っているのではないかと思う。)に体験したので、食レポしてみる。

見た目からゴージャスで、飴細工やアイスクリーム、フルーツ、香草、ジュレなどが、層状かつ立体的に組み合わされたシルエット、色彩は、宝石で作られた装飾品のようにさえ見える。

この塔状建築にアプローチするためには、どこを足場にすべきか、自分で決めなくてはいけない。

エントランスを選び間違えると、一気にその外観が損なわれてしまうような、スリルのある、絶妙な組み方がなされていて、どこから訪ねていけばいいのか戸惑いと同時に、その「味」への期待が高まる。

そして、いざ心を決めて、自分の思う扉をノックしたら(アイスクリームの部分から)、その桃の香りと美味しさに夢中になる。

予約注文していた【パルフェ ビジューペシュ】は、「桃」を主題にしており、上層から下層へ向かっておおよそ、下記の順番で構成されていた。


ヴァシュラン
フレッシュの桃
桃ヨーグルトのソルベ
文山包種茶ジェラート
マイクロバジル
和紅茶シュトロイゼル
モスカートダスティミントジュレ/フレッシュの桃
ローズヒップ寒天
生麩/うぐいす豆
抹茶葛/ずんだ餡
タイベリー白餡
花香ほうじ茶クレムー
焼き桃とブリアサヴァラン
レモンジュレ
フェンネルバジルソース
別添:ジン

パフェの内容は、時季で限定的に決まっている。

この一見ゴージャスで、ラグジュアリーなパフェの食体験の面白さは、食べる人がその建築を解体≒調理することにあると思った。

無論、きちんと考え抜かれ、計算され尽くされたレシピを、技術のあるスタッフたちが提供している時点での完成度はとても高い。

しかし、提供された後は、食べる人の解体手順や食のスピード感によって、感じられる表情は大きく違うものである。そのことを許容し、創作を委ねている部分があるように思う。

特に、器の縁からさらに上部の空間に盛り付けられた部分を食べ終わり(あるいは、いくらかは時間と共に沈み)、やや坩堝の諸相を呈してきてからの体験はディープなものになっていく。

ローズヒップのような、別の香りが加わったり、各種の餡や「麩」は、主題の桃との対比で食感としての意外性もある。別添えのジンを好みに応じて加えることで、酒気を帯びるところや、ほんのわずかにではあるものの、辛さや、苦味、香りというより臭みのような、刺激的な要素さえもが入り交じる。

そのことで、フレッシュの桃の、本来の甘味や香りをさらに印象深いものとして、最後の時間まで味わえる。

その建築は美しく建てられているけれど、崩すことで、解き明かされ、空間から味へと昇華される。

その塔は、登るのではなく、潜る。あるいは、ダイヴする。あるいは耕(たがや)す体験であり、冒険的である。天国的と讃えることもできるが、むしろ「メイドインアビス」的な欲望が叶うと表現したい。

ASAKO IWAYANAGIのパフェは高価だし、立地や店構えからして、お洒落で「お金持ち」なイメージもあるが、その本質に、野心や攻めの姿勢、冒険心、そして「食べる人への信頼」と「創造性」を感じてやまない。

ASAKO IWAYANAGIのHP

同HP内、現在提供中のパフェ2種の詳細。「ふるさと納税」の返礼品として提供も行っているらしい。


【あとがき】
◆テーブルマナーとしては良くないかもしれないけれど、器から落下させてしまうことなく、スプーンとフォークだけで食べきるのは不可能と判断して(食べ初めて割とすぐ)、飴細工やヴァシュランの部分では手を使いました。「工夫して食べなければいけない」そこも楽しかった。

◆パフェ食前に、サービスで運ばれてきたお茶とフィナンシェの組み合わせが既に素晴らしかった。お茶はミルキーな印象があるもので、特にフィナンシェを食べてから飲むと、それぞれの良い香りがさらに豊かになって、音楽の、美しい和音を聴いたような感覚。お土産にその組み合わせをまんま買って帰りたかったけれど、残念ながらその販売はなされておらず。

◆予約してると、パフェとセットでコーヒー(他のドリンクも選べる)や、食後のお茶まで出てきたので、ぜひきちんと時間をとって「パフェで1食」を体験してみてほしい。筆者は普段、それなりに食べる男性だけど、パフェだけで十分な量があり、むしろ女性や少食な方には多いくらいの1食。

◆ASAKO IWAYANAGIが等々力から、まさかの地元福岡に出店してくれて大変嬉しく思う。『天神ビッグバン』の影響もあるかと思うし、福岡は福岡なりの地の利があることは明らかだと思うので、今後どんな評価になるのか期待。

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