Surround me Music, Feel Good#11

いわゆるカヴァー曲/提供曲を中心に選んでみました。

オリジナルを知ることでより面白く聴こえることや、あるいはオリジナルとはまったく違う印象・世界観であてがわれている意外性、カヴァーしたミュージシャンのルーツであるかどうか、あるいは、そういったこととは関係なく商業的な理由で選ばれただけかもしれない。

いずれにせよ、カヴァーに注目することで、曲にも演奏者にも新たな一面が感じられます。

Lucy In The Sky With Diamond/HYDE

The Beatles名盤である「Sgt. Pepper's Hearts Club Band」の中でも有名曲。

昔HYDEは、ラジオか何かで「『Lucy in the sky with diamonds』の歌詞は、聞いているとなんとなくwith the damons(悪魔と一緒)にも聞こえる。」と言ってた記憶がある。

また、映画「アイ・アム・サム」では、ショーン・ペンとダコタ・ファニングのやりとりの中で、ビートルズソングスが効果的に使われているが、「お空のルーシー」という歌詞は劇中で台詞にも登場するなど、印象が残っている。

この曲の歌詞については、「ドラッグ中毒者の視点ではないか」という噂?/都市伝説?誰かの分析?があったようで(というか、日本とイギリスとではドラッグに対する認識が根本的に違うので、ミュージシャンや曲のドラッグエピソードはかつてはそれなりに多い。)、人気曲でありながら、そもそも穏やかでない話も同居している。

歌詞だけでなく、地に足のつかないような、夢遊病のようでもあるギターイントロから始まり、歌われ方や展開としてもファンタジックな曲想であるだけに、そのようないわくがついたのかもしれない。(一方、そのような言説については、ジョン・レノンが明快に否定しているという情報も読んだことありますが。)


Garage Inc./METALLICA

メタリカによるNWOBHMやハードロック、メタル、パンクの王道曲、一部ではカントリーやポップスにも含まれるような作風・部分の曲もセレクトされたカヴァーアルバム。

ブラックサバスやミスフィッツ、モーター・ヘッド、あるいはクイーンなど、メンバーらのルーツミュージックであるとも言える。

ブラックサバスのカヴァーでは『サブラ・カタブラ』と『ナショナル・アクロバット』の2曲を組み合わせて1曲としていたり、『MercyfulFate』では、『Satan's Fall』『Curse of the Pharaohs』『A Corpse Without Soul』『Into the Coven』『Evil』をメドレーとして約15分のライヴ感ある疾走、『Astoronomy』では静的なオープニングからタフな印象のサビ、また静的なシーンを挟んでエンディング=クライマックスへ至る末広がりの展開など、「MASTER OF PUPPETS」の頃から聞かれる構成力や構築力が見事。

最近、通称“ブラックアルバム”と呼ばれる作品(5thアルバム「METALLICA」)の各曲を多数のアーティストがカヴァーした「The Metallgca BlackList
」がリリースされているが、こちらもエルトン・ジョン、Yo-Yo Maや、Weezer、St.ヴィンセント、イメルダ・メイのような大御所から、Rina Sawayama、Goodnight, Texas、インストでピアニストのイゴール・レヴィット、ギター・デュオのロドリーゴ・イ・ガブリエーラなど、まさにジャンルの枠など度外視されたユニークなクレジットが並ぶ。

(YouTubeから引用しているように、「The Metallica Blacklist」に収録されているカヴァーのうち、かなりの数でMVも公開されており、視覚的なイメージも多様である。)

改めて、そもそもメタリカの音楽はメタルというジャンル名に収まらないことが実感される。


KICKS/RICKIE LEE JONES


リッキーのカヴァー・アルバム。

歌手/ミュージシャンとしてのざっくばらんな思想も気持ちが良いです。

ジャンルを横断しながら、自由気ままに、リッキーの気持ちに忠実に演奏をしているだけのようでありながら、かえって普遍的/本質的な曲のフォルムがはっきりとしてくるように思います。インタビューで答えているような、お金由来(笑)のミニマル編成での影響もあるかもしれません。

(『Nagasaki』のカヴァーではアニメーションMVが作られているが、かなり問題ある内容wwwww)

私が『モリタート』を知ったのは、かつて映画「悪の教典」(監督:三池崇史)を観た時。この曲には、三文オペラの俗悪なものや、スウィングした大衆的な賑わいのものなど、既にイメージにばらつきがあるが、リッキー版の新たな印象がまたひとつ加わったことになる。

冒頭は落ち着いた印象で渋くはじまり、賑やかな終演への展開は、まさにライヴアクトを彷彿させる仕上がり!

(「悪の教典」の劇中、この曲が使われるのは、グロシーンというか、かなりサイコ・ヴァイオレンスで、色彩感など見せ方も印象的だった思い出。酷いシーンではあるものの、絵や音楽の見せ方、聞かせ方はかっこいいので、耐性がある人は観てみて下さい。)

(Jazzスタンダードのような認識で入ったか?器楽演奏から入ったか?歌ものとして入ったか?etx...といったリスナーの原風景によって、だいぶ違う印象をもたれている曲ではないだろうか。)

Touch me when the world ends/安藤裕子

Touch me when the world...

Posted by 大塚愛Love99台灣後援會 on Sunday, June 14, 2020

大塚愛さんが安藤裕子さんに贈った提供曲で、収録されているアルバムのタイトルは「頂き物」

大塚愛と安藤裕子という組み合わせにあまり合点がいかないという人も多そうだけど、たぶん音楽に限らず、市場やプロモーション的な都合で語られる/語りやすいことよりも、人間が通じ合い、一緒に何か取り組むということは、個人的なことや、あまり一般論ではきちんと明らかにされていない、専門性の中での共感や相補性によるところが大きいのだと思う。

作詞:安藤裕子、作曲:大塚愛、音源での編曲は横山裕章(Agehasprings)。美しく綺麗な歌(歌詞)とピアノ伴奏。そしてオーケストレーション。本来、言いたいのはそれだけ。

ポップ、大衆的・社会的、芸術性、普遍性など、そもそも何なのか?果たしてそんなこと考えて意味はあるのか?言葉を尽くしても、蛇足に過ぎないなと思う。そういうタイプの作品。

シングルカットされているわけでもなく(今時は配信で個別に買えるのが当たり前なので、シングルであることの意味は薄れたように思えますが)、MVもなく、なかなか実演される機会もないかと思われるものの、疑うことなく名曲。

安藤裕子さん、大塚愛さんがリモートで合わせている動画がFBにあり、今のところ有効なので是非。


あなたのこころに/林原めぐみ

声優という職業柄、たくさんの(アニメ)キャラクターを担っている林原めぐみさん。歌においてもたくさんのカヴァーをしている。(おそらく「カヴァー」という概念で取り組んでいないのではと思うけど。)

オリジナルは中山千夏さん。

大阪を舞台にしたギャグ・ファンタジーアニメ「アベノ橋魔法★商店街」のEDテーマとして、大阪の昔の街並みが写されていく映像(1960年代の阿倍野橋周辺の白黒写真であるらしい)としても印象的でした。

めぐさんは、一般的には歌手/ミュージシャンというより、アニメ声優・アニソン歌手という認識がなされていると言って差し支えないと思われます。

けれど、必ずしもアニメ由来のパフォーマンスばかりでなく、かなり主体的に表現されている方だなと常々。(たとえば「アベノ橋魔法★商店街」ではOP/EDを担当されていたものの、声優としてキャスティングされていたわけではない。)

最近では、【劇場版シン・エヴァンゲリオン:||】でユーミンの『VOYAGER~日付のない墓標』を歌われていたりして、もちろん、皆が知っているオリジナルからの懐古的・郷愁的な趣も発揮させつつ、新しい感情が込められていると思う。

曲のアレンジとしても鷺巣版はストリングスのグリッサンドが往復していたりと、なかなか斬新なアンサンブルにオリジナルのメロディーが乗ったものであり、過去作では『翼をください』、『今日の日はさようなら』、『甘き死よ、来たれ』(由来はJ.S.バッハのカンタータ『来たれ、汝甘き死の時よ』)も。


さよなら人類/EGO-WRAPPIN

摩訶不思議で終末思想的な歌詞。そして上の空で歌われているような感じもあってか、ディストピアみが深い。

EGO-WRAPPIN'としての演奏ももちろん良いですが、とりわけ中納良恵さんの歌が素晴らしい解釈/表現だなと。

能天気なようで、楽観的なようで、悲しくもあり、喜んでいるようでもある。一言では言い表せない、曖昧で複雑な人間の感情が、結晶したように歌われています。


月夜の街ロア/下村陽子

ミステリアスで印象深い曲です。おそらくガムラン、シタールなどを用いた民族音楽や、東洋的なをイメージがあって(コラージュされて)作られているかと。

そもそもはゲームミュージックであり、『聖剣伝説 Legend of Mana』で使用されています。

その後、全く別の作品/ジャンルであるフルCGアニメ「ポピーザぱフォーマー」でも使われていて、やはりイメージ喚起やより視覚効果を高められるBGMとしての機能性の高さがあったと言えるでしょう。

(0:30過ぎたあたりから『月夜の町ロア』が部分的に使用されています。)

ちなみに『聖剣伝説Legend of Mana』は、最近リマスター版の発売がなされ、アニメ化もされるとのことで、使用曲の良さについても改めて注目されるのでは。


DOTS AND LINES/江戸聖一郎(Fl)・大萩康司(Gt)

クラシック音楽では、“カヴァー”という表現はあまりなされませんが、ある意味、たくさんのカヴァー曲・演奏が生まれ続けている世界とも言えます。

『デジタルバード組曲』は、吉松隆が作曲、1982年に発表された組曲作品。オリジナルはフルートとピアノ。

(ピアノ伴奏でのレコーディングを行っている上野星矢による『鳥恐怖症』のMV。)

同作曲家によってギター伴奏版が作られ、超絶技巧の持ち主であり、ムソルグスキーの「展覧会の絵」やストラヴィンスキーの「火の鳥」といったピアノやオーケストラ作品のギターソロ版を発表・演奏して評価を得ている山下和仁が担当・録音された版も作られたとのこと(現在、廃盤だそう)。

しかしギター伴奏で演奏するには、山下氏であっても難曲ではあったらしく、その後は録音・実演共に、ほとんど取り上げられていないとのこと。

そのギター版が今年江戸聖一郎と大萩康司によって録音された。この版の組曲全曲録音については、現在、おそらく世界で唯一ではないかと言われている。

半世紀ほどの時を経て、眠りから覚めた(現代で甦った)デジタルな装いの鳥。その羽ばたきや囀りは、不安定なようでいて、計算された美しい響き。

録音された二者によるコンサートを聴く機会を得ることもでき、『鳥恐怖症』の生演奏では、その技巧性に由来する反射神経・運動神経をフルに発揮するようなスポーティーな気持ち良さがあった。緊張感と落ち着き(静と動)の押収は、まるでアスリートの感覚やまさに鳥の飛翔を擬似体験するかのようだ。

そして曲が持っている機械的な精巧・緻密さに、肉体的・精神的な情緒を加えることができる高い技術と感性を備えた演奏者であるからこそ、レコーディングも素晴らしい仕上がりになっている。そのことを強く実感できた体験だった。

また、『鳥回路』では、同じフレーズのリフレインの多さや、まさにデジタル機械を思わせる機能的な作りから、筆者にはゲームミュージックのようにも聞こえる。

最近終了した東京五輪2020では、開会式の入場曲として「クロノトリガー」や「ドラゴンクエスト」などのゲームミュージックがBGM採用され、にわかな話題となったばかりだが、(本来逆説的であるものの、)このようなクラシック音楽の現代曲は、今、ゲームミュージックのような感覚で聞くこともできると思う。

ギター版であることと併せて、改めて聞かれることで、その新鮮さや親しみが再認識されるのではないだろうか。





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