Surround me Music, Feel Good #24:ルルルルズ"ひとびと"全曲レビュー

2024年9月25日(最近)リリースされて間もないルルルルズの新譜を全曲レビュー(…というか、個人的にこう聴いてる)。

今年、数ヶ月に渡って先行リリースされた曲も都度聴いてはいたものの、アルバムとしての全貌は想像以上。この作品には単純な美しさや陽気もあるけれど、いわばノイズ(雑音)、もっと言えばある種のストレスや不幸さえもが混在していると思う。

音楽や人の営みの中で、ノイズがないことを望むのはごく当たり前の願望でもある一方、ノイズがある、あったことでよりおもしろく、美しくもなり得る。気づくこともある。前進もある。あんなことなければ良かった。こんな風にならなければ良かった。と、思うようなこと、さえもが作品に込められていると思う。それらは無論言語化された歌詞だけに留まらず、和音やリズムの移ろい、技法、アンサンブルの立体感に溶かされていて、身近なもの、親しみを感じることができるものとして再生される。そのような作品を聞くにあたって、今現在の私たちの聴覚も数年前とは大きく変わっているだろう。新しい聴覚には、新しい作品を。

ゆらめき
車のアクセルをゆっくりと踏むような始まり。歌詞は少し憂鬱な気分である反面、ギターリフはのどかで、添えられているストリングスも柔らかい。このちぐはぐな表情がなぜか気持ち良く同居していて、アルバム全体を暗示し、象徴さえしているオープニング。

筆者の経験的にはL'Arc~en~Cielの『Peeping Tom』とか『Perfect Blue』みたいな。ラルクもそうだったように、厭世的ではありつつ、ヘイトには陥っていない。

めまい
一転してリズムタイトで休符が冴えるイントロ。スピードと風を感じるようなドラムスとベースがひたすら気持ちいい。ヴォーカルとコーラス、シンセとストリングスもみんな歌う曲。

アーケード
ベースの8ビートが気持ちいい。Bメロ冒頭で一回消えたり、一瞬パターンが変わったり、ヴォーカルとベースだけになったり。

一方、この曲に限らずギターリフはどちらかというと弱音でデザインしてあって、上物というよりストリングスやシンセとのバランスの要。

「あずまやに腰かけて」のメロディと歌詞のハマりが良い語感!

myakumyaku
タイトル的に2025年の大阪万博でぜひやって欲しい。ミャクミャク様出演のMVとか作って。

ギターカッティングと鍵盤のアンサンブルが特徴的でミャクミャクと変化!

EtoE
ルルルルズ版のJIGSOW FALLING INTO PIECE(RADIOHEAD)みたいな高揚にときめく。実はドープ。そしてとってもクール…だけど激アツ!

音量的にも音数的にも盛り上げ過ぎず、ある一定の高揚を半永久的にループする感じがクセになる。ミュートにもニュアンスがあることを感じる。

日々の泡
悲壮感のある弦が印象的な幕開け。翳りや夕闇を感じる曲想。モミさんのヴォーカルが素晴らしいのに加えて、このアンサンブル全体が渋くて最高。ギターリフはじめ難しい(技巧的な)フレーズはないけど全部かっこいい。今や滅多に聴けないタイプのポピュラーミュージックだと思う。仄暗く悲しみもあるけど極めて美しい曲。

dpi
一転してレゲエ。平和で、おおらかに、ゆったりとした、安息の時間。間奏のソロヴァイオリンがめちゃ良い。とはいえ、「グロテスクで歪な影が笑う」みたいな歌詞が歌われていて、このアルバム作品全体が、光と闇、愛と嫌悪、喜びと悲しみといった感情の揺らぎがある。けれどそれらは不可分。それがひとびと。

滲んで
タイトル通り音楽的・音響的にも滲んでる。立体感作れるアンサンブルが前提の曲よな。これは。奥行きに浸る。

流れ
2017年のアルバム作品「ルルルルズ」ラストに収録されていて、『亡き王女のためのパヴァーヌ』(モーリス・ラヴェル)のオマージュでもある『手紙』の素晴らしさの先に作られた曲として、涙なしでは聴けない美しさだし、ルルルルズとは関係ないものの、筆者としては故・津野米咲さんを思い出したりもする。

旋律の揺らぎ、和音のグラデーション、ある種の嘘(フィクション)だからこそ、聴いている間だけ、そう聴くことができる人たちにだけ、にわかに実現される時間の魔法。それが音楽。

オープニングが単旋律(ソロヴォーカル)ではじまり、一定のリズムで執拗に鳴らされるピアノコードとの和音の関係がグラデーション。終盤には末広がりのアンサンブルとして強く、大きな流れに。

次の日
流れがとても深いので、その感情を引き戻しつつまだセンチメンタルでもあり、でもエンディングとしてはむしろ決意やある種の強さを感じさせる。

たぶん1曲目へループするために、ニュートラルな気分へと引き戻すような意図があるのではと思う。

先行リリースされた曲とアルバム曲とは配置が素晴らしく、見事な輪郭(抑揚)を描き奏でながら、ひとびとの営みを讃えている。


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