Surround me Music, Feel Good #22-1:TAMTAM"Ramble In The Rainbow" 全曲レビュー
TAMTAMの新譜『Ramble In The Rainbow』がリリースされたので全5曲レビュー。
全体像
[TAMTAMの2019年までの活動を総括的に扱って書いてみた記事。]
[新EP『Ramble In The Rainbow』の前作にあたる『We Are the Sun!』の全曲レビュー。]
前作『We are the Sun!』から3年経ち、(いつものように)また変貌を遂げたアルバムとなっていて、これまで書いてきたようなTAMTAMの音楽性が、さらに新しく更新されている。
ただし、過去の要素が消えたり、あるいは別の何かに交換された感じではなく、過去のアウトプットは消化され、ベースやリソースとしては残っている。
その上で今彼らがいるステージは、これまでとは違う場所であることが明示されている作品。
たとえば、ドラムスAffee TakahashiがForever Lucky名義でリリースしたアルバム『Recollection of Drum』。
アルバム全体にスティール・パンが採用されている作品だったが、今回の表題曲であるRamble In The Rainbowの背景にもスティール・パンと思われる音色/効果を聞き取ることができる。
また今回の作品では、Kuroのヴォーカルに過去の作品よりも多彩なエフェクトがかけられている印象がある。
リードヴォーカル(メロディー)とコーラス(裏メロ/伴奏)の音色/声色の幅は、過去最高に広くて鮮やかなのではないか。
したがって、Kuro本人が持つ歌声と、加工された歌声(相対的に匿名性が高まる声/楽器としての声)との存在感が揺らいで往復していて、さらには歌声に近いシンセさえもが重ねられる部分もあり、これらが曖昧なグラデーションになっている。
[Recollection Of Drum/Forever Lucky]
[UTAKATA NO HIBI/FOREVER LUCKY:Kuroのヴォーカルがフィーチャリングされているが、Kuroの声をメロディーとして、(人の)声として際立たせることよりも、全体との調和や、むしろ加工し、揺らぎを与えている。]
1.Doors
5分近くあり、今回アルバム中で最も長尺。
確かにニューエイジミュージック的な語彙が各所に散りばめられているが、それらをTAMTAMのバンドアンサンブルとして取り入れ、違和感なく成立させている仕事は、もはや錬金術に近いと思う。
また、プログラミング対象として特徴的なのがハープの採用であり、最後まで美しく響く。新しい印象の音(楽器)を積極的に採用し、現在のモードを開拓し続けている。
その背景では、ベースラインがメロディックな要素もある絶妙なバランスで動き、この曲ではYuthkeのギターの存在はそこまで目立たないものの、その繊細に添えるようなコードワークを用いて遠景にまで解像度を行き渡らせている。
たとえば、まさにその、ギターが必ずしも上物的な存在感でなく、コードにせよメロディーにせよ音量を抑えぎみなところ。
日本のバンド(いわゆるJPOP/JROCKバンド)然としたイメージよりも、映画音楽やクラシック音楽、ジャズアンサンブルのような音域や音色に接近してくようなデザインしてるなと(もちろん曲や、曲の内容によっては違う部分/表現もあるにせよ)。
今回のアルバムは海外レーベルからリリースされているが、驚くほど違和感がない。
2.山を下りる/Go Down The Mountain
丸いピアノリフのリズムが雨だれのよう。
周りに露草や濡れた木々の緑、それらに反射する光が感じられるような、とても情景的な音楽。
歩行を思わせる、あまり緊張感を生まないスピード(テンポ)感を維持したトラックでありつつ、空間に音が充実していくことで、際立ってゆく立体感。陰翳。
少しずつ表情を変えていく各パートが「ダブ」で最も重なり合い、エレキサウンドとしても高まっていく。
その、ダブを起点とした様々なフレーズの能動、形式の融合、音量のダイナミズムでドラマを作る術。TAMTAMの大きな魅力が、さりげなくも明快に活きている。
3.虹の彷徨/Ramble In The Rainbow
浮遊感と密度感のあるシンセ、幻想的に誘うメロディー。アルバムタイトルかつ先行リリースされたトラックだけあって、最もエナジーに満ちた全体像。コーラスで強く彩るサビ(歌)始まりが象徴的。
ベースライン、そしてギターコードのストロークが常に推進力を宿していて、トランペットの音色は強くなりすぎず、でもリズミカルに高揚していてハイライト。一貫してパーカッシヴなドラムスと共に、爽快感があり気持ちいい。
前作『We Are the Sun』から延長線上に伸びた、「自ら(私たち)が光源として在ろう」という主体的な意思が、見え方は変わっていても今も同様に、その音楽に宿り続けていると思う。
[アルバムタイトル曲であるRamble In The RainbowのMV]
4.Nue
Haluna Isigakiによるダークニュアンスのベース(アルペジオリフ)が、最初から最後までこの曲の世界観を示し続けている。
歌詞もホラー/ディストピアな趣があって、他4曲とは毛色が違う。個人的にはSNS BOTあるいは今のネット社会に見出だせる、実体がないアカウントや、気楽にいつでも絡めたり、反面、切ったり無かったことにできる関係性を連想した。
渋い、けれどテクニカルな弦楽アンサンブルのリズムが維持されつつ、序盤の音量が終盤に向けて変容してゆく。上物シンセあるいはドラムスに違ったニュアンスが加わる度に、大きく膨張したりまた縮んだりと蠢くような感じ。
エンディングに向かってゆく時のギターは、ピッキングトレモロやピチカートぎみのフレーズが不気味/奇妙でもありつつ、その中毒性にはまっていくイメージ。
空想上の生き物である鵺(ぬえ・Nue)の鳴き声や気配感のようにも想像できて、極めてかっこいい!
ホラー/ディストピアなんだけど、同時にめちゃくちゃ洒落た、音楽的語彙力に満ちたアレンジ。
5.遠望のあなた/Distant Look
癒し。
この曲を聴いていると肩の力が抜けるのを感じる。曲の長さは5曲中最も短く約3分。構造、仕上がりとしてもシンプル。
エフェクトのかかったKuroの声と本人が弾くシンセはハーモニーを滲ませながらも、渾然一体のものとして溶け合っていき、天に昇華されていくような美しさがある。
シンセ(&たぶんエフェクトありのトランペット)ソロも遠望へと、これからの予感を告げるように鳴る。
「次」の動作へ移る時、力が入っていてはいけない。このバンドはきっとまた、まだ、次に行く。遠くを見ている。そんな曲。
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