鬼はどこ?
ついにこの日がきた。
いつも厳しい父が、節分の夜は鬼役をつとめる。
スーパーで買った節分豆のおまけである
紙でできた鬼のお面。
耳部分の穴に輪ゴムを通し、升には山盛りの豆。
夕食をすませ、後片づけも済んだ。
「じゃ、豆まきするか」
コクッと頷く我らきょうだい。
父は厳しいが、ノリは良い。
面白いことが大好きな人でもある。
スチャッとお面を装着した父は一変し、
ショッカーのような身ぶりで我らを挑発する。
「やれるもんなら、やってみな!」あおる鬼。
いつもなら、目上の人を敬い、たてつくことなど許されない我が家で、節分の夜だけは無礼講。
「父とて容赦はせん」
「同じく!」
床を蹴り、豆を掴んでは鬼となった父に投げつける。
「鬼はそとー!」「鬼はそとー!」
福はうちの重要性をまったく理解していない子どもの我らは、一心不乱に9割がた、鬼は外を連呼していた。
鬼たる父も、まるで子どもの昔に返ったかのように生き生きとしていたのを憶えている。
時は流れ、弟が結婚し家を出て、私もヨメに行った。
父は少しだけ子どもに還り、ときどき不安になると怯えて怒る。
でも、大半は母とにこにこ笑いながら過ごしているようだ。
あの日の鬼に会いたいけど。
今年の節分は、なにに対して豆をぶつけよう?