原点回帰 #03
今さらではあるけれど、ミニコンポを買った。事の発端は、自室で音楽を聴く際のソースユニットとしても使っていたブルーレイ・レコーダーがこれまで一度も聞いたこともないような、けたたましい呻き声を上げたかと思うと、次の瞬間にはどのボタンを押してもうんともすんとも言わなくなってしまったことにある。それに、僕が好む音楽ソースはストリーミング再生が主流のこの時代に今もCD。さらにあろうことか、時代遅れと揶揄されるその記録媒体への憧憬は、昨年3月に逝去された坂本龍一氏のアルバムを少しずつ買い集めるようになって、より一層強さを増している。
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家電量販店を訪れるまではCDプレーヤーとラジオをひとつのユニットに組み込んだCDラジオを購入する方向でほぼ気持ちは固まっていたが、店頭で目にした実物に意思が揺らいだ。CDを脱着する際に開閉させるフタ部分のプラスチック然としたところが「この値段なんだから、こんなもんでいいでしょ」という、人を軽く扱ったメッセージを体現していて、どうも気に入らない。そんな時に目に止まったのが、CDユニットの両脇にフルレンジスピーカーを備え、それらをあたたかみのある木製キャビネットが包み込む、JVCケンウッドの一体型ミニコンポ『NX - W30』。 先ほどのラジカセとは違い、限られたコストの中でも自分たちの実力の高さは出し惜しみすることなく見せつけようとする気概がそのフォルムから伝わってきて、なんだか嬉しくなった。
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自室に設置したテレビ台の、元々はブルーレイ・レコーダーが収まっていた空間に『NX-W30』が鎮座するようになって数週間が過ぎた。どこか懐かしさを感じさせるデザインやフォルムだけでなく、その音にも十分満足している。中でも驚いたのが、結果的に坂本龍一氏の最後のオリジナル・アルバムとなってしまった『12』に収録されている『20220322 - sarabande』を聴いていたときのこと。最初はピアノの音のあとに響く籠もった感じの「トン!」という音(振動?)の正体が何なのかわからなかったが、演奏が進むにつれて、もしかしてこの音は羊毛で巻かれたハンマーヘッドが弦を叩く音じゃないかとの考えに至った。
本来この時に発生する音はとても小さく、ピアノから離れて演奏を聴いていれば通常は耳に届かない。だから、僕の耳に聞こえるその音が打弦音なのか否かは実のところ定かではない。でも頭の中では手が届くほど近くに坂本龍一氏の存在を感じているのだ。この事実の他に何が必要というのだろう。なんでもかんでも白黒はっきりさせようなんて無粋な真似は現実の世界だけにしておけばいい。そんな想いが脳裏をかすめた。