ギャンブルにハマるメカニズムが分かる傑作 They Are Billions【ゲームレビュー】

 ゲームのレビューを見る中で「負けても面白い」という表現を見た事がありますでしょうか?
 私は主に対戦ゲームのレビューなんかでよくこの表現を目にするのですが、正直なところこういう表現を用いる人に対しては欺瞞的なものを感じてしまうので信憑性が低いと評価しがちです。
 勧めたい気持ちが先行しすぎているため意図的に客観性を排して感情的に訴えかける、こういう悪気の無い嘘(本当に悪気が無いのかどうかはさておき)は誰だって用いた経験がある事でしょう。
 「負けても面白い」という表現はそういうものだろうと私は考えています。

 しかしながら全ての「負けても面白い」がそうであると言い切れるほどの根拠は今のところ持っておらず、むしろその例外となる経験が私にはあります。
 それがこのThey Are Billionsというシミュレーションゲームです。
 今回のゲームレビューは私がこのゲームをプレイして面白く感じた点を挙げながらそれがどのように「負けても面白い」に繋がっていくのか、どのようなメカニズムでそう感じられるのかといったことを考えていくものとなっております。

ゲーム概要

 ジャンルとしてはサバイバルコロニービルダーという大変分かりにくいものになっていますが、そんなに珍しい感じのものではありません。
 マップの中心にある拠点の周辺に住居や防衛設備などを建設して徐々に拠点を拡大していき、定期的に訪れるゾンビの襲撃を撃退していくのが主なゲーム内容で、ステージごとに定められたミッションをすべてこなすとゲームクリアになる一人用のRTSって感じでわりとよくあるタイプのゲームです。
 詳しくは公式サイトをご覧ください

面白いポイント

圧倒的な物量

 タイトルにBillionsとあるように、このゲームは敵ユニットの物量のすさまじさによってその他のゲームと差別化されています。
 シミュレーションゲームの戦闘は主に物量によって爽快感が生み出されるものであり、大量のゾンビが襲ってくるということは非常に気持ちが良い事を意味しています。

高難易度

 近年のゲームは操作の複雑さを排しつつ、難易度は高くする方向性のゲームが高い支持を得る傾向があります。
 ソウルライクというカテゴリーはそろそろおなじみのものになってきたのではないでしょうか、我々は簡単に倒せる敵を惰性で蹂躙していくよりも歯ごたえのある敵を倒して達成感を得る方を好むものだと考えられます。
 They Are Billionsは個別で見れば簡単に倒せる敵ユニットを大量に配置することで歯ごたえを生み出しており、爽快感と難易度が両立されています。
 また、この難易度は細かくカスタマイズすることが可能です。
 自分の習熟度に応じて丁度いいものを選択するのもいいし、難しくすればするほどクリア時のスコアに倍率がかかるので一通りクリアした後にハイスコアを目指して遊ぶのも良し。
 リプレイ性が非常に高いです。

僅かな綻びから全てが崩壊する

 ゾンビに襲われた人間はゾンビとなって人間を襲う側に変貌するというある種お決まりとなったルールにこのゲームもまた忠実で、それはシステムにも取り入れられています。
 建築した建物がゾンビによって壊されてしまうと、その建物の中にいる人間がゾンビとなって群れに加わることになります。
 ですので防衛設備の無い住宅地にたとえ一匹でもゾンビに入り込まれてしまうと1匹が5匹に、5匹が100匹にと指数関数的にゾンビが増えていき一気に内部崩壊を起こしてゲームオーバーということになります。
 これは特に稀なケースではなく、ゲームオーバーになるシチュエーションのほとんどがほんの少しの撃ち漏らしや隙から入り込まれた少数のゾンビによって引き起こされる感染爆発が原因なんです。

 これを防ぐためには全体に平均的な戦力を割り振る必要があり、安心できるほどの戦力を集めることはいつまでもできません。
 常に防衛を突破されるかもしれないという緊張感が続き、これがストレスにもなる反面、面白さとも感じられるのが不思議なところ。
 人事を尽くして天命を待つっていうのはこういう気分なのでしょう。
 そうした中でほんの少し撃ち漏らしたゾンビが住宅地へ向かって行き、感染爆発が起こる様子を見ることになるとなんだかそれすら気持ちが良いような気もしてくる。
 これが最初に書いた「負けても面白い」に繋がる部分です。

リーズナブルな依存症体験

 おそらくこれはギャンブルにハマるメカニズムと同じなのでしょう。
 私はギャンブル依存の父親がいたので様々な依存に関する書籍を読んできました。
 そこから得た知識の中に大金を得ることも、大金を失うことも同じだけの快感を得られる体験なのだというものがあります。
 人は自分の意思で大量のものを動かすことに快感を覚える生き物なのではないかと考えることができます。
 つまり大量のゾンビを倒し巨大なコロニーを建造する、そしてその存亡を賭けてさらに大きな戦いに挑むことがこのゲームの面白さの本質。
 その結果はどう転ぼうと関係ないのです。
 They Are Billionsはギャンブルと同じメカニズムの中毒性を持つゲームだ、というのが私の見解です。

 セールじゃない時に買っても3000円くらいのゲームなのでかなり安全に不健全な楽しみを経験することができる非常にコスパの良いゲームなんじゃないでしょうか。
 このジャンルのゲームをあまり好んでいるわけではないし、神ゲーという評価を下すことが殆どない私に神ゲーだと思わせるほどの傑作です、ガチでオススメ。
 これをギャンブル依存の方にやらせたらどう感じるのか非常に興味があります。

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