成長とは何かを教えてくれる漫画 GANTS ダイの大冒険 スラムダンク【漫画レビュー】

 久しぶりの投稿になる漫画レビューは豪華三本立てです。
 本当に豪華なものを三つ並べるとなんで単体で書かないのかっていう気分になりますね、そうしなかった理由はあまり長く書きたい作品ではないからです。
 この三作は私が本当に心から好きな漫画でして、そういうものに対して長々と語るのって無理なんですよ、読んだだけで満足しちゃってるので何か言いたい気持ちが湧かないんです。
 あるのはこれ面白いから読んでみてよって広めたい気持ちくらいなのでそういう所を書いていきたいと思います。
 三作品とも大体同じようなベクトルの良さを感じていて、それは成長ってどんな感じのものなのかを表現しているところ。
 順番に書いていきましょう。


GANTS

 今回レビューする作品の中では一番エンタメ色の強い作品になります。
 いろんな要素が盛り込まれており、ほどよくエロかったりスケール感のある絵やアクションシーンなど視覚的な刺激に溢れていてそういった点でも高く評価されています。

 前回書いた東京喰種のレビューは主人公が好きになれなかったという所を中心に書きましたが、GANTSは主人公の玄野君がすごく好きというか共感に溢れる人物像でした。
 玄野君は誰もが好感を持てるような整えられた精神の持ち主ではありません。
 初期の頃の印象は利己的で欲望にすぐ負ける非理性的な弱者男性といった感じでしょうか、私にとってはこのくらいの感じがほどよく普通の人って感じに見えます。
 もう少し露悪的に描かれると雑魚敵っぽく見えてしまうので良い感じのバランス感だと思いました、不自然さが無いダメな奴です。
 GANTSはこの玄野君が地球を侵略しに来た様々な宇宙人と戦って成長していく物語です。

 私が好きなポイントは最終的に地球を救った英雄になる玄野君が実はほとんど精神的成長を遂げていないというところです。
 その行動こそ結果的に他人のためにもなっているものの、それは自己犠牲ではなくてあくまでも合理的な利己的判断によるものであり玄野君は最初から最後まで玄野君のままなんですよね。
 それを一切隠しもしないし悪しざまに描くわけでもなく、あるがままに描かれていたのが非常に好印象でした。
 置かれた環境によってダメな奴にも英雄にもなる煮え切らない玄野君の心境に関する描写は全てよく分かる、共感できるものでした。

 ストーリー全体としての完成度は誰が見てもイマイチでしょう。
 しかし玄野君は誰が読んでも共感できる主人公ではないかと思います、そういう人物の視点で描かれる物語はちゃんと感情移入することができるのではないでしょうか。
 人は大切なものができると行動が変わります。
 ただそれだけのことを成長と呼ぶことができる。
 これがGANTSなんですよ、全然すごくない素晴らしい価値観を感じることができました。

ダイの大冒険

 GANTSとは打って変わって王道少年漫画のレジェンド。
 私の感覚だと自分よりちょっと前の世代の漫画って感じなのに近年再アニメ化されたりして、世代を超える名作としての格を見せる作品です。

 ロールプレイングゲームのドラゴンクエストと世界観を同じくする舞台で物語の主人公であるダイが勇者としての役割を果たしていく物語。
 この作品の見どころが主人公パーティーの一員であるポップ、そして敵役ハドラーの成長にあることはもう言うまでもないでしょう、ダイ大読んだ人は皆この二人が好きになるんです。
 臆病な魔法使いで一応戦う体裁でダイに同行しているものの危険が迫ると一人だけ逃げ出してしまうポップ、強いやつに命令されたから勇者を倒しに行くだけの敵役ハドラー、初期の頃はどちらも保身を最優先に置いておきながらその行動は望みとはかけ離れており、「やらされてる感」が強く表れています。
 このやらされてる感は物語が進んでいくにつれて徐々に薄れていきます。
 それは心境の変化によるもので、考えを変えるに至った具体的なエピソードも丁寧に読解力を必要としないほどしっかりと描かれています。
 簡略化じゃなく丁寧な仕事をするのってかなりの実力を必要とするのは皆さんも実感としてお分かりの通り、何の仕事にも共通する格の高さ。
 チャラチャラすることなく普遍的なもので勝負できるホンモノの漫画家が書いた話だと感じることが出来るはずです。
(原作者付きなので漫画家たちと言った方が正しいかもしれません)

 私が好きなポイントはやっぱりポップとハドラー、それぞれの精神的成長が正反対の経緯を経て最終的に同じ所へたどり着くところでしょうか。
 両者とも類稀なる才能を持ち合わせていて、ポップは多くのメンター達との交流によって生来の臆病さを克服していきました。
 ポップの臆病さは一人の人間としては真っ当なものなのである意味狂った思想を持つ勇者一行の仲間達に何を言われても響くことはありませんでしたが、同じような臆病さを持ちそれに肯定的な生き方を選択をしたアウトロー達や、やさぐれたように見える師という「話の分かる」人々との出会いが彼を変えました。
 非常に分かりやすいですね、無茶を押し付けるのではなく一人の人間として真摯に向き合うことで心を開き困難に立ち向かえるようになっていく展開はヤンキー漫画の文法と同じものです。
 今の連載漫画で言うとハンターハンターのシュートとゴンのエピソード何かも同じテイストです。

 一方ハドラーは環境の悪い中で失敗し続けながら自分と向き合い、これまでの失敗が自身の臆病さが招いたものであることに気付いてからは命がけで最も価値のあるものは何かを探し求めるようになりました。
 最終的にこれまでやってきたこととは相反する価値観を持つに至り、敵役として最上位の格を身に付けることになります。
 しかしそこからも失敗は続き、自分が原因で素晴らしい価値を持つ男と認めたポップの命を危険に晒すことになります。
 そこをかつてのライバルに救われ、最悪の結果にならなかったことを神に感謝しながら自身は力尽き最期を迎えました。
 終始やらかし続けて最後は敵に助けてもらうダメな奴と言えるハドラーではありますが、これは同じように臆病さを克服し恐怖に流されない生き方を選び取れるようになったポップが辿っていたかもしれない結末の可能性の一つでもあります。
 作中の「他人とは思えなかった」というポップのセリフで表されているように、二人の違いは上手く行ったか行かなかったかの違いでしかありません。
 何度も読み返してここが読み取れるようになった時めちゃくちゃ腑に落ちる思いがあってより一層この漫画が好きになりました。
 どうにかポップの命を救おうとするハドラーの姿は真に迫るものがあり、これ以上はないと思うほどのカタルシスを感じられます。
 全体の完成度も文句なしに良く、ファンタジー少年漫画とはいえひねくれたオッサンが読んでも十分感動を感じられる大傑作だと思います。

スラムダンク

 点数をつけるなら満点、それ以外に無いと断言できる。
 これを知らない人は漫画っていう単語を知らないのではないかとさえ思える抜群の知名度と人気を誇る作品。
 主人公の桜木花道が気になる女の子の気を引きたいという不埒な動機で始めたバスケットボールに夢中になっていくスポーツ漫画です。

 よく面白いミステリー小説の感想で「記憶を消してもう一度読みたい」と表現する人がいます。
 スラムダンクはそういった感じのストーリーを追って楽しむ感じの漫画ではなくて、忘れられない思い出の一つになったような読後感がある漫画でした。
 あたかも花道みたいなやつが身近にいて応援していた事があったかのような錯覚を覚えるほどの読書体験を与えてくれます。
 作り話の登場人物が「今度は嘘じゃないッス」って言ってるのを見るだけで未だに感動が蘇ってくるのは何なんでしょう、言葉で言い表せないような感動があったことくらいしか書くことができません。

偽物が本物になる

 というわけで今回のレビューはこれで終わりです。
 三本立てにしたのはスラムダンクのレビューを書きたかったからなんですが、全然長く書けないので他の二作品のレビューを加えました。
 GANTSは玄野君が生き残るために演じていたにすぎない振る舞いがいつの間にか板についていたという形で。
 ダイの大冒険は流されるように生きる中で自らの意思を構築する形で。
 スラムダンクは手段が目的化する形で。
 それぞれはじめは偽りだったものが真実へと転じていくという成長のプロセスを描いて、ここの描き方が上手いのがいいんですよね。
 余計なことを考える余地が生まれず、素直に作品を楽しむことができたというのがこれらの作品を絶賛する理由でしょうか。

 漫画は全部作り話です。
 だから嘘くささを抜いてくれないと興醒めしてしまって、エロ漫画と同じ基準で測らざるを得なくなってしまうんですよね。
 感動ポルノなんていう言い方がまさにそれでしょう、嘘で人を楽しませようとする人の頭が悪そうだと感じてしまうと話聞くのがキツいものです。
 実際にどうかってことは関係なくて、そう感じるだけでいたたまれないような気持ちが生まれてしまう、創作の難しさがそこにあるんじゃないでしょうか。
 その点レビューって気楽で良いですよね。
 思ったことを書いてるだけならどんだけ浅いこと言ってても特に気になったことがなくて、スラムダンクが中途半端なところで終わった駄作とか言ってる人を見ても価値観の違いを感じるだけで嫌悪感はそうそう生じません。

 私がこうして自分の考えていることを正直に書き表して飾り立てることなく人前に出せるのも成長の結果と言えます。
 読みづらいところを書き直すくらいの事はしますが、思っても無いことを書いたり気取ったことを書いたりすると誰からも共感を得られないことに気付くのって案外難しくて、時間で言うと25年くらいかかった気がします。
 好きなものを広めたいなら嘘をついてはいけない、今回の記事はそうした学びをもとに書き上げた本物のレビューなので興味を持たれた方がいましたら是非これらの漫画を読んでみてください。
 全部読んだことあるよ当たり前じゃんって言われそうなラインナップなのは正直に書いたらそうなったので仕方が無いのです。

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