ゆ と り の 賽 銭 箱

嘘つきと言われたから、ポケットに入れたままの小銭を賽銭箱に投げ入れた

子供の頃に見た思い出が最新の掃除機に吸われたと勘違いしたあの日

賽銭箱の内側は私の表象を止めどなく揺らしてくる

空っぽになった賽銭箱の底を奈落と表したかつて

「昔は」といえば後ろを振り返りたくなるし

「今より」といえばきっと優しくなりたい人

亡くなった上履きの片っぽを

クラスのみんなで探し回る

チャイムが聞こえてくると鳴らないでと祈って

また賽銭箱に拾った小銭を捧げるの

金曜日が愛おしかった月曜日が気怠かった日曜日は寂しかった

言い訳を見つけた方が負け

ノートに金曜日は好き、月曜日は嫌い、日曜日はちょっと嫌い

一つの回答を先生に見せるとき私は正解したと

自慢したくなった

みんなも先生から正解をもらっていた

みんな自慢していた

だけどそれは記憶の捏造だったみたいと

気付くのは賽銭箱には底があると知らされた7年前だった

19年間みんな先生に上履きを隠され続けて

素足に画鋲が刺されても寒い冬に足が凍っても

先生は優しくなりたい人だった


葉の隙間を満たす光は好きですか?

私に問いかけた先生は日曜日が好きだった

優しくなりたい人だった

みんなに優しくなりたい人だった


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