共通テスト直前!10分で物理の点数を伸ばす【原子】〈後半〉
さて、原子を学ぶ上での原点となるストーリーは以上となる。この話に対して、受験物理で必要な公式の説明と、量子力学の基礎となる波動性と粒子性の話をより受験知識に特化して話していく。
これから話していくのは、量子力学の根幹となるものであるが、抑えておきたいのは以下の3つだけで、それ以外は今までの高校物理(力学、波動、電磁気)の知識で導き出すことができる。
・E=hν
・pλ=h
・量子条件:2πr=nλ
<波としてのエネルギー>
最初のストーリーでも出てきた「E=hν」
次の説明で出てくるが、量子という極小の世界においては波の性質と物質の性質の二つを持つことになる。この「E=hν」は、波動として見たとき、そのエネルギーはプランク定数(h)の振動数(ν)倍で表すことができる。
<波と物質の性質を結びつける唯一の公式>
光電効果にも表れたように、光というのは波としての性質だけではなく、粒のような物質としての性質も持つことが明らかになった。では、光子は現実世界において「波」なのか、それとも「粒」なのか?
答えは「波」でもあり「粒」でもある。それを表した公式が「pλ=h」である。
教科書には様々な表記がされているが、結局式変形すればすべてこの「pλ=h」になる。改めてそれぞれの文字について確認すると、運動量p(=mv)、波長λ、プランク定数hである。運動量という「粒」としての性質に、波長という「波」の性質を掛け算すると、定数になるのである。
<量子条件:波と粒、両方の性質を満たす条件>
原子核を回る電子。今までは電子という一つの「粒」として見てきたと思うが、量子の世界においては、電子も波動としての性質を持つこととなる。「粒」にも「波」の性質を持つ、「物質波」という考えを提唱したのがド・ブロイであり、その物質波の波長をド・ブロイ波長と呼ぶ。
力学と電磁気の知識を用いると、原子核の周りを回っている電子は半径r、原子核と電子の電気量、回っている電子の速度によって円運動の表記ができる。ここまでは「粒」としての話。
一方で、電子も「波」としての性質も持つが、原子の周りを安定して波が周回するためには、円周の長さが波長の整数倍になっていないと、周回を重ねるごとにぐちゃぐちゃな波形になってしまう。量子において、このような不安定な状態をとることはできないため、円運動していると考えられている電子には波としての性質の制限がかかる。それが「2πr=nλ」である。円周の長さ=波長の整数倍。
これで、原子の下準備はすべて終えた。一気に大学受験に必要な知識を網羅していく。
①光電効果
・光子(光を粒として見たとき)のエネルギー:E=hν
光の振動数νによって、光子エネルギーが決まる。
・仕事関数は金属の種類にのみ依存し、光電子を発生させるのに最低限必要なエネルギー
W=hν0 限界振動数:ν_0
・電圧を光電子を加速させる方向に働かせると、電流が一定のI_0に行きつく。
光の強度(単位時間当たりの光子の数)によって、単位時間あたりに飛び出す光電子の数には上限がある。光の強度との関係を見ることができる。
・電圧を光電子を減速させる方向に強めていくと、電流が0に近づき、電流が0になる電圧が阻止電圧V_0である。
電極にたどり着くのに、電子が必要とするエネルギーは(eV_0)であり、電子が持つ運動エネルギーの最大値(K_max)は(hν-W)である。したがって、阻止電圧との関係式はeV_0=hν-W=K_maxであり、阻止電圧(V_0)と光の振動数(ν)は1次関数となっている。
②コンプトン効果
光子と電子の衝突は、エネルギー保存と運動量保存が成立し、その時に用いるものが「pλ=h」である。光子の運動量(p)はプランク定数(h)を光子の波長(λ)で割ったものである。あとは、力学の運動量保存とエネルギー保存の立て方と全く同じ。
③ドブロイ波長
式としては同じ「pλ=h」だが、コンプトン効果では光子の波長から光子の運動量を求めたのに対し、ドブロイ波長は電子の運動量(p)から波動性としての波長(λ)を与えるものである。つまり、物質の「粒」として扱っていた電子も「波」としての性質を持つことを表した。運動量なのでp=mvである。
④水素原子モデル
原子分野のメインでもある問題。以下の手順をそのまま覚えるように!
⑴力学的に円運動の式を立てておく
『m・v^2/r=k・e^2/r^2』
⑵量子条件とドブロイ波長を組み合わせ、vの式を作る
<量子条件>2πr=nλ
<ドブロイ波長>pλ=hよりλ=h/p=h/mv
λを両条件の式に代入し、vについてそろえると
『v=nh/2πmr』
⑶ ⑴に⑵を代入し、rについてそろえると
r=n^2・h^2/(4π^2・kme^2)
このことから、円運動している電子の半径は自然数nによって飛び飛びの値をとることがわかる。逆に、この半径以外では電子は存在できない。
⑷電子のエネルギーは運動エネルギーと静電気力のエネルギー
E=mv^2/2-ke^2/r
ここに⑶を代入すればE=-2(πk)^2・me^4/(nh)^2
つまり、エネルギーも飛び飛びの値をとることがわかる。
⑸最後に、nの値が変わったときのエネルギーの差分が電磁波として出てくる。
電磁波のエネルギーはE=hν=hc/λであり、⑷の式をn,n’を代入し差分のエネルギーを結びつけると、
ΔE=hc/λ=-2(πk)^2・me^4・(1/n’^2-1/n^2)
両辺hcでわり、1/λにした時の(1/n’^2-1/n^2)の係数がリュードベリ定数Rである。
水素原子のスペクトル1/λ=R(1/n’^2-1/n^2)とは、nの値による電子の軌道の変化によって、λは定まる。
⑤X線
・陰極のフィラメントから発した熱電子を電圧差による加速で陽極側のターゲットに当てることでX線が発生する。熱電子がターゲットの金属原子の電子をはじき出すことによって、外側の電子が内側の電子殻に入り、その時のエネルギー差分がX線として現れる(水素原子モデルのエネルギー準位の考えと同じ)。つまり、ターゲットの金属元素によって固有X線は変わる。
・連続X線と固有X線
グラフの形を抑えておこう。横軸はX線の波長で、縦軸はX線の強さ。
⑥トムソンの実験
陰極から陽極に向けて電子を加速させる。一定の速度を持ったまま電子は偏向板を過ぎ、その区間において偏向板の陽極側に電子は加速される。
求めるべきは
「偏向板による電子の運動方程式から加速度:a_y=eE/m」
「偏向板を通る時間:t=l/v_0」
「上記二つから偏向板を抜けたときのy軸方向の速度:v_y=a_y・t」
「偏向版を抜けたときの速度のなす角θ:tanθ=v_y/v_x」
⑦ミリカンの実験
油滴にかんして運動方程式(力のつり合い)を複数立てる。それぞれの電気量を求めて、その電気量は電気素量eの整数倍になっている。
⑧放射線
放射能:放射線を出す能力
α崩壊:He原子が飛び出る(質量数4、原子番号2)→元の原子はヘリウム分の質量数、原子番号が減る。
β崩壊:電子が飛び出る。またニュートリノ(電荷0で質量がほぼ0の粒子)が出る。→元の原子は原子番号が1増える。
γ崩壊:α、βによる変化に伴い、できた原子が不安定な状態からγ線を放出して安定しようとする。
それぞれの飛び出る物質を考えればイメージ通りに透過率はα<β<γである。
⑨半減期
N=N_0(1/2)^(t/T)
半減期T経つと放射性原子の数が半分になる。
⑩質量欠損
核分裂や核融合の際に、質量が減る。このとき、減った質量はエネルギーとして放出され、ΔE=Δmc^2である。(E=mc^2より)
原子力発電では、ウランの核分裂による質量欠損のエネルギーを水に吸収させ、水蒸気としてタービンを回し発電する。