【インタビュー】 熊野とカミーノ。|共通巡礼達成者 長野慎一さん
2015年に始まった、サンティアゴ巡礼路と熊野古道の両方を歩いた人を登録する共通巡礼制度。
達成した人は「デュアル・ピルグリム(二つの道の巡礼者)」と呼ばれ、これまでに世界中から約3500人が登録されています。(※2020年12月末時点)
2018年に共通巡礼を達成した和歌山県上富田町出身の長野さんもその一人。
古くから「口熊野」と呼ばれた上富田町に生まれ、子供の頃から熊野古道を身近に感じていたという長野さんに、2つの道での巡礼体験についてお聞きしました。
■ 熊野古道との関わり
ー まず、長野さんと熊野古道との関わりを教えてください。
僕が小学生の頃はまだ世界遺産じゃなかったんですが、登録に向けた運動が地元で盛んに行われていたのを覚えています。
学校の遠足で歩いたこともありますし、元々歩くことが好きなので、その後も友達や同僚を案内しながら熊野古道を歩きました。
実家から日帰りでも行けましたし、全部合わせると20回以上は歩いていると思います。
ー すごく身近な存在だったんですね。
そうですね。
和歌山大学大学院の観光学研究科に在籍していた時も、熊野古道をテーマとした研究をしていました。
熊野古道はただの山道ではなく、宗教的・文化的なバックグラウンドがあるので、そういったものが歩く人の感情にどのように影響するのか?という観点から、修士論文を書きました。
ー 大学院在籍時に、サンティアゴ巡礼に出発されたんですよね。
はい。姉妹道提携の存在も知っていましたし、サンティアゴ巡礼路を見てみたいという思いがあり、2017年の夏休みを利用してスペインに行きました。
このタイミングを逃すともう行けないと思ったので、迷いはなかったですね。笑
■ サンティアゴ巡礼へ
ー 具体的にどのルートを歩かれたんですか?
巡礼路の中で一番ポピュラーな「フランス人の道」を歩こうと決めていたので、あとは夏休みの日数から行程を逆算して、レオンという街から歩くことにしました。
終点のサンティアゴ・デ・コンポステーラまでは約320kmで、合計11日間の巡礼でした。
レオンに着いた日はゆっくり市内を観光したんですが、その日に泊まったアルベルゲ(※巡礼者のための宿泊施設)で、柵のない二段ベッドの上段を割り当てられて。
ちょっと不安に思っていたら、案の定寝ている時にベッドから落ちてしまいました。笑
幸いケガもなく、無事巡礼を始めることができました。他の巡礼者に「ベッドから落ちた奴だ」と、再会するたびに言われるようになってしまいましたけど。笑
ー 災難でしたね(笑)。他に記憶に残っている体験はありますか?
そうして巡礼を始めたんですが、初日からいきなり天気が大荒れで、この先大丈夫かなと、不安になりました。
ただ、その日にHospital de Órbigo という小さな町で泊まったアルベルゲがとても良かったですね。ベネズエラ人のおじさんが夫婦で経営している「San Miguel」という名前の宿で、とてもフレンドリーでした。
町自体もとても雰囲気が良かったので、1泊する価値があると思います。
あとは巡礼路の上を放牧の牛が通るので、その後ろに巡礼者の渋滞が起こったりしてて。熊野古道にはない体験で面白かったですね。笑
■ 11日間の巡礼
ー 巡礼の様子について、教えてください。
旅の前半は、同い年くらいのベルギー人と、二十歳くらいのドイツ人と仲良くなって、よく三人で歩いていました。
サンティアゴ巡礼の場合は、その日の体調や気分に応じて歩く距離やペースを変えられるので、誰かと一緒に歩いたり、一人で歩いたり、自由なんですよね。
巡礼者同士のコミュニケーションは基本的に英語なので、ある程度は英語を話せた方が巡礼を楽しめると思います。
ただ、小さな町だと英語が通じないこともあるので、簡単なスペイン語は歩きながら覚えました。
ー 巡礼中はどのような生活をされてたんですか?
前日の夜にガイドブックを見ながら次の日の予定を立てて、毎朝6時くらいに起きて20〜30kmくらい歩きましたね。
お昼はスーパーで買ったパンとかを食べて、14時〜16時に宿を見つけて、夕食を食べて翌日の準備をし、暗くなったら寝る。その繰り返しです。
バルやレストランに巡礼者向けの定食のようなものがあるんですが、どれもとても美味しかったです。あと、ワインやビールが安くて美味しいのも嬉しかったですね。
サンティアゴ・デ・コンポステーラに到着した後も、現地に住む日本人の方に色々案内してもらったり、大西洋に面するフィステーラ岬までバスで行って夕日を眺めたりと、とても特別な体験ができました。
帰国してから、スタンプをもらうためにもう一度熊野古道を歩き、2018年3月に共通巡礼達成の証明書をもらいました。
■ 2つの道を歩いて
ー 2つの道を巡礼して、感じたことはありますか?
熊野古道は日本人と欧米系の観光客が多いイメージですが、サンティアゴは巡礼者の国籍が多様でしたね。
またカトリックの聖地ということもあり、韓国人の巡礼者が多かったです。日本人にはあまり会わなかったですね。
あとは熊野古道に比べるとサンティアゴ巡礼路の方が、観光産業として発達しているように思いました。例えばアルベルゲの設営に行政が関わっているなど、巡礼に携わっている人の数が多いなと感じました。
ただサンティアゴ巡礼というと、広大な畑や乾いた大地の中を歩くイメージですが、森の中を歩く場所もあり、その風景は熊野と似ているところもあるなと思いました。
ー 最後に、共通巡礼を達成した感想をお願いします。
熊野とカミーノ、どちらの巡礼も、多くの人との出会いがあり、同時に自分自身を見つめ直す素晴らしい経験になりました。少しでも興味がある方は、ぜひ共通巡礼に挑戦していただきたいと思います。
僕自身も、熊野古道、サンティアゴのどちらにも歩いたことがないルートがまだまだあるので、機会を見つけて歩き続けられたらいいなと思います。
ー 長野さん、貴重な体験をありがとうございました!
■ まとめ
今回は、共通巡礼達成者の長野さんに熊野古道とサンティアゴ巡礼路での経験をお聞きしました。
現在、共通巡礼を達成した人は約3500人。
皆さんそれぞれ巡礼の形や目的が違うと思うので、今後も色んな方にお話を聞いていきたいと思います。