ご挨拶
いつも興味深い記事を読ませていただき、ありがとうございます。
なかなかコメントできないながらも楽しく拝読していたのですが、しばらくnoteにアクセスする時間を取れそうになく、”スキ” など、何の反応も示さなくなるかと思いますが、ちゃんと生きていますw
また時間的な余裕ができましたら、皆さまの記事を読むことを楽しみにしております。
この記事につきましても、お返しが難しいと思いますので、スキ・コメントはお気遣いなく!
どうか、お体に気をつけてお過ごしください。
Loris M.
イタリア滞在記Ⅲ
6月5日(月)
前日から二日連続で断続的に雨が降ったため、うちの35歳児が、
「川の水、溢れるかなぁ?」と、目を輝かせながら始終そわそわしている。
そこで、この日は所用で忙しかったが時間を見つけ、近所の川の様子を見に行くことにした。
洪水の痕跡といえば、詩のプライベートレッスンが二週間延期になった。
先生の学校の所在地が、最も被害を受けた町のひとつであるラヴェンナなので、もしかしたら...とは思っていたけれど。
水害の影響でCILSもDITALSも、全ての試験がリスケになり、調整が大変だという。
そんな状況なのに、学校とは関係のない僕のことを覚えていて、連絡をくれたのはとても嬉しい。今度彼に会ったとき、お礼を言わないとな。
それにしても、約三か月の滞在期間中の主な予定が、全て滞在後半に集中することになるとは...
ちなみに、この日食べたものの中で一番美味かったのはこちら(↓)
6月6日(火)
とてもいいことがあった。
リビングのセンターテーブルに置かれたチェス盤上の駒と、譜面台に乗せた楽譜が見えるようになったのだ。本は少し前から普通に読めるようになっていたけれど、この二つを取り戻したことにより、灰色の世界に色がついたような感覚を覚えた。
おぉ主よ、心から感謝いたします。もうこれ以上、望むものは何もありません...
...なんて。この僕が思うわけがねぇ。
視力が戻ったのはよかったけど、これから一生、明るいところではサングラスや光量調節用の眼鏡をかけていないといけないのか?
海で泳ぐときはどうすんだよ。
...まったく。万能なんだったらさぁ、小出しにしないで一気に解決してほしいんだよね。
まぁ、昨日(6/6)は久しぶりにすげぇ楽しんだから、一応「ありがとう」とは思っておくけど...
...とはいえ。日記映えする予定は全て先送りになったため、日々の雑用や滞在中にやらなければならないことをこなす毎日が続く。
この日はファエンツァにある中華・日本料理レストランで夕食をとった。
ちなみに、僕もアンドレアも、生の魚は食べられない。
6月7日(水)
今日の昼食は近所のレストランで。アンドレア、アンドレアの友人・リーノ、僕の三人でテーブルを囲んだ。ちなみに、僕がリーノに会うのは今回が初めて。
食後、レストランの駐車場でリーノと別れ、アンドレアと二人車に乗り込む。家へ帰る前にバールへ寄ろう、ということになり、車が走り出すと僕は切り出した。
「...あいつ、僕が話してるときに、内容とは関係なく笑ってたよな」
「そうだね... でも、そのあと君のことsimpaticoって言ってた」
「...お前も僕の隣で、あいつと同じタイミングで笑っただろ。横目でしっかり見てたからな」
「うん... 俺も君のことsimpaticoって思ったんだ」
「...いまさら教科書の1ページ目に出てくるような形容詞について質問するのもアレなんだけど、なんなの、simpaticoって?! みんなそうなんだよ! 初対面のやつはどいつもこいつも、僕が喋るとみんなおんなじ表情で笑って "Come sei simpatico!" って言うんだ! 僕のイタリア語は完璧だったはずだ! 何がそんなにおかしいんだよ!」
「もちろん! 君のイタリア語はいつだって、冠詞が間違っていることを除けばイタリア人が話すよりも正確だ。でも、ほら、子供が大人の口調を真似するとおもしろいだろ。それで...」
「僕は子供じゃない!」
「わかってるよ。君の言う通りだ。でもね、俺と君は12歳離れてるだろ。だから、やっぱり君のことが幼く見えるんだよ。ましてや彼は君より20歳以上も年上なんだ。子供っぽく見られても仕方ないよ... それに... なんて言うか、君の話し方、アニメのキャラクターみたいだから...」
「...声がこんなだから、ってこと?」
「まぁ、それもあるけど... ローリス、colazioneって言ってごらん」
「...なんで」
「いいから」
「...colazione」
「WWW WWW WWW」
6月8日(木)
朝から天気が良かったため、朝食を近所のバールで買い求め、景色のいい場所で食べることに。
バールで買ったホットドッグを車に乗り込んだ瞬間に食べてしまったので、ここではアンドレアから半分わけてもらったサンドイッチを秒で食べ終え、蝶を追いかけていた。
すると、ふと、あることを思いつき、それをスマホのメモ帳に打ち込む。
そして、クリームの詰まったカンノーロを食べているアンドレアの元に戻ると、
「ねぇ見て。ストルネッロ作った」と、彼にスマホを差し出した。
「どう?」
やつにそう聞いてスマホを引っ込める。
「音節もアクセントも韻も完璧だね。Bravissimo!」
「...この詩、好き?」
「うん、いいと思うよ。最後のprincipessinaがかわいらしいし、niveaなんていう言葉をよく思いついたなと思う」
「...詩としてどう思うか聞いてるんじゃなくて、主観的に好きかどうか聞いてんの」
「うん、好きだよ」
「...そう。あのさ...前にお前が言ってた出版の話...あれって、小さくて薄い本でも別にいいんだろ」
「もちろん」
「著者名はさ、本名じゃなくても大丈夫なんだよね」
「うん。ペンネームを使えばいい」
「内容とかタイトルは僕が自由に決められる?」
「少しは編集者と話をしないといけないこともあると思うけど、大体は君の自由にできると思うよ。どうして?」
「...それだったら、やってみてもいいかな、って思って」
「...本当に?」
「うん」
「じゃあ俺は編集者と話を進めておくから、君は原稿に取り掛かってね」
午後はアンドレアの友人・グイードに会うため、カザルボルセッティへ行く予定だ。
本当は先週会いに行くはずだったのだが、急に向こうの都合が悪くなったとのことで延期になった。しかし、今日の昼過ぎ。グイードから、
「うちの猫が、いつもは俺のベッドで寝てるのに、今日はクローゼットの中で寝ててさ。いなくなったと思って探してたから寝られなかったんだ」と、またしても延期を仄めかすような連絡が来た。
しかし、アンドレアはこう返す。
「うちもローリスが、いつもはソファで昼寝するのに、今日はチェス駒の上で寝ててさ。顔中に跡がついていて大変なんだ。でも、来週は行けないから今日行くよ。君に頼まれていたものを渡さないといけないし」
...前半は言わなくてもよかったんじゃないかな。
そんなわけで、午後3時前。車に乗り込み、カザルボルセッティへ向かう。
夜から仕事に行かなければならないグイードはギリギリまで寝かせておくことにして、途中、散々寄り道をした。
寄り道を終えてグイードの家に押し掛けると、彼はちょうどベッドから出たところだった。
僕が彼に会うのは約9か月ぶりだ。9か月もあると、人は変わる。時として、息を呑むほどに。だから、Ciao! Quanto tempo! と挨拶するより先に、つい言ってしまった。
「お前、アンドレアより腹出てるな」
グイードの家に上がり雑談をしていると、二人から「君も十数年後にはこうなる」としつこく脅された。
その後、グイードの職場付近のレストランへ。
先の出来事に少し恐怖を感じたので、夕食はこれだけ...
6月9日(金),10日(土)
この二日間はアンドレアの仕事も女の子との約束もなかったので、ずっと彼と一緒に遊んでいた。
9日(金)。日中は二人でピアノを演奏したり歌をうたったりして過ごし、夜はルイージの家でピザを作って、三人で食べた。
三人で8枚のピザを食べたあとは家に帰り、アンドレアと二人で朝方までチェスをしたり、半分寝ながら映画を観たりした。
10日(土)。いつもより遅く起き、朝食兼昼食をとりに車で出かける。
食後はドライブ。
ドライブを始めて秒でアンドレアが疲れてしまったので、バールに寄る。
バールを出て、ベルティノーロへ向かう。
ジェラートを食べたあと、帰路につく。
途中、教会の駐車場に車を停め、前日の夜に二人で寝落ちしてしまい、中途半端になっていた映画の続きを最後まで見た。
6月11日(日),12日(月)
11日(日)。この日、アンドレアは女の子との約束があり、忙しかった。
しかし、彼はどんなに忙しくても、一日に一度は僕を散歩に連れて行く。将来、犬を飼うことがあれば理想的な飼い主になれるだろう。
そんなわけで、朝食後。ファエンツァの公園へ出かけた。
12日(月)、午前5時半。
アンドレアが実家の母親から呼び出された。彼の父親が、一瞬だけれど気を失って倒れ、頭を打ち、救急病院に運ばれたという。
同日、午前11時頃、病院へ行ったアンドレアから連絡が来た。
頭部の傷を3針縫い、いくつかの検査をした結果、今日のところは帰宅できる、とのことだった。
ただ、心臓にちょっとした異常があり、今週の金曜日に心臓専門医で再度検査を受けなければならないらしい。
去年も同じようなことがあった。ただ、アンドレアの父親にではなく、やつの母親に。
彼女は気絶して頭を打ったわけではないけれど、心臓の不調で病院へ運ばれたのだ。
僕とアンドレアの年の差は12歳だけれど、僕たちの両親には20歳の年の差がある。僕の父さんは49歳、母さんは50歳だから、アンドレアの父さんも母さんも大体70歳だ。
70歳くらいになれば、誰にでも体の不調はありそうなものだけれど、両親揃って “心臓” ってことは、アンドレアもあまり心臓が強くないのかもしれない、と思ったりする。
でも、両親共に70歳でも生きてるし、あいつの母さんは薬を飲みながらだけど、普通に暮らしてる。父さんだって、ちょっとした異常はあるかもしれないけれど、きっと薬を飲めば普通に暮らせるから、まだ生きられるだろ。だから、アンドレアだって70歳以上までは生きるよね。
あいつが70歳になったら、僕は58歳。
僕の母さんは孤児だから、母さんの血縁者がどんな病気になったのかとか、何歳まで生きたのかとかは分からない。でも、父さんの方はみんな短命だ。だから、たぶん僕は60歳くらいまでしか生きられないはず。
僕が60歳になったら、あいつは72歳。余裕を見て75歳まで生きてくれたら、あいつの死ぬところを見なくて済む。
...なんとなく大丈夫そうだな。
もうあいつを怒らせたり心配させたりするのはやめようと、ちょっと思ったけど...やめた。
正午。両親を実家へ送り届けて戻ってきたアンドレアと共に、近所のレストランへ昼食をとりに出かけた。
食後、アンドレアが、
「ドルチェ、どうする?」と聞く。
僕は、
「いらない。お前も食うな。また太るから」と答えた。
ところで、次回から先に掲載したフェイク記事『星とバラのソネット_1』に秘密基地を移すことにする。