見出し画像

秘密の値段

日本時間午後7時半。横浜の実家からイタリアにいるアンドレアとZoomを繋ぎ、ケンカをしていた。

「だから100語で書けって言ってるだろ?!前回はまだ100語台だったから許したけど、今回は250語ってどういうことだ?試験準備の一環なんだから真剣にやれ、このタイトル詐欺師!」

「『100語台だったから許した』?あんなに文句言っておいて、あれ、許してたの?それに、真剣にやってるから長くなっちゃうんだよ!それなのに『詐欺師』ってなんだ?!」

「許したから書き直しさせなかったんだろ!今回は...」

「あ、麻衣ちゃんからメール来た。ちょっと黙ってくれない?こっち先に読むから」

僕がGmailを開き画面をスクロールしていると、アンドレアが不満そうな表情で手元のビールを口に含む。そして、こちらを一瞥した瞬間、それを吹き出した。


※この記事は、日本人の僕とイタリア人の友人アンドレアがイタリア語で交わした会話を、日本語に訳したものです。
ほぼ会話のみで構成されているので、どちらの発言であるかを明確にするため、僕の台詞にはL、アンドレアの台詞にはAを、「」の前に付けてお送りしたいと思います。


L「なんだよ、汚ねぇなぁ」

A「...画面共有したままメール開くから中身が全部丸見えなんだよ。その絵...」

L「あ、そっか。まぁ...僕もびっくりしたけど。この絵↓さ、前にも見たことあるだろ」

A「うん。麻衣ちゃんの小説↓の挿絵だよね。君が、『この絵を見ると子供の頃を思い出す』って言ったら、以前、麻衣ちゃんが絵の中の二人の髪色を俺たちのと同じように変えてくれて...」

L「そうそう。で、今回はオリジナルの作者が描き換えてくれたんだ。この絵を描いた人、まだお前に紹介してなかったよね?ほら、この人↓ よるつきさんっていうんだけど...」

よるつきさんの最新記事がこちら↓ (2022/10/26 17:30現在)

A「よるつき...どういう意味?」

LNotteノッテ - lunaルーナ...いや、Notte - lunaだと “月夜 “ になっちゃうから、Luna ルーナ - notteノッテか」

A「なんて神秘的で美しい名前なんだ!それに、こんな素敵な絵を描くんだから、すごい美人なんだろうな!」

L「...何その思考回路。名前だけ見ると女の子っぽい*けど、男かもよ?」
(*イタリア語では "luna " も "notte" も女性名詞です。)

A「...男?こんな繊細な絵を描く人が男なわけないだろ」

L「すげぇ偏見だな」

A「まぁ、それはいいとして...麻衣ちゃんもそうなんだけど、なんで絵にサインを入れないんだろう?こんなに上手かったらそのうちすごく有名になるだろ。後々のためにもサインを入れておいた方がいいと思うんだけど...日本人って絵にサイン入れないの?」

L「さぁ...?」

A「あと、絵の右側に見切れた状態で紙のようなものが描かれているだろ」

L「え?あぁ...あるね」

A「これ、オリジナルにはないよね」

L「...お前、よくそんなこと覚えてるな?」

A「視覚的な記憶力は割といいほうなんだ。それで、問題なのはこの紙に書かれていることなんだけど...君がブログを始めるとき、本名は絶対に出すなと言ったはずだ」

L「...ちょっと待って。なに言ってんの?なんで説教始める直前みたいな顔してんの?」

A「”NA” って書いてあるように見えるんだけど」

L「...確かに」

A「本名を載せただろ」

L「の、載せてない!本名なんかネットに載せるわけないじゃん!家族に名前を呼ばれる場面ですら ”ローリス” で統一して書いてる!それに、お前の名前だって、ちゃんとセカンドネームを使ってて、ファーストネームを出したことはないよ!ルイージとかカルロとか他のやつもみんな偽名だし...あ、”ルイージ” は偶然、あいつのセカンドネームを選んじゃったけど...」

A「...ずいぶん饒舌だな?」

L「...もうそんなことどうでもいいだろ!そんな端っこばっかり見てないで真ん中を見ろよ!せっかく描き換えてくれたんだから!」

A「...髪型まで変えてくれて...すごく印象が変わるよね」

L「まぁね...なぁ、ずっと前から聞きたかったんだけどさ」

A「ん?」

L「...なんであのとき僕に声をかけてくれたの?お前は『友達になりたいから』って言ってたけど、でも、そんな理由で、見ず知らずの、外国人のガキを家に連れて帰って世話したりとか...普通しないだろ。もし不法滞在してたり犯罪とか犯してたら、お前も捕まるのにさ。そうでなくても、親に知られたら誘拐したと思われるかもしれないじゃん」

A「...そうだなぁ。麻衣ちゃんの小説を、あらすじとか、ところどころとかじゃなくて、全訳してくれたら教えてあげてもいいかな」

L「...は?あの小説、8万字以上あるんだけど?」

A「それ相応の秘密を打ち明けるんだから、そのくらい当然だろ」

L「でもさ、8万字って翻訳のギャラの相場でいうと160万円以上だよ?そんなすごい秘密なわけ?」

A「...まぁね」