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Starfield: 火星での数奇なお使い

最近は火星のシドニアでウロウロとしている。そろそろ旅立つつもりなのだが、ひょんなことから関わった依頼が、思わぬ方向に展開していき、やっとこさ完了したところだ。

お使いの憂鬱

何気なく声をかけた採掘場のトレバー・ペティヤールという男。彼は現場の採掘道具を新調したいらしく、ボスに承認を求めてメールを出したのだが、一向に答えが帰ってこないとのこと。それもそのはず、そのボス、ピーター・ブレナンという男はいかにも官僚主義的な人物で、アシスタントがいなければ何一つまともに出来ないらしい。

それで、そのトレバーが考えた計画はこうだ。誰かが無能なボスのアシスタントに応募し、採用され、ボスの目を盗んでメールを承認する。なんともまわりくどいやり方だが、トレバー曰く、それがもっとも手っ取り早いのだそうだ。そこで私に白羽の矢が立った。私が有能そうに見えたから……では決してなく、流れ者のように現れた私をちょうどよいと思ったのだろう。報酬は出るというから、私は軽い気持ちでその誘いに乗った。だが、その依頼は想像以上に厄介なものだった。

まず私は、アシスタントに応募するため、ダイモス社のステーションへと向かった。ダイモス社はシドニアの採掘場を管理している会社で、トレバーやそのボスも、そこの従業員というわけだ。私はコンピュータにアクセスし、おそらくアシスタントとしての素質を見極めるための、いくつかのくだらない質問に答えた後、アシスタントの応募を済ませた。正直なところ、自分が会社の求める人物像に合致するとは思えなかったが、トレバーには私を確実に採用させる策があるようだった。

シドニアに戻り、応募を済ませてきたことをトレバーに伝えると、彼は衝撃的な作戦について話し始めた。いや、もはや作戦と言えるかどうかも怪しい。採掘場の上のエリアには、ダイモス社の人事部門が設置されている。人のいないうちにそこへ侵入し、私以外の応募者の記録を消してしまえばいいというのだ。そうすれば、私を採用せざるを得なくなる、と。いくらなんでもバレるだろう、と私は反論したが、トレバーにはそうならない確信があったようだ。トレバー曰く、社員はもれなく忙しく、そんなことに気がつく余裕はない、ということらしい。

私は半信半疑のまま、深夜に人事部門へと侵入した。厄介なセキュリティを突破する必要を覚悟していたが、扉は空きっぱなしになっており、あっけなく中に入れた。その時点で、私はトレバーの言葉をほとんど信じつつあった。私はコンピュータに前に立ち、事前に教えてもらっていた「drowssap」というパスワードを画面に打ち込んだ。(言うまでもなく、passwordの逆綴だ。人類が自由に宇宙を飛び回る時代になってもなお、システムの最大の脆弱性が人間であることに変わりはない)

人類史上最も原始的なハッキングに成功した私は、アシスタントの応募依頼を手早く探し出し、私以外の情報をすべて消去した。その時は、偶然この数奇な作戦に巻き込まれて割りを食うことになった他の応募者たちに対して多少の罪悪感を覚えなくもなかったが、今はむしろ、彼らに感謝してほしいとすら思う。何を隠そう、私が一時的にとはいえアシスタントを務めることになったその男は、想像の何倍もどうしようもないやつだったからだ。

ハッキングしたコンピューター

お使いのたらい回し

あっさりとピーターのアシスタントとして採用された私は、早速彼に会いに行った。偉そうなわりに一人では何も出来なさそうな男、それが第一印象だった(ちなみに、それは最後まで変わることはなかった)。ピーターは私が新しいアシスタントであることにすら、しばらくの間気づいていなかったようで、脈絡のない無駄話をしばらく聞かされた後、ようやく仕事の話が始まった。

正直なところ、雇い主の代わりにメッセージの返信をするのはアシスタントとしての重要な仕事だ、などと捲し立てて、トレバーからのメールを早々に承認してしまうという手もあった。だがこの手の男というのは得てして、自分の思うように事が進まないと癇癪を起こすものである。ここまで来るのに決して苦労がなかったわけではなく(人事部門への侵入のために深夜まで待機していたこともあって、トレバーと出会ってから既に丸一日が経過していた)、この男のくだらない気まぐれで全てが台無しになることは避けたかった。

だから私は、ピーターの話を大人しく聞いていることにした。ピーターはある荷物がいつまで経っても届かないことに腹を立てていた。なにやら重要な荷物らしく、私はその在処を探るように命じられた。まずはハースト総督に話を聞いてこい、とも。

去り際に荷物の中身について尋ねたが、ピーターは口ごもるばかり。次第に苛つきはじめたので、癇癪を起こされる前にその場を離れた。大方、何らかの不正に関わる品物と言ったところだろう。この採掘場の従業員に、違法な薬物でも売りつけるつもりだったのかもしれない。だがそれは、今回の私の任務には関係のないことだ。

私はハースト総督を見つけ出し、話を聞いた。例の荷物は彼が預かっていた。何でもピーターは税金を随分と滞納しているらしく、罰則として荷物を押収したそうだ。いかにもな話だが、私が思うに、あの男は自分が払うべき税金を払っていないことすら、気がついていない可能性が高い。

私は困った。ピーターのところに戻り、税金を払うよう促すか?奴が素直に応じるとも思えないし、何より持ち合わせがあるのかも怪しい。かといって、ここで私が奴の代わりに金を払ってしまったのでは元も子もない。この七面倒なお使いを頼まれることにしたのは、幾ばくかのクレジットを稼ぎたかったからなのだ。

どうしたものかと私が思案していると、総督が口を開いた。取引をしないか。総督はそう言った。内容はこうだ。ある船を見つけ出し、それを破壊して欲しい。そうすれば、ピーターの荷物を返してやる、と。

なぜ船を破壊する必要があるのか、総督は詳しく語りたがらなかった。私は乗り気ではなかった。なにか面倒ないざこざに巻き込まれそうな、そんな予感がしたからだ。だが他に妥当な選択肢は存在せず、その上このハーストという男は、私がただのアシスタントではないことを知っているようだった。私は仕方なく、彼との取引を進めることにした。

ハーストは宇宙船のある座標を教えてくれた。そこはすぐとなりの惑星で、グラブ・ジャンプなら一瞬で着く距離だ。私がそこに向かうと、確かに一隻の宇宙船があてもなく漂っていた。機体を近づけると、船に乗っていた人物が私に交信を試みてきた。どうやらその船には、紅の艦隊の連中が乗っているようだった。

私の嫌な予感は当たった。このまま船を破壊すれば、私は連中に目をつけられることになる。何より奴らは海賊であり、船の扱いには長けているだろう。戦闘は避けるべきだ。私はそう判断し、仲間のふりをして船に乗り込むことにした。なぜハーストがこの船を破壊したがっているのか、その理由を知る必要があった。

艦隊のリーダーは私を信用してくれたようだった。私は船をドッキングさせ、中へと乗り込んだ。連結用のはしごを降りた先で私を出迎えたのは、真っ赤なヘルメットを被った海賊のリーダーだった。その男は私に銃を突きつけてきた。罠だった。仲間でないことは最初から見抜かれていたのだ。

とはいえ、船ならともかく、銃の扱いの方は私にも自信がある。そうでもなければ、こんなところに単身で乗り込んだりはしない。こうなることは想定内だった。こちらもすぐに銃を抜き返しても良かったが、それよりも私は、この船で何が起きているのかを知りたかった。

私は努めて冷静に、海賊との対話を試みた。相手は殺気立っていたが、私がハーストの名前を出すと反応があった。私はハーストにこの船を破壊するよう頼まれたことを、正直に伝えた。海賊は身構えたが、それを遂行するつもりはない、とすぐに付け加えた。破壊するつもりなら、わざわざ乗り込んだりはしない、とも。

海賊はそれで納得したのか、面白いものを見せてやる、と私にメモを渡してきた。それはハースト総督から紅の艦隊へのメッセージだった。どうやらハーストは浮気相手に船を盗まれ、その事実を隠蔽するため紅の艦隊に船を襲撃するよう頼んだようだ。そしてそれだけでは飽き足らず、私に海賊もろとも船を破壊させ、証拠を完全に消し去ろうとしていたというわけだ。

海賊はにやりと笑いながら言った(ヘルメットで表情は見えなかったが、声のトーンからして口角が嫌らしく上がっていたのは明らかだった)。そのメモはアンタの好きなように使え、と。はっきりとは覚えていないが、その言葉を聞いた私の口角も、ずいぶん上がっていたような気がする。私は海賊に礼を言い、自分の船に戻った。

ところで船を出る際、可愛らしいぬいぐるみ(総督の浮気相手が持ち込んだものだろうか)がベッドに横たわっているのが目についた。海賊たちの船には似つかわしくない代物だ。そう思い、私はそれを拝借していくことにした。船で待たせているコラへのお土産だ。(これは後日談だが、コラは結局、そのぬいぐるみを気に入ってくれなかった。なぜだろう、こんなにかわいらしいのに!)

船から拝借したぬいぐるみたち

私はシドニアへと、文字通り飛び戻った。例の証拠をどうするか、私の腹は決まっていた。私はウッダード司令官の元を訪れていた。この居住区で恐らく、ハースト総督の次に偉い人物だ。ウッダードは最初、流れ者の私を相手にするのを面倒そうにしていたが、例の証拠を見せると、徐々に目の色が変わっていった。彼は私のところに来たのは正解だったなと、メモを受け取った。後はこちらで適切に対処する、とも。

私は満足した。例の証拠をハースト本人に突きつけ、脅迫して金を要求するという手もあった。うまく行けば、今回の任務での稼ぎを倍に、いやそれ以上にも出来ただろう。だがそうはしなかった。正義のためなどではない。ハーストはこの私を都合よく利用しようとした。その罰が、たかが数千クレジットを失う程度のことで済んでいいはずがないのだ。

私は後のことをウッダードに任せて、ハーストの元へ向かった。奴が逮捕される前に、ピーターの荷物を回収する必要があった。ハーストには船を破壊したと嘘を付いた。奴はそれを素直に信じたようで、よくやってくれたと嬉しそうにしていた。恐らくは長年の積み重ねで得たであろうこの地位を、この男がじきに失うところを想像すると笑みが零れそうになったが、なんとか堪えて荷物を受け取り、その場を去った。部屋を出るとき、ウッダード司令官とその護衛が数名、こちらに歩いて来るのが見えた。

ピーターのところに戻ると、彼は相変わらず暇そうにしていた。荷物を渡すと、大した礼もなく次に頼みたいことについて話し始めた。私は税金はちゃんと払った方がいい、と忠告したが、彼の耳に届いたのかは疑問だ。

ピーターが次に頼んできたのは、溜まったメールへの返信作業だった。トレバーの狙い通りだ。私は早速彼のコンピューターにアクセスし、トレバーからのメールを探した。まともに整理されていないメールボックスを漁るのには苦労したが(今どきどこで感染したのか、ピーターの端末はウイルスまみれでまともに動かず、1件のメールを表示するのになんと3分もかかった!)、何とか見つけ出すことが出来た。

私はトレバーのメールを承認し、目的を果たした。ついでに他のメールにも片っ端から承認を出してやった。いっそのこと、二度とこんなことをしなくて済むよう、届いたメールを自動で承認するプログラムでも仕込んでやろかとも思った。しかし、何分待ってもエディタが起動しないので(テキストを打ち込むことくらいしか出来ない、標準搭載の軽量なエディタですら、だ)、諦めざるを得なかったのだ。

お使いの奪還

ともかく私は目的を果たし、トレバーの元へと戻った。トレバーは既に採掘器具を注文していた。あとは器具が届けば一件落着……となればよかったのだが、また厄介なことが起きた。器具を取りに行った採掘員が一向に帰ってこないのだ。

結論から言ってしまえば、これは事件と呼べるかどうかも怪しい、くだらない出来事だった。行方をくらました採掘員は職場に不満を感じていたらしく、嫌がらせのために器具を隠していたのだ。間抜けなことにその採掘員はすぐ近くのバーで堂々と飲んでいたので、私は説得し器具の隠し場所へと案内させた。

器具は基地から少し離れたところに止められた宇宙船に隠してあった。そこまでたどり着いたとき、採掘員は突然、銃を抜いてこちらに突きつけてきた。私は儀礼的なものとして、男の説得を試みた。だが私の無気力さが伝わったのか(何と言っても、私はもうヘトヘトだっとのだ!)、男は激高して銃を乱射し始めた。

あっけない幕引きだった。コーチマンを2発ほど打ち込んだだけで、男はすぐに動かなくなった。なんとも歯切れの悪い終わり方だが、今度こそこれで全ての片がついたのだ。トレバーに採掘器具の在り処を報告し、報酬を受け取った私は(正直なところ、私はその時彼からいくらもらったのか忘れてしまった。それほどまでに疲れ切っていた)、鉛のように重い足を引きずりながら、宇宙船の硬いベッドに横たわるべく、帰路についたのだった。

あっけなく倒れた作業員の男

翌日目を覚ましたときには、もう昼過ぎだった。腹が減っていたので、私は食事を摂りに再びシドニアを訪れた。食事の後、何気なく総督室を覗いてみた。一夜明けて、もはやハーストのことなどどうでもよくなりつつあったが、まだ多少の興味は残っていた。驚いたことに、総督室にはウッダード司令官がいた。いや、正確にはウッダード代理総督だ。そう、ハーストが失墜し空いたその席に、この男はちゃっかりと座っていたのである。

今回の出来事がシドニアという地区にどのような影響をもたらすことになるのか、私にはわからない。あまりにも色々なことが起きすぎたからだ。少なくとも、私がこの地を最初に訪れたときに比べて、採掘場はずいぶんと活気を取り戻したように思える。あるいは、単に私がそう思いたいだけなのかもしれないが。

採掘場に活気が戻った?

何はともあれ、これでひとまず、火星での用事は片付いた。コンステレーションの仲間たちを随分と待たせてしまった。私たちの次の目的地は……アキラ・シティ、その街だ。

とある流れ者の航海日誌より

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