菩薩と菩薩戒
お釈迦様を理想として仏の境地を目指す誓いをされた方、菩薩として生きようとされる方であるのに、特に菩薩戒を受ける必要はありません。
菩提心の前行を行い、全ての有情、敵味方それ以外差別なく、仏の境地に到らしめむべく、自身が煩悩障と所知障を断った一切相智を得よう、と願う心が後退せず、努力しなくても自然と湧き起こるなら、その方は本物の菩薩です。
逆に、菩薩の前行を含め菩提心を努力して起こそうとしている意志の固い方なら、菩薩戒を受ける事が出来ます。もし戒を破れば破戒にもなります。
チベット密教の修行者は、たいてい無上ヨガタントラレベルの灌頂を受けます。灌頂時に三摩耶戒、密教戒を授かるので、その前に必ず菩薩戒も授かります。
ただし、ただ灌頂の場に居るだけで、その辺りを理解していないなら、菩薩戒も密教戒も誓う必要はありません。いい影響をラマから頂いた、という事です。
密教で師と弟子の関係を結ぶのは、菩薩を志し菩薩戒と密教戒で自分を律する事を宣言した者にこそ、師も密教を伝える意義があるからでしょう。
もし敵と味方を区別する者に密教を伝えると、味方には好意的に、敵は攻撃し支配しようとしてしまうかもしれません。
特に菩薩の18戒の内の1つ目は
「他者を貶まず、自らは傲慢にならず」です。この1つ目が崩れると、他の菩薩戒全部に悪影響を与えます。
八偈からなる心の訓練の第2偈も、
「どこでも誰と一緒でもどの方よりも謙虚に、他の方を心から優れた存在と大切に出来ますように」
と菩薩戒の1つ目と被る内容なので、やはり重要な教えでしょう。
その菩薩戒も、優婆夷戒など仏教の基本の戒を受け、持戒している方が受けるのをカダム派の祖、アティーシャ尊者は「菩提道灯論」で勧めていますから、チベット密教の修行者は別解脱戒・菩薩戒・密教戒という3つのレベルで持戒されています。3タイプの戒を保つにもその方が保ちやすい、修行しやすいからのようです。
写真は今年のチベット暦の新年でのモモスープ