ストラップ
入社して半年がたった。
交換チームからテクニカルチームへスキルアップのため新人チームのホワイトに戻ることになった。そこには、ゆきを先生がいた。
本社クレームやら誤案内やら、いろいろやらかしていたので、「面倒臭いやつが帰ってきた」と嫌な顔をされるんだろうな、と思った。
だけど、そんな事はなく「お帰りホワイト」と、暖かく迎えてくれたのだ。
私は前職で、訴えたら勝てるんじゃないか?と思えるような酷い扱いを受けてボロ雑巾のような状態で入社した。だから、この優しさに心が緩んだ。そして、この人だけは信用しようと思った。
テクニカルチームに配属になるとストラップの色が変わる。新しい色のストラップを貰うのだが、「ストラップ、どれがいい?」と言われ20本ほどのズラッと並んだピンク色のストラップの束の右手を、ゆきお先生は差し出した。
(全部、同じ色やないかーーーい!)
と私は心の中で叫びつつ、その中から1本を選んだ。
「お?それにするか?」と、ゆきお先生は言った。私は小さく頷き、このピンクのストラップを受け取った。
既存のLDがSVに昇格するとき、マネージャーからSVの緑色のストラップを首からかけてもらっているのを見たことがある。
私はALDになったとき、LDになることがあったら我が儘を言って、ゆきお先生に黒色のストラップを首からかけて貰えるようお願いしようと思った。
でも、その日は訪れなかった。何故って、ゆきお先生が違う部署に異動していなくなったから。
先生がいないなら、LDにならなくても良いや!ピンクのストラップずっと着けていれるし。その方が自分の自尊心を満足させた。
そして私も部署異動する日がきた。異動先のストラップの色は青色だ。異動先のSVにピンクのストラップを着けたまま異動させてもらえないか?とお願いしたけど却下されてしまった。
師匠離れの良い時期。ピンクじゃなく青色のストラップを着けている自分。それだけで、自分が今までと大きく違う別の人間になった気がする。あの日はもう帰ってこない。
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