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エイリアンパニック「遭遇」

2人で一緒に3年3組に向かう。机を丁寧に並べていく。黒板を綺麗にする。床を掃く。掃除をするといってもそんなにやることはなかった。1年生が昨日、事前に大体の掃除をしてくれていたらしい。思っていたよりもはやく終わってしまった。
掃除があらかた終わって机に座り、ぼーっとしていると、それはやってきた。本当はなんとなく気配がしていた。痛みが大地を叩く。こぼれ落ちてくる。頭が割れてしまう。頭蓋骨の奥深くに鋭利な痛みを感じる。叫ぶことも逃げることもできない。
10分後、とにかく歩き回っていた。何かよくわからないことをぶつぶつと喋りながら。歩き回っていた。そのうち、上履きを蹴散らして、さらに制服が苦しくていつもはきちんと着ている制服の第1ボタンを外したりブレザーを脱いだりした。そして、叫んだ。自分の意思で歩き回って暴れているのではない。これは、自分ではない誰かが自分の中に今、入ってきていて身体と心を支配している。どうすれば良いのかわからない。自分の意思とは違う行動に驚いている。せっかく綺麗に整列させた机と椅子は乱れてしまった。そのうち教室だけでなく廊下にまで出て行って走り回った。自分をコントロール出来なかった。悲鳴は廊下に響いて、よく聞こえていたと思う。他のクラスの人や他学年の人も廊下や教室で掃除をしていたが、その存在は見えていて、見えていなかった。透明な壁が見えた気がした。悲鳴。1番近くにいた隣のクラスを掃除している男子生徒が驚いてこちらを見ていた。その存在はわかっていても、身体が言うことを聞いてくれない。今ここにいる自分と本来の自分は別人だ。外見は自分のように見えるのだろうが中身は自分ではない。自分ではなかった。そう思うしかなかった。そう思いたかった。周りにいるみんなに違うんだと伝えたかった。
少しして徐々に混乱と興奮が収まってきた。恐怖は残ったままだった。あの叫びは何に対する叫びだったのだろうか。ぐったりとしてしまい疲れた。歩く気力も、あまり残っていなかった。後ろから誰かに階段で突き落とされるのではないかと思い、怯えながらゆっくりと1階の保険室へ連れて行ってもらい、横になった。目をつぶって頭の中の喧騒が落ち着くのを待った。ぐるぐるぐるりぐるり。ぐるぐるぐるりぐるり。身体の中で鳴っていた。怖かった。

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