見出し画像

【BeBA TERRACE STORY】

vol.9
てつびんの提案から、
生活提案の場へ。
shop&gallery SUNABA

(タヤマスタジオ株式会社)



盛岡駅の南側、岩手県立美術館をはじめ、数々の文化施設が集約する盛岡市中央公園。その一帯に整備されつつあるBeBA TERRACE (ビバテラス)は、ゆたかな感性を持つ子ども、答えを自ら見つける子どもを育み、「社会とつながる機会創出」を願う、3つの民間事業者が主体となってつくる場所。都市公園の価値向上をめざし、市民の皆さんと育てていく空間です。さらに、その理念に賛同した事業者たちも徐々に加わって「あそびとまなびをつなぐ場」づくりに邁進中。ここでは、BeBA TERRACEに関わる事業者それぞれの思いを、順次紹介していきます。



モノとの出合いから知る風土。

 南部鉄瓶の製造および販売を行うタヤマスタジオ株式会社。同社が運営する「shop&gallery SUNABA」は、2023年2月にオープンしたのち、鉄瓶はもちろん、木工、漆、ホームスパン、藍染、白磁、ガラスなど県内の工芸やクラフト作家の作品を常設や企画展で販売しています。また、県産にこだわらず隣県や全国各地のクラフトや食品なども幅広く展示販売。
 「あ、これかっこいい」「使い心地がいい」とストレートな感覚で出合う全国各地のモノをきっかけに、そのモノが生まれた背景、風土、作り手に関心を向け、そこから改めて地元のものづくりに興味を持っていく。そんな循環が生まれたら面白い、と同社代表の田山貴紘さんは考えます。

広々とした芝生の中に佇む「shop&gallery SUNABA」
「うなぎの寝床」のもんぺ展のようす
代表の田山さん。自身が売り場に立つことも


鉄器づくりの伝統を生かしつつ、視点を変える。

 盛岡における南部鉄器の歴史は、江戸時代の茶釜づくりからはじまり、今も盛岡市内の鉄器工房には、江戸時代から続く貴重な技術と志が受け継がれています。田山自身、鉄器職人である父を見て育ったものの、仕事を継ごうとは考えていませんでした。
 大学院時代は、白衣姿で研究に没頭。社会人になってからは食品メーカー営業マンとして東海や北関東などを駆け回りましたが、東日本大震災を機に「自分が何をしたいのか、自分にしかできないことは何か」を考えるようになったといいます。2012年末、父親の工房で修業をスタート。職人として学ぶ中、2013年11月に自身が代表を務めるタヤマスタジオ株式会社を設立しました。
 伝統を継承しながらも、今の暮らしにあった鉄瓶の提案をしたいという考えから、2017年7月には新しいブランドとして南部鉄瓶「kanakeno」をプロデュース。ブランド名は、鉄器の金気(かなけ)をネガティブに捉えず手を入れながら使っていくことの価値、「の」の後にいろいろな事業が展開されていくことを示しています。その一環で誕生した「あかいりんご」シリーズは、若手職人育成を目的にした商品であり、工程を検証して可能なところまで簡略化。一方で、変わらぬ機能とシンプルなデザインの美しさを携えた鉄瓶は、今や同社の代名詞ともいえる商品になり、若手のお客様の購入が増えています。

シンプルなフォルムが人気の「あかいりんご」シリーズ
店内では鉄瓶で沸かした白湯の試飲もできます

 既存概念にとらわれず、伝統工芸の製造現場に新しい風を吹き込む田山さん。その視点はビバテラスの「shop&gallery SUNABA」へとつながりました。ギャラリーのネーミングには2つの意味が込められているそうです。
 「ひとつは鉄瓶づくりにおける精密な砂遊びの側面。もうひとつは、公園というロケーションです。砂場は砂遊びをきっかけに人と人との関係が生まれたり、 遊びが生んだ見立てが物語に発展する創造の場。公園を訪れる多様な人々が SUNABA に集い、作品や作り手とつながる。そして、工芸が持つ “寂び” の魅力が、生活に “遊び” をもたらす。そのような場に育てていくことをめざしています」。

SUNABAをイメージしたロゴマーク 
常設作品、遠野市のガラス作家・吉岡星さんのグラス
常設作品・盛岡市の若手木工作家「ぼの」さんのカトラリー
常設作品・盛岡市の轆轤師「桜雲窯」さんのカップ

 こうした考え方の根底には、田山さん自身が鉄瓶づくりの現場で感じたことが影響しているのだとか。
 「私たちには、鉄瓶づくりからいろいろ学んだことがあります。ものづくりの現場にいると、あそびの要素があってこそ、ものとして洗練されていくのだなと感じる機会があり、伝統工芸としての価値が生まれていくと思っています」。

鉄器職人を育む場もめざして。

タヤマスタジオ・shop&gallery SUNABAのメンバーたち

 百を超える工程を経て仕上がるのは鉄瓶だけでなく、あらゆるものづくりに共通すること。モノを通して得る視点を大事にしたい、と田山さん。
 「スタッフも一つひとつ勉強するところからのスタートです。でも、いろんな地域にいろんな文化があることを知り、企画展示を一つ実施する前後では、全然モノや土地の捉え方が違っていくんですね。皆それぞれに面白いと思う範囲が増え、視野が広がっていく。これは変えがたい“あそび”の要素じゃないかと思っています」。
 SUNABAはスタッフも学びながら、お客様と一緒に育っていく場。まだまだ実験を続けていきたいと、田山さん。この先も意外な企画が続きそうですが、さらに自社だけでなく地域の鉄瓶職人を育てる場もめざしています。

ギャラリーから、隣接する工房の様子を見学できます

 「SUNABAの特徴は、発信の場であると同時に、作り手として現実的に起こっている問題や困りごとを体感し、それを解決できるアプローチがあること。今後、他の作り手の支援にもつながっていくはずですし、そこを強化すると、面白い価値が生み出せると思っています」



田山貴紘さん/タヤマスタジオ株式会社 代表取締役社長

「南部鉄器」の製造および販売を行うタヤマスタジオ株式会社。田山さんの父、和康さんは盛岡市内の老舗「鈴木盛久工房」に45年間勤めた南部鉄器職人。現在は「田山鐵瓶工房」を立ち上げ、自らの作品づくりに時間を注いでいる。田山さんは営業マンとして、各地を飛び歩いたのち2012年末に岩手へ帰郷。父のもとで南部鉄器職人の技術を一から学ぶと同時に、タヤマスタジオ株式会社を設立。2017年にはオリジナルブランドの南部鉄瓶「kanakeno」を立ち上げ、2019年にはカフェ「お茶とてつびんengawa」をオープン。そして、2023年2月、ビバテラスにて新たな生活提案の場「shop&gallery SUNABA」がスタートした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?