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10年越しの憧れが、今、ここに。
子供の頃、夢中になって観ていたテレビ番組がある。
「天才てれびくん」
小学2年生から小学6年生まで毎日ほぼ欠かさず観ていた。小学校時代から部活をしていた私は18時まで学校にいて、車で帰ってテレビを付けたらちょうど始まる。
憧れだった。
同じ世代の子供達が様々なことに挑戦する。
子供ながらに自分自身の個性を理解して私たちの記憶に残りながらも、まるでクラスメイトかのように親近感の湧く彼らのことを当然のように呼び捨てで呼んでいたし、学校に来れば毎日友人たちと「昨日の天てれ」の話題で持ち切りだった。
彼らのようになりたくて、親のパソコンを勝手に使って「てれび戦士のなり方」を調べたこともある。
芸能事務所に所属していないとオーディションを受けられないと知り、田舎に住む自分の境遇を憎んだ。
それほどまでに夢中になり、憧れだった番組のなかでも特に記憶に強く残っているてれび戦士がいた。
鎮西寿々歌ちゃんだ。
きっと私と同じ世代で天てれを観ていた人なら必ず誰もが覚えているだろう、人気メンバーだ。
明るくて面白くて可愛いというまさに天に何物も与えられた2つ年上の彼女。彼女の存在で番組全体が明るく、質の高いものになっている気がした。大好きで、憧れだった。
高校2年の秋、Instagramを始めたばかりの私は鎮西寿々歌ちゃんの名前で検索した。彼女のアカウントにはすぐにヒットした。彼女がまだ芸能活動を続けていたことが嬉しく、あの頃と変わらない可愛さに大人の上品さがプラスされた姿に当時の熱を思い出した。
直後の修学旅行でたまたまその話をすると、同室の友人たちがみんなあの頃天てれを観ていた同士たちだった。そのまま一晩中語り合った。
番組では時期ごとに様々なてれび戦士が歌う楽曲が放送されていた。その中で寿々歌ちゃんがソロで歌っていた、「カラフル」という歌の話になった。
あの曲が天てれの歌の中で一番好きだったな、と思い出す。
少なくとも私が観ていた当時、ソロで楽曲を持つメンバーはそれほど多くなかった。そのため寿々歌ちゃんが「カラフル」を歌ったときは嬉しかったし、彼女の天真爛漫な雰囲気にぴったりな明るく軽やかな音楽に心が踊った。小学校で友人たちと毎日歌っていた。
いつかまた、彼女の歌う姿を観れる日が来たらな、という淡い期待は心に閉まった。彼女の今を応援しながら、そっと、インスタの投稿を追いかける日々が続いた。
2022年冬、寿々歌ちゃんのInstagramが更新された。
「新しいチャレンジです。原宿から世界へ。
よろしくお願いいたします🧡🌞🪐」
という言葉と共に、キュートという言葉が良く似合う淡い色の服を着た寿々歌ちゃんの写真。
タグ付けされたアカウントに飛ぶと、プロフィールに「新アイドルプロジェクト」と書かれていた。
「あ、あ、アイドル!?!?」
寿々歌ちゃんはアイドルになった。
画面の向こうに映る彼女の今をそっと応援すると思っていた矢先、心の整理がつかずなかなか手を出す決心が持てなかったが、深夜のノリと勢いでチケットを購入し、先日ついに彼女の所属するグループの初の単独ライブに足を運んだ。
女性アイドルのライブに行くのは初めてである。
ジャニーズのライブしか知らない私に楽しめるだろうかという不安と、憧れの寿々歌ちゃんに会えるというワクワクで胸をいっぱいにしながら会場に着いた。
席番号すら分からず、会場内をうろうろした後「このチケットはどの席ですか?」とスタッフさんに聞いてしまった。自由席だった。
デビューして間もないというのに、会場は満席だった。グッズTシャツやペンライト、うちわすら持っている人もいて、友人だろうか数人で仲良く来場している人が多く、この人たちはどこからこのアイドルを知ったのだろうと思った。
寿々歌ちゃんを知らなければ出会わなかった世界に戸惑いながら、上手側の真ん中辺りの席に着きそわそわしつつ静かに開演を待った。
だが、開演すればもう私の目も脳も、寿々歌ちゃんに釘付けだった。
あの頃憧れた彼女が同じ空間に存在し、目の前で歌って踊っていた。無邪気な笑顔を振りまき、あの頃と変わらない度胸で一発ギャグを披露し、グループのテンションを仕切っていた。
サブスク解禁されてから何度も聴いた歌声。どの声が誰で、どの声が寿々歌ちゃんか知る答え合わせのようで楽しかった。
デビュー直後とは思えないバランスの良さと一体感。歌もダンスもクオリティーが高く、ただ目の前に存在する全てを可愛いで埋めつくされた。心の声は「可愛い、可愛い、可愛い」とただ反芻することしかできないほどに興奮していた。
女性アイドルのライブでは、公演後に「特典会」と呼ばれるメンバーと写真を撮ったり話したりできる時間があるらしい。
アイドルは手の届かない存在で、ただ見ているだけが当たり前、それだけでも幸せになれるのがアイドルを推す醍醐味だという世界に生きてきた私にとっては衝撃で、恐れ多かった。
退場列がそのまま特典会のチケット購入列に繋がっており、私は一旦列を外れた。このシステムに慣れて当たり前のように列に進む人達に圧倒されてしまった。
ほんの数分考えた後、財布の中身を見て決意した。現金がないのを分かっていながら使わないだろうと思い下ろさずに来たけど、チケット代である1500円がちょうどギリギリ入っていたのだ。
今日行かなかったらもう行けないかもしれない。
私は寿々歌ちゃんの特典会チケットを買った。
メンバーごとに列ができていて、私は寿々歌ちゃんの最後尾の目印を探した。
他のメンバーのは見えるのに、寿々歌ちゃんのだけが見えず、ロビーから繋がった列が一つだけ会場内に伸びていた。
辿った先に案の定、寿々歌ちゃんの列の最後尾があった。
一番後ろの人から最後尾の目印を受け取り後ろに並ぶ。同じ世代くらいの若い女性だった。
お互い顔を見合わせ、「ここだけ長いですね」と軽く言葉を交わした。
初めて参加した不安を打ち明けると、彼女は他のアイドルの現場は何度か来ているものの、このグループの現場には初めて来たらしかった。
やはり、天てれのときから寿々歌ちゃんが好きだったらしい。過去に別グループでアイドルをしていたメンバーもいるとその時知ったが、私や彼女のような”天てれ寿々歌世代”がこの飛び抜けて長い列を作っているのだろうと思った。
徐々に前進する列。
ロビーまで進むと、さっきは数メートル先のステージ上にいた寿々歌ちゃんが目の前にいて同じ地面を踏んでいた。
自分の番が近づくにつれどんどん緊張で手が湿っていく。胸がきゅーっとなる。
慣れたようにアイドルと会話するファンたちを見て、何を話そうか考えようとしたけど視界に映る景色に混乱してなにもまとまらなかった。
ついに自分の番。カバンを下ろして隣に立った。
「はじめまして😊ポーズは?」と寿々歌ちゃんに聞かれ、ありきたりなものしか思い浮かばず片手でハートを作ったら反対側に合わせてくれた。
自分の映りなど気にする暇もないまま写真を撮られ、今度は感染対策用のビニールシートを隔てずにマスクをした寿々歌ちゃんと向き合った。
「はじめまして。お名前は?」
「舞です」
デビューしたてとはいえ、ここ数日ライブをしていたのに初めてか初めてじゃないかを把握していることに驚いた。ファンに名前を聞くことに驚いた。
「舞ちゃん?可愛いね!」
「!?!?!?…え!そんな……!」
「え〜目がキラキラしててすごい可愛い!」
この世の全ての可愛いを一身に纏った可愛いの具現化に、お世辞でも可愛いと言われあたふたしてしまう。
「いやいやもうほんとそんなことないです…!天てれのときから好きです」
「え〜ありがとう〜!MAXから見てた?」
「MAXから見てました!もう小学校じゅうでみんなの大スターでした」
とにかくこれだけは伝えたいと思ったことは言えた。これまで何人も対応した中に私のような人は何人もいただろう。それでも私は私の気持ちとして伝えたかった。
「え〜ほんとありがとう!ほんとうに可愛い!また来てね」
「また来ます!!」
この辺で私の時間は終わった。本当に一瞬すぎて言葉の詳細までは覚えていない。興奮していた。
一瞬に撮った写真の私の映りは良くなかったが、それでもこの先何枚写真を撮っても大切なものになるだろう。というかどんなときも寿々歌ちゃんが可愛いので私の映りの悪さはほっといていい。
あの頃、画面の向こうで憧れていた人が同じ空間の数メートル先で歌って踊り、数センチ先で私と言葉を交わした。私に「可愛い」と言った。あの頃の思いを伝えられた。
ライブが始まる前、場の空気に圧倒されて「もう来ないかもしれない」と思った。
でもライブと特典会を経験してしまった今、私はきっとまた来るだろう。また行きたいと思う。
生で体験しないと分からないものがここにはあった。
そして寿々歌ちゃんがどんどん可愛く見えて仕方がない。これからも追いかけたい。